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『パリの砂漠、東京の蜃気楼』金原ひとみ(集英社)

 パリでの、東京へ戻ってからの、それぞれの毎日を描く。小説を書くことと音楽を聞くことを救いにしながら、何とか日々を生きていく。エッセイではあるが、一冊を通して読むと、小説のような味わいがある。気になった文を引く。

〈臨界点を超えた関係の根拠は、どんなに丁寧に言葉にしても全てこじつけにしか聞こえないのだ。〉
〈人の傷つきやすさ、人の傷つけやすさ、全てが恐ろしく感じられた。〉
〈「誰か本音を話せる人がいるの?」
「大丈夫。私は小説に本音を書いてる」
「ずっとそうやって生きていくの?」
「そうやって死んでいく」〉
〈寂しさは人を狂わせ、寂しさを盾に、人は人を傷つける。こんなに惨めなことはない。苦痛のない世界を求めているだけなのに、どうして人は傷つき傷つけてしまうのだろう。〉
〈嫌がらせをされたら相手を殺したいと思う人間になりたい。暴力を受けたら何かしらのやり方で倍返しする人間になりたい。それなのに私は死にたいという言葉で安易に自分の憤りを処す人間で在り続けている。悲惨だな。〉
〈無職で離婚できない人と生活のために仕事を辞められない人とどっちが自由かなんていう比較には意味がない。〉
〈大人になっても仕事をしても親になってもこんなに寂しいなんて思わなかった。こんなにも癒やされたくて、こんなにも誰かを求めてしまうなんて思わなかった。〉
〈偽善でも何でも、書かなければ生きられない、そして伝わると信じていなければ書けない、私は生きるために伝わると信じて書くしかない。どうやったって、この人生の中で信じることと書くことから逃げることはできない。〉
 自分自身の生き方を振り返って、刺さってくる文も多かった。

集英社 2020.4. 1700円+税

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