マーケティングの肝は「新規」か?「CRM」か?ちょっと真剣に考えてみた。
どうも、マーケターのエルモ(@elmo_marketing)です。
今日は、「マーケティングにおいて、新規獲得とCRM施策どちらがより重要か?」について考えてみます。
CRMとは、Customer Relationship Managementの略。顧客と良好な関係を構築し、最終的には売上を伸ばすことを目的としています。
マーケターの中でも、「新規か?CRMか?」という議論はよく起こるのですが、だいたい明確な答えにはたどり着くことなく終わります。実際、「どちらも重要だから」と言ったらそれまでですが、今日はもう少し話を深堀りしてみたい。
そして実は最近、CRM派の意見が強くなってきているように感じます。
たとえば、
-日本は人口減少社会だから、限られたお客様と長くお付き合いしたい
-新規顧客を集める予算なんかないから、CRMに力を入れたい
-ファンを起点にしたマーケティングを進めたい
のような感じです。
ただ、本当に新規顧客獲得ではなく、CRM施策に重きを置くことは正しいのでしょうか?
今日は「新規か?CRMか?」マーケターの中で、いつになっても結論がでない話に終止符を打つつもりで、記事を書かせていただきます。
なぜ新規獲得とCRM施策の間で、マーケターは揺れるのか?
なぜ新規獲得とCRM施策の間で、マーケターは揺れるのでしょうか?
マーケティングには、絶対に破ってはいけない掟があります。まずは、ここを抑えておきましょう。
それが、
「CAC<<<LTV」です。
CAC: Customer Acquisition Costの略で、お客さんを1人得るために必要な経費のこと。
LTV: Life Time Valuseの略で、一人のお客さんが作る売上を指します。
あらゆるビジネスモデルは、ざっくり「単品売り切りモデル」と「サブスクリプション(定期販売)」の2つに分類することができます。(実際は、この中間が多いです)
単品売り切りモデルなら一発で赤い獲得コストを青い売上が上回ること、サブスクなら、顧客獲得コストを何カ月もの売上の総和(=これがLTV)が獲得コストを上回ることで、利益が出てきます。
ただし、どちらのビジネスモデルでも、利益を上げる本質は同じ。「CAC<<<LTV」を実現することに変わりはありません。
ここでCRM(顧客との関係性)の話が出てきます。
「単品売り切り」と表現しましたが、実際には多くの商品がリピート買いを必要とします。
たとえば、スターバックス。
1人のお客さんを獲得するコストが3,000円だったとします。そのお客さんが月に1回フラペチーノを買ってくれるなら、500円×12カ月で、その時点でLTVが6,000円。「CAC(3,000円)<LTV(6,000円)」となります。
このように、「一回の購入で終わるか?」、「繰り返しお客様に手に取ってもらえるか?」で、LTVは大きく変わってきます。
図にするとこんな感じです。
この図を見ていただければ、サブスクサービスに限らず、商売においてリピート化がいかに重要か?が分かると思います。
たとえ多くの新規顧客を集めたとしても、リピート化に繋がらなければ意味がありません。
このように大量離脱が起きてしまうと、お客さんを集めるためのコストだけがかかり、あとあと回収する売り上げが立たない、なんてことになります。
そのため、よくマーケターの間では、「穴の開いたバケツに水をいれても意味がない。さきに穴を塞げ」と言われたりします。
というわけで、いかに集めたお客さんにリピートし続けてもらうか?という意味で、CRMは非常に重要視されています。
ちょっと話が長くなってしまったので、一旦要点をまとめます。
■マーケティングの鉄則
CAC<<<LTV
この鉄則を実現する方法は、
①CACを下げる(低コストでお客さんを呼ぶ)
②LTVを上げる(何度も商品を購入してもらう)
のどちらかしかない。
もうお気づきだと思いますが、ここで、新規獲得派とCRM(≒LTV)派で意見が対立することになります.......
「低コストで良いお客さんを集めよう!」vs「まずはバケツの穴を塞ごう」の戦いですね。
【アンケート】マーケターに新規か?CRMか?聞いてみた。
twitter上で、「新規獲得か?CRMか?」について、アンケートを取ってみました。その結果がこちらです。
わりと予想通りではあったのですが、CRM派が6割強。新規獲得派が3割強という結果になりました。
リプで個別の意見をいただいたので、一部掲載させていただきます。
■CRM派
■新規獲得派
という感じで、わりとCRMのほうが多かったです。というか、新規派の意見はひとつだけでしたw
なかなか壮大な前振りを書いてしまいました。ここから本題に入ります!
3つの視点で、新規獲得とCRM施策について考えてみる
新規か?CRM施策か?どちらか一つを選ぶうえで、以下3つの視点で両者を比べてみます。
①CRM施策のLTVへの貢献度
②シェアとロイヤリティの法則
③新規とCRMの事業全体への寄与度
それぞれの視点を見ていきましょう。
①LTVを決める5要素
まずは、CRMコミュニケーションが、どれくらいLTVに貢献できるのか?にです。
ズバリ、LTVを決める要素は以下の5つに集約されます。
■LTVを決める5要素
1.価格
2.プロダクト力(サービス)
3.お客様の質や購入経緯
4.CRMコミュニケーション
5.次回以降の購入ハードルを下げる導線設計
僕の肌感覚ですが、価格とプロダクト力でLTVの7割、お客様の質や購入経緯(どんな期待感を持って商品を手に取ったか?)で2割、CRMと購入の導線設計がLTVの1割を占める感じです
というのも、お客様が納得していない価格・プロダクトで、CRMコミュニケーションをうまくやったとして、2回目、3回目の購入はありえるでしょうか?
そう。
「LTVを上げよう」と話になったときフォーカスすべきは、CRMではなく、まずはプロダクト・サービスなんです。
snaq.meのCEOもプロダクト改善に力を注げと、ちょうど今日ツイートされていました。
ちなみに、こちらの本「優れた起業家は何を考え、どう行動したか?」では、17組の起業家が「いかにして事業を軌道に乗せたか?」のストーリーが語られています。
こちらの本でも、「CAC<<<LTV」の絶対方程式が出てくるのですが、面白いのは、本書の内容の多くが「プロダクト改善」と「新規顧客獲得」で占められているという点です(資金調達の話を別にするとですね)。
LTVを上げるにはプロダクト改善、CACを下げユーザーを集めるにはまずは新規集客(こちらに関しては当たり前なんですが)、が肝ということではないでしょうか?
ということで、実はCRM施策はLTV改善の一部に過ぎないので、インパクトがそこまでないという話でした。
②シェアとロイヤリティが正比例するダブルジョパディの法則
次に、シェアとロイヤリティ(リピート率)が正比例するダブルジョパディの法則というものがあります。
これは、かなり残酷な話です。
シェアが大きいほどリピート率(LTV)も高くなるため、シェアが大きいブランドは二重にその恩恵を受け、シェアが小さいブランドは二重にダメージを受けることになります。
このダブルジョパディの法則は、こちら「ブランディングの科学」で紹介されています。
たとえばこの図のように、シェア(市場占有率)とロイヤリティ(購買頻度)は見事なまでに正比例しちゃうそう。
「ブランディングの科学」より転載
実際、英国でのシャンプーのシェアとリピート率は驚くほど比例しているんですね。
きっとほかのブランドでも同じことが言えて、スマートフォンのLTVはシェア一位のAppleが最も高いでしょうし、カフェのLTVはこれまたシェア1位のスターバックスが最も高いはずです。
これが、シェアとリピート率が比例する残酷なダブルジョパディの法則の正体です。
ここで、ひとつ疑問が湧くのではないでしょうか?
ファンを起点としたサブスクリプションであれば、その限りではないのでは?と。
この問いに関しては、そのサービスが唯一無二の商品でない限り、つねに同じカテゴリー内で競争にさらされるため、結局はダブルジョパディの波に飲み込まれると考えます。
ここから、本書でも取り上げられているダブルジョパディの法則を証明する簡単な思考実験を紹介します。
たとえば、ある製品カテゴリーに2つのブランドしかないとします。顧客からすると、2つしか選択肢がない状況です。
世の中の人口が1,000人で、大規模ブランドのシェアが8割(800人)、小規模ブランドのシェアが2割で、毎回100人の顧客スイッチが起きるとすると、このような図になります。
ここで、各ブランドの離脱率について考えてみます。
■大規模ブランドの離脱率
12.5%(100/800)
■小規模ブランドの離脱率
50%(100/200)
このように、ある製品カテゴリー内でブランド間を移動する人数は変わらないので、シェアの高いブランドは離脱率が低くなり、シェアの低いブランドは離脱率が極端に高くなります。これがダブルジョパディの法則の裏側です。
ということでして、本書の著者バイロン・シャープ先生は、「マーケターは離脱率をコントロールすることができない。強いてコントロールできるのは、シェアの増減だけだ」と言っています。
このダブルジョパディの法則の観点からも、CRMより新規集客に特化したほうが良いのではないか?ということが、伺えます。
そもそも、マーケット内で比較の争いに巻き込まれると、離脱率をコントロールできないわけですから。
ただですね、、、、
僕自身「ダブルジョパディの法則」をもってしても、納得できない部分があります。それは新規集客のコストが年々上がってきていること。だからこそ、CRMは大事なのではないか?という考え方です。
ただこの意見も、よくよく考えてみると打ち砕かれることになります・・・・。
③CRMだけでは、右肩上がりの成長を実現できない
CRMは、顧客との関係を構築し、リピート率を高めていくことを目的とします。とはいえ、どんなに頑張ってもリピート率100%を実現することはできません。
たとえば、サブスクリプションでリピート率9割を実現できたとします。それでも、売上推移はこのようになってしまいます。
既存の顧客数に0.9を毎月掛けていくことになるので、顧客と売上はべき乗で減っていくことになってしまいます。
仮にリピート率100%を実現できたとしても、売上維持が限界です。
売上や利益の右肩上がりを前提とする資本主義において、CRMだけでは成長を実現することはできません。
実際、宅配サブスクリプションの大手Oisixの決算資料からも、新規獲得を重視していることが分かります。こちら、決算資料の一部抜粋です。
オイシックス・ラ・大地IR資料より抜粋
このグラフを見るとわかるように、リピート顧客の売上は次第に減っていくことを見越して、新規の獲得を続けていることが分かります。
D2Cの雄「北の達人」さんのIRも見てみましょう。
北の達人コーポレーションIRより抜粋
既存顧客からのリピート売上を基盤に、着実に売り上げを伸ばすことを戦略としています。
しかし一方で、大量の広告宣伝費を新規獲得にまわしている事実があります。
このように、右肩上がりの成長を実現するためには、新規顧客の獲得が不可欠なんだと思います。
結論:資本主義では「新規顧客獲得から逃げるべからず」
ということで、「新規か?」「CRMか?」の究極の二項対立論に対する結論は、「新規獲得から逃げてはいけない」です。
・CRMがLTVに寄与する割合は意外と低い
・ロイヤリティがシェアに比例してしまう
・資本主義ゲームで右肩上がりの成長が不可欠
この身も蓋もない視点を踏まえると、やはり「新規顧客の獲得が最重要」なんです。
新しい血を作り出さないコトには死んでしまう人間に似ています。
ということで、新規か?CRM?という話はいったんおしまいです。
余談:成熟してしまったマーケットではどうしたらいいのだろう・・・・
新規を取りに行かなければ死ぬとはいえ、マーケットのパイが限られている中で、売上を増やし続けるのって相当シンドイですよね。
売上拡大・新規獲得に行き詰ったときにどうするべきなのか?
みんな大好きAppleの事例で考えてみます。
こちらがappleのここ15年間の売上推移です。
Apple's net income worldwide from 1st quarter 2005 to 2nd quarter 2020より
ジョブズ亡き後、「もうappleは終わりだ」と批判にさらされ続けてきたわけですが、右肩上がりの成長を実現しています。この要因のひとつは、つねに新規顧客を取り続けてきたからだと思います。(iphoneを値上げしているのも一因ですが・・)
たとえば、ゴールドのiPhoneをローンチしたのは、金が大好きな中国人向けの施策だと言われていたくらいです。売上を最大化するために、徹底的に新規顧客の面を広げていく。そんなappleの狙いが透けて見えます。
こちらが、appleの中国市場での売上推移。
2010年から超右肩上がりなんですが、2015年でピークを打ってしまっています。「iPhone欲しさ」で市場が拡大していくにも限界があるんですね。
世界で一番デカいマーケットで頭打ちになってしまったにもかかわらず、それでもappleの売上が伸び続けているのは、「apple watch」と「AirPod」のおかげです。
既存売上(appleの場合iPhone)と別カテゴリーの新商品を出すことで、ゼロからマーケットを開拓することができます。
理論上、別カテゴリーで新商品を出すとシェア0%からのスタートなので、伸びしろは無限大です。
ふざけてるように聞こえるかもしれませんが、マーケットが成熟し、新規顧客の獲得が難しくなってきたときのひとつの戦略は、別市場で戦うことなんです。
先ほど紹介した北の達人コーポレーションも、もともとは健康食品を売り物にしていましたが、今は化粧品を売ることで売上を拡大しています。
身も蓋もない話なんですが、限られたパイの中で右肩上がりの成長をし続けている会社はどこも、2本目、3本目の矢を別市場に打ち込んでいることが非常に多いです。
なのでもし、「もう新規獲得ができないから、CRMに力を入れよう・・・・」と、後ろ向きの決断をしている方がいたら、既存売上と別の市場で戦うことを考えてみてください。
新商品開発は、言うは易し行うは難しの究極例なので、簡単に言うなって話ですが、現実にはそれしか生き残る道がないのもまた事実。
同じモノで売上を立て続けられる事業は、ほんの一握りです。
ということで、本日はここまで。
一言でオチをまとめると、
「CRMと新規獲得どちらも大切ですが、新規獲得を諦めたら試合終了ですよ。もし諦めるなら、CRMではなく新商品開発に力を入れましょう」というお話でした。
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