見出し画像

だから、僕は盗んだ。

全ての可能な文字列。全ての本はその中に含まれている。
しかしとても残念なことながら、あなたの望む本がその中に見つかるという保証は全くのところ存在しない。これがあなたの望んだ本です、という活字の並びは存在しうる。今こうして存在しているように。そして勿論、それはあなたの望んだ本ではない。

前置きはいいから話そう。
あるとき、思いついたんだ。
この歌が僕のものになれば、
この穴は埋まるだろうか。

だから、僕は盗んだ。

ああ、何かが足りない。
これだけ盗んだのに少しも満たされない。

ああ、まだ足りない。
もっと書きたい。
こんな詩じゃ満たされない。

全ての可能な文字列。全ての詩はその中に含まれている。
しかしとても残念なことながら、あなたの望む詩がその中に見つかるという保証は全くのところ存在しない。これがあなたの望んだ詩です、という活字の並びは存在しうる。今こうして存在しているように。そして勿論、それはあなたの望んだ詩ではない。

全ての可能な文字列から、
僕は盗んだ。

そうだ。

何もかもなくなって、
地位も愛も全部なくなって、
何もかも失った後に見える夜は本当に綺麗だろうから、
本当に、本当に綺麗だろうから、
僕は盗んだ。

全ての可能の文字列も全部なくなって、
何もかも失った後に見える夜は本当に綺麗だろうから、
本当に、本当に綺麗だろうから、

もっと書きたい。

この心を満たすくらい、美しいものが知りたい。

まだ足りない。まだ足りない。
まだ足りない。まだ足りない。
まだ足りない。僕は足りない。
ずっと足りないものがわからない。
まだ足りない。もっと知りたい。

この体を溶かすくらい、美しい夜を知りたい。

【出典】
『Self-Reference ENGINE』円城塔『盗作』ヨルシカ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?