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その日はとても「至福」でした〜メズム東京 オートグラフコレクション〜

こんなにも素晴らしい景色を見ながら、芸術を見て、美味しいをスイーツを食べる。なんてことだ。「至福」なんて凡庸な言葉で集約してしまうのは勿体ない気がして、自分の中にある相応しい言葉を探ってみたけれど無理。
「最高」「尊い」「マジやばい」…駄目だ、ありきたりワードしか出てこない。これまでの人生、何を経験してきたんだ。最終的には「豚に真珠」とか浮かんでしまった。相応しい人間になりたい。


メズム東京 オートグラフコレクション
「ファイファー(Fifer)」
エドゥアール・マネ作
「笛を吹く少年」をモチーフにしたアフタヌーンティー

この作品は、数ある有名作の中でも私にとって少しだけ特別なもの。
上京して、本格的な美術館なんて初めて行った。
初めての自分で買った分厚い図録。その表紙が「笛を吹く少年」だった。熱心では無かった私はその内容をあまり深くは読み込まなかったけれど、部屋のアンティークとして大切に本棚にしまっていた。だから、幾度も私の目に触れていた作品だったから。

「記憶の固執」「真珠の耳飾りの少女」「最後の晩餐」から続く第四弾。
残念ながら毎回は行けなかったが、今回のは特にどうしても行きたいと思っていたんだ。

しかし残念ながら平日限定。仕事を調整しないことには予約ができない。だからタイミングを見計らっていたのだが、数日後に半休を取れそう、というタイミングでこのアフタヌーンティーの予約も取れたのだ。

行きたいと思って、行けると思ってちゃんと調べて良かった。


一杯目のペアリングモクテル

映え過ぎる。
まあ、ちょっと落ち着いて見てくれ。

ばばばば映え過ぎるっっっ!!
ナニコレ、えっ、別世界に来ちゃった。

和柄模様が美しい。これが飲みもの?え、器、傾けちゃって大丈夫?
これが、シンプルな市松模様だったら、ちょっとお腹いっぱいな気持ちだったかもしれない。ここ1年でその柄は見飽きた。

けれど星のような和柄は、もの凄くハイパー可愛いでございまする。

あれ?なんで西洋美術モチーフのアフタヌーンティーに和!?!?
ゴッホやマネがジャポニズムの影響を受けて作品の中にちらほら浮世絵が取り入れられたりしているのは、少し西洋美術に触れた事のある人にとっては有名過ぎる話。しかもそのあたりを突かれると、なんだか「私は知ってるんだぜ」的な嬉しさがあるし、全く知らなかった人にとっては「へえ」と興味を惹かれる話題かもしれない。

ともあれ美しい。美し過ぎる。
日本人で良かった、日本で生まれ育って良かった、なんて思わせる程の美しさだ。懐かしさと新しさと自然の美がそこにはある。

舌触りも面白い。
そっと一口。上の模様の、特に濃いところが、不思議なモチっとした感じ。何なのかよく分からないが、うっすい求肥が乗っているみたいで、ちょっと楽しい。

味わいも面白い。
甘酒・抹茶・ほうじ茶・柚子をブレンドした和風テイスト。
もう色々な好きを詰め込み過ぎて、何味と言うべきなのか分からないし、なんでこんなに色々混ぜ合わせて美味しいのか全然分からない。
分からないが、不思議とホッとした懐かしさもどこか感じるような。いいや、でも相当奇抜な味でもある。

キレのある鋭い酸味がひんやりと。
絶対切れ味の良い美しい刃物で肌をなぞる。しかし怪我など全くせずにむしろ心地良い、みたいな。そんな不思議な甘い酸味に、一口飲む度ドキリとする。

「自家製芋ようかん」は、ちょっとオマケ的なポジションで考えてしまったのだけれど、とんでもない。美味し過ぎて、というかその滑らかさが尋常で無さすぎて。感動を通り越えて、呆然としながら食べてしまった。
芋を…飲めるっっ!!!

感動の後、少しして、ハッと広がる柔らかな甘さに気が付く。


3種ディップソースを添えたスペインの焼菓子「チュロス」は、提供された瞬間の甘い香りがまた罪深い。触ると、まだほんのり温かい。

1つ目は、レモン系の柑橘なディップソース。

軽快な酸味がサッパリと心地良い。
天気の良い日にテラスで食べるリッチな朝食みたいだ。

2つ目は、ビターチョコレート。
王道なチョコレートパフェの、グラスの縁についたチョコや下に溜まったチョコが好き。サラリとしてビターな味わいに、少し大人になった気がして嬉しくなったあの頃の自分を思い出す。

そして3つ目には、スペインのスパイスを使ったディップソース。
甘いような、少し辛いような。ソース、というよりもフムスみたいな舌触り。一番"食事"を思わせる。

そうしてメインである「笛を吹く少年」を甘いスイーツで表現したケーキ。
とんでもなく可愛い。

特徴である笛は、細長いココアクッキーで表現されている。
サクサクと、音を奏でながら。凄く楽しい。
帽子は甘酸っぱいチョコ。大胆にガリッと食べた時の贅沢感が、広がるベリーの味わいが忘れられない。

散らばるピスタチオ一つ一つが、なんだか凄く良い。
これは何を表現しているんだろうな。

少しグリーンが混ざったような不思議なモヤのような背景だろうか。
それとも、草原で笛を吹いている、というイメージ?
少年らしい軽快さを表したかったのかも。
答えは分からない。
でもそういう想像が膨らむこと。やっぱりスイーツって美術と通じるものがある。楽しいな。

大学での西洋美術のゼミでも、専門的なことなんてほとんど扱わなくて、「この絵からはどんな音が聴こえますか?どんな匂いがしますか?」なんてことばっかり考えさせられたっけ。

ナイフで切ってみると、これはなんとまあ。想像以上に複雑な構成。
見た目はちょっと、ゲゲゲの鬼太郎にでも出てきそうな妖怪っぽい。

ココアにチョコクリーム、それにバニラブリュレ。赤ワインを使ったソースはトロリとゆっくり流れ落ちる。

上は主に「チョコ!」という印象が強い。
そして下、土台はベリー。フレッシュなベリームースとスポンジが華やかに。チョコとベリー。二つのケーキが合体した、という印象だ。1つずつ、というよりも、ガッツリと思い切って一緒に食べるのが良し。
このアフタヌーンティーは、王道にイメージされるものとは少し違って、前菜とメイン、それにペアリングドリンク2種、食後の珈琲or紅茶という、コース料理のような構成。だから色々な味わいを次々に、という感覚とは少し異なるのだけれど。なんだかこのケーキ1つで、口の中に同じ世界観の色々な味わいが広がり、それはまさしくアフタヌーンティーを楽しんだ口になる。

二杯目のペアリングドリンク

スパイスたっぷり!ケーキの甘さが少し重めだからこそ、このくらい強く惹き付けられるようなフルーティーでスパイシーな、透き通る酸味の強さが心地良い。

そして最後に、コーヒーでホッと一息。

食べ終わった頃には、入った時とは雲の位置が、空の色が大分変っている。
限られた世界での至福な時間。ずっと続けばいいなあ、という思いとは裏腹に、残酷な程に進んでいく時間。

そんな切り取られた空間と時間も含めて、とても素敵な時間を過ごせた。午前中は仕事だったなんて嘘みたいだ。
半休というと、なかなか行けなかった病院に行くとかいう人も多いだろう。私も時々やる。だって、仕方が無いもの。けれど時々は、こんな贅沢な使い方もいい。いつもは短すぎて怖くなる1日という時間。確かに短いのには変わりないのだけれど、全く異なる時間は、なんだか2日生きた気分にさせてくれる。

あぁ、やっぱり「至福」以外の言葉が思いつかないや。

とても至福な時間を過ごした、とある平日のお話。

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