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マガジンハウスの書類選考に落ちた日

懐かしい日記を発掘してしまった。(長いです)
読み返すと切ない......そしてなんか若い。
過去の自分に声をかけるとするなら、授業に遅刻するのを何かのせいにするのはやめよう。

2014年6月4日
 鈍いバイブ音が響いた。しばらく選考のメールなんてなかったから、どうせまた聞いたことがない引越会社の説明会案内か、「ES不要!選考直結!」とかいう胡散臭いタイトルのメールだろうと思った。またそれだったら今度こそリクナビの会員やめてやる、と心に決めて、かばんから携帯を取り出した。 

 「【マガジンハウス】書類選考結果のお知らせ」久しぶりに感じるこの緊張感。メールに明記された自分のIDを手早くコピーすると、ログイン画面にペーストして、大体のパスワードに使っている自分の学籍番号を打ち込んだ。確認ボタンを押した瞬間から、私の目は何かの手がかりを探すように、画面の上を動き回る。一秒もかからないうちに、私の目は「今回はご希望に副うことができませんでした」という一文を捉えた。あとは読むまでもなく、お決まりの「お祈り致します」だ。大体、副う、ってなんだよ。なんて読むんだよ。さすがに書類は通過すると思ってた。選考だるいな〜と一瞬でも思った少し前の自分が恥ずかしい。雑誌の編集部でインターンしてるからって、少し天狗になっていたのかもしれない。でもあまりに唐突で、あっさり落とされたもんだから、特に感情も湧かない。ただ作業を続行する気にはなれなくて、Macをスリープモードにして、足早に建物を出た。

 美味しいパンでも食べたいな。宮益坂の下に評判のパン屋さんがあるけど、渋谷に下る気にはなれなくて(あの人ごみも嫌だし)、近場のドンクで済ませることにした。裏道を一本間違えて、やっと見えたと思ったら、あるのは看板だけ。お客もパンも何もない。いつも大通りから看板を見てドンクがあると思ってたけど、とっくに閉店してたんだ。なんだよ、これ。今日はいい日になるって期待してたんだよ? A子の家にお泊まりだから、朝から気合入れて身支度したのに、ドタキャンされるし。支度に時間かけたせいで1限出れなかったし。授業に出たら下級生ばっかりで肩身狭いし。絶妙なタイミングで、その授業を取ってるM子の「オールからの海までドライブ♡青春♡」っていうツイートを発見するし。「誰かお茶しよ〜!」っていうツイートには誰も反応してくれないし。書類選考で落ちるし。パン屋は閉店してるし。

 ここまでBADコンディションが揃うと逆に今日は記念すべき一日なのかもしれない。私は仕方なくアンデルセンに向かって歩き始めた。駅を超えて信号を渡らないといけないから、めんどくさかったんだけど。特にめんどくさいのは、表参道の交差点付近には、ちょっといかついかんじの美容師がいつも3人はいて、黒髪ロングの私は格好のターゲットなのだ。そのオファーをいつも通り「今急いでるんで…」と申し訳なさそうな作り笑いでかわして店内に入った。思えばここに入るのは初めてだ。店中に立ち込める温かくて香ばしい空気。表面がカリッとしてツヤツヤのタペストリーやパイを見ていたら、今日起こった嫌な出来事から一瞬解放されるような気がした。小さいデニッシュの量り売りコーナーがあって、歯が悪いうちのおばあちゃんもこれなら簡単に食べられるかなって考えながらぼーっと見ていたら、礼儀正しく「お取りしましょうか?」と言う店員さんの声が聞こえた。
 「はい、お願いします」
 「あれ…?そうぶん?だよね?」
驚いた。同じ学部のYちゃん、そういえばここでバイトしてたんだ。顔見知り程度だけど、私は彼女のことをよく知ってる。可愛くて、アメフトのマネージャーで、内部生だから有名なんだ。アナウンサー志望だったけど、うちの母も勤めてる保険会社に就職が決まったって誰かが言ってた。でも彼女は私の名前を知らない。だから私もYちゃんとは呼ばなかった。
 「どれがいい?ラズベリー?」
 「どれも2個づつで...」
この店の清楚なネイビーと白の制服がすごく似合ってる。慣れた手つきでパンを薄紙にくるんで、ビニール袋に入れると、すかさずおつりをくれた。そして最後に小さく手を降ってくれた。私はぎこちない足取りで店をあとにする。地下鉄の階段を下りながら、Yちゃんのことを考えた。うちのお母さんは子会社だから給料安いけど、本社の男性はすごい稼ぐって言ってた。きっとそういう男性と幸せな結婚するんだろうな。私の対極にいるような子だ。

 家に帰ると今日のあまちゃんをもう一回見ながら、さっき買ったパンに手をつけた。「あ、美味しい。豆乳飲も」 ぼんやりチャンネルを変えると、サッカー日本代表の試合がやっていた。対オーストラリア戦。この試合の結果でワールドカップに行けるかどうか決まるらしい。そういえば今日はTwitterのTLがざわめいてたっけ。前半はほぼ終わっていて、0-0。後半もなかなか点が入らなくて、最近お気に入りの携帯ゲーム、ウインドランナーをやりながら横目にサッカーを見た。後半38分、オーストラリアが点を入れた。(リプレイで見た)うわ、あと7分、やばいじゃん。でもそれから3分くらいして、ゴール際で相手がハンドしてPKになった。スタジアムのざわめきがこっちまで伝わってくる。解説の人が「残り時間を考えると、これがラストチャンスですね。日本がワールドカップに出場できるかどうか、本田にかかっています!!!」とか言うから一気に緊張しちゃう。そんな…これメンタル的に辛すぎる。「本田、もし外しても、私は責めないぞ。」そんな心配をよそに、本田は軽く決めた。選手もサポーターも歓喜に包まれる。私は生中継で、彼の強靭すぎるメンタルを目の当たりして、いつの間にか涙を流していた。別に熱狂的なサポーターってわけではないんだけど、勝手に励まされた気になったのかもしれない。今日一日が丸く収まったようなかんじ。うん、こんな日もありかな。

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