祖母の威厳
2014年6月7日(土)
うちの祖母は料理が下手。すぐ何かの悪口を言う。愛用の香水はミスディオール。つまり、世の「おばあちゃん」のイメージとはかけ離れている。祖母の作る味噌汁はなぜか薄いし、カレーはルウを使っているのにどこか美味しくない。煮物は論外。それ以外の料理は作らない。しかも耳が遠いからなかなか会話が成立しなくて、イライラするから最近では話しかけることもなかった。
今日は祖父の十七回忌ということで祖母とご飯を食べに行くことになった。私の知らない裏道をスタスタと歩いていく彼女を見て、久しぶりに頼りがいを感じていた。よく見ると、グレーのセットアップに水色のレザーのバッグがよく合っていて、この人が生粋のおしゃれさんだったことを思い出す。
グリル グランドという洋食屋に着いて、「ここ!アド街でやってた店!やっくんも来る店!」と内心興奮していたら、お店の人が「あっ」と祖母に気付いて、丁寧に招き入れてくれた。席に着くと、品はあるが気さくな女将さんが「あら、お孫さん?おばあちゃま、相変わらずお綺麗よねぇ~!」と話しかけてきて、私は堅めの笑顔で「どうも~孫です~」と挨拶をする。このかんじ、何年ぶりだろう。昔浅草にあったレストランのボンソワール、ミモザという喫茶店、銀座の中華ローラン、小さい頃連れられて行った店では大抵、祖母の少し誇らしげな孫紹介に苦笑いで付き合った。お店の人は幼い私をお嬢様扱いしてくれて、それに関してはむずがゆくも嬉しかった。
そんな記憶を辿っていて思い出す。祖母はいつも食べる・買う専門だ。とにかく美味しいと聞けば出かける、グルメな人だった。祖母と私にも共通の趣味があったのか。というかそもそも、自分が食べることが好きなのは、この人の食教育を受けてきたから?
特にお菓子に関して祖母はよく知っている。栄久堂の鮎にソフト、小川のどら焼き、小桜のかりんとう、むぎとろの三代目、船橋屋のくずもち、一番館のポームダムール、泉屋のクッキー、神戸風月堂のゴーフル……改めて、やっぱり本当に美味しい、懐かしいものばかり。これがうちのおばあちゃんの知恵。普段の祖母に呆れ気味の母も、これには太鼓判を押す。
そんな話で久しぶりに会話が盛り上がった。それから最後、デザートで出てきたレモンシャーベットを見るなり、「これ、自家製なのよ」と自信たっぷりに教えてくれる彼女を見て、数年ぶりに祖母の威厳を感じたことは秘密の話。
店を出た後、近くにあるルスルスというお菓子屋さんで、猫のサブレをお礼に買った。最近雑誌にも載って、流行ってるお菓子屋さんなんだよって言って。
祖母「へぇ~今って、こういう雰囲気のお店多いわね。気付かなかった~ここって前まで居酒屋さんだったでしょう?」
店員「お好み焼きやさんだったみたいです」
祖母「ねぇ~居酒屋さんだったもんねぇ~」
料理できなくたって、聞こえてないのに聞こえてるふりしたって、親族内で問題起こしたって、諦め半分、どこか憎めない、そんな祖母。
懐かしい日記が出てきた。これを読むと、祖母に優しくしないと、と思う。定期的に読み返すことにしよう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?