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フランス・季節の仕事~葡萄摘み⑥

朝の食堂では、いつもラジオのニュースが流れていた。

パトロンが読むアルザスの地方紙を横目に見ながら頂く焼きたてバゲットは、私のお楽しみだった。私はフランス語のニュースが好きだ。全部意味が解らなくても、好きだ。ニュースならではの話し方があるように思うのだが、流れるようなフランス語が好きなのだと思う。

以前にも書いたが、ここでの朝食がきっかけで、私はバターが大好きになった。ノルマンディ産のビオの無塩バターが、美味しくて美味しくて、一度で虜になった。これを縦半分に切った焼きたてバゲットにたっぷり塗って、その上にビオの蜂蜜を垂らして食べるのが、お気に入りの食べ方だったが、バター×コンフィチュールの組み合わせで食べる人も多かった。私は、そのバターやコンフィチュールをたっぷり塗ったバゲットを、カフェオレに入れる人を多く見かけたが、コーヒーはコーヒーで楽しみたく、別々に頂いた。

コーヒーに油やパンかすが浮くのも、あまり好きになれなかったのだ。

朝晩は気温がぐっと下がるアルザス。

朝は特に、フリースを着ている従業員もいた。

息も白いのだから、10度もいっていないのではないだろうか。


ある日、広大な葡萄畑で、トイレに行きたくなった。

朝、カフェを飲みすぎたのだ。

言っておくが、ここにはトイレはない。

隠れてするのは暗黙の了解だったが、私は念の為確認した。

すると、「よその畑にしてね!」とジョーク交じりに言われた。

私は小走りで抜け出した。しかし、いくら遠くまで行っても、皆の姿が見える。どこまで行けばいいのだろうか…そんな不安がよぎった時、ようやくカーブになり、やがて人が見えなくなったのだった。

後で、遠くまで行きすぎ!と笑われた。

数日働くと、足腰が痛み始めたが、木の高さは身長と同じ位。あまり腰を曲げなくても、収穫が可能な高さだ。

地方によっては、背の低い葡萄の木もあり、腰を曲げなくてはならず、大変ということだったが、南仏の方は木が低いらしい。

そういえば、こちらへ来てまだ間もない頃、具合を悪くした。

その時、このハーブは〇〇に良いから、とハーブティ―を淹れてくれた。

この時、初めて、Tisane(ティザンヌ/ハーブティー)という単語を知った。

この後、どこに行ってもそうだったが、ここ葡萄農家さんのお宅でも、この後行くブルターニュのBIOの農家さんのところでも、はたまた義理の祖母も、フランス人はハーブの効能を実によく知っており、体調に合わせてまるで家庭にある薬であるかのように使用していた。

そんな生活が、とても素敵に見え、私もフランスにいる間ハーブの本を購入した。それから長い年月が経ったが、読破していないことを今思い出してしまった。

今度、通勤のお供に鞄に忍ばせておこうと思う。

朝も夜も皆一緒な上に、元々毎年葡萄摘みに来るような人達ばかりだったので、アットホームな雰囲気だった。私は新顔ではあったが、日本人の従業員は珍しいのか、皆興味を持ってくれて、声を掛けてくれたり親切だった。

こうして、数日経つ頃から、仕事後に卓球をやるようになった。

最初は若いメンズ3人と私で卓球をしていたが、次の日、また次の日…と徐々にメンバーが増えた為、一回打つ毎に反対側に走り、また打つ!失敗したら抜けていき、最終的には二人になる…という新しい遊びをするようになった。

葡萄畑に響く笑い声…

夜空には、たくさんの星が輝いていた。


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