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主流派経済学の不都合な真実

ツイッターを始めてから様々な主流派の方々とお話させていただいた。
今から思えば当初の私は経済について本当に無知でマスコミの垂れ流すミスリードを簡単に信じていた。
私がこれだけ経済に詳しくなれたのも主流派の方々のおかげとも言えるだろう。
今回はその恩返しの意味も込めて、主流派経済学の不都合な真実を暴きたい。

主流派経済学の基本的な考え方

主流派経済学では政府の財政支出は市場を歪め、自由な競争を阻害するので全て悪と考える。
そのため財政支出を極力減らし、規制緩和し、政府の影響力をできるだけ削ぐ、小さな政府を志向する。
国民自身の生活が困窮してもそれは自己責任とする。

主流派

財政健全化をより重視する増税派(新自由主義)が一般的だが、より急進的な減税派(リバタリアン)も存在する。

主流派経済学が考える市場の失敗

主流派経済学は市場が判断することが何よりも正しいと考える。
実はそんな主流派経済学も市場が完全無欠とは考えていない。

失敗

主流派経済学では市場の失敗を次の4だけと定義している。
①規模の経済と独占企業
 大企業や独占企業が新規参入を妨げ、価格競争が起きない
②外部不経済
 安全確保や環境保全を考えない企業が価格優位性を持つ
③公共財の提供
 警察や軍隊などお金を取ることができない公的なサービス
④情報の非対称性
 売り手と買い手が持つ情報に差があることで価格決定において売り手が有利になる
だが、現実には市場の失敗はこの4つにとどまらない。

市場は景気の波を増幅させるように動く

市場は景気の先行きを予想し、景気拡大を見込むと投資を増やし、景気減速を見込むと投資を控える。
景気が良いときはイケイケドンドンでほっとけばどこまでも拡大し、バブルを形成する。
景気が悪いときはコストカットを続けどこまでもシュリンクしていく。
景気の波をできるだけ小さくするには政府による調整が必須となる。

景気の波

自由市場はわがままな性格で、その本領を遺憾なく発揮するには政府による温室管理が必要なのだ。

市場は経済合理性に逆らえない

国民の生活の質を高めるために必要なことであっても、そこに経済合理性がなければ企業は取り組めない。
市場は儲けが出ることについては得意でドンドン効率化し、開発も進む。
しかし、儲けの出ないこと、失敗の可能性が高いこと、儲けが出るまで時間がかかることはなかなか進まない。
例えば太陽光パネルは大震災以降に政府が経済合理性を与えたことで一気に普及が進んだ。
他にも民間に任せていてはなかなか進まないので、政府が進めるべき投資は山のようにある。
詳しくはこちらのブログ(待ったなし!政府投資が必要な分野)でもまとめている。

合理的思考

市場と政府のどちらが優れてるということではなく、役割や出来ることがそもそも違うのだ。
民間が得意なことを政府が奪うのも、民間ができないことを政府がしないのも、愚かなことだ。

市場は弱者を必ず生む

ルールできるだけ廃した市場は強者に有利である。
そして、必ず敗者や弱者を生む。
これは実は新自由主義の旗手であるミルトン・フリードマン自身も言っていることである。
弱者救済のために負の所得税を提唱もしている。
負の所得税とは最低生活水準を保障するため、所得が一定基準に満たない人に対し、最低所得との差額の一定率のお金を逆に給付するシステムだ。
この負の所得税の是非は他に譲るが、要は弱者が生まれるのは市場の必然、宿命であり、自己責任ではないということだ。

弱者

強者の中には弱者のために多くの税金が投入されていることで、弱者から搾取されていると錯覚している方もいる。
が、現実には市場というシステムそのものが弱者から搾取するシステムなのだ。

負の所得税は言わない、主流派経済学(を盾に取る人)の詐術

ところが、この必然を敢えて無視し、弱者は自己責任とする論者に多く出会う。
それに負の所得税について触れる人はほとんどいない。
これは新自由主義のうち、自分にとって都合の良いところだけをつまみ食いした詐術である。
単に弱者から富を奪おうとする収奪者に過ぎない。
主流派を名乗るのもおこがましいと私は思う。

本音は別にある

このような詐術は他にもいくつかあるので紹介したい。

「構造改革や合理化で無駄を排除すれば経済成長する」は詐術

ちゃんと経済成長をしていた時代は会社に利益を残しても税金で多く取られるので、福利厚生や投資にドンドン使うという流れが多かった。
ところがこの流れが97年金融危機を契機に一気に変わった。
倒産や不良債権の増加が止まらない中で、将来の成長を見込んだ投資や借入がバッシングにあった。
カルロスゴーンなどはコストカッターの異名を持ち時代の寵児だった。
金融ビッグバン以降、資金調達手段が銀行借入から株式にシフトことも原因である。
株価を意識すると思いきった投資はしにくい。
民間だけではなく政府まで財政健全化を目標とし、公共事業を無駄なものとして削減した。
構造改革と称して公的企業の民営化や規制の緩和が行われた。
結果としてこれらの試みは再び経済を成長軌道に戻すことはできなかった。

コストカット

なぜだろうか。
簡単な理由がある。
無駄と言われるものを削減すればその企業の利益は確かに上がる。
しかし、その無駄と判定されたサービスや商品を提供していた企業の売上は下がる。
売上が下がれば当然賃金も下がる。
無駄の削減をすればするほど日本経済全体の賃金は下がるのだ。
だから「構造改革や合理化で無駄を排除すれば経済成長する」は詐術である。
ただ、無駄使いを減らしてその分をより効率的なことに使えばそういうこともない。
が、現実には企業の現預金は右肩上がりで、無駄(賃金)の削減だけで止まっている。

「成長なくして分配なし」は詐術

岸田総理は当初こそ「分配なくして次の経済成長なし」と息巻いていたが、最近では元の「成長なくして分配なし」に戻りつつある。
ところがこの「成長なくして分配なし」も「分配なくして成長なし」も間違いだ。
何故なら現実に起こってることは「成長しても分配なし」だからである。

成長

正しくは「賃上げなくして、成長なし」である。
詳しくは(「賃金をあげるために生産性が必要」は嘘だった!)で書いてるのでこちらも合わせて読んでいただきたい。

「雇用規制緩和で賃金が上がる」は詐術

アメリカには雇用規制がない。
そのために企業は社員を自由にリストラできる。
人員配置を最適化できるので賃金が上がる。
リストラの対象者も次の仕事がすぐ見つかるということらしい
だから日本でも雇用規制緩和をすれば、労働移動が活発になり、人員配置が最適化され、賃金が上がるというのだ。
これには当然詐術がある。
雇用規制緩和は求人を増やすかもしれないが求職者も増やすので、規制緩和自体が賃金を上げることには繋がらない。

自由だー

雇用規制のないアメリカにおいても、当然、不景気ならば仕事が減り就職が難しくなる。
雇用規制と就職のしやすさは大きく関係はしない。
仕事の数より求職者が多ければ就職しづらいし、仕事の数より、求職者が少なければ就職しやすい。
だから、アメリカ政府は雇用対策に熱心だ。

バイデン米大統領は2022年8月9日、520億ドル(約7兆200億円)の補助金・奨励金を盛り込んだ国内半導体業界支援法案に署名

会社四季報オンライン https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/610394

米ジョー・バイデン大統領と超党派グループは2021年7月28日、異例で巨額のインフラ投資予算で合意。予算を記した「インフラ投資・雇用法」は総額5,500億米ドル(約60兆円)で、将来の米国の経済競争力と経済成長、雇用創出のため、交通、インターネット、送配電、水等のインフラ整備に投ずる。これによりの高い雇用を今後10年間で平均200万人分増やすことを掲げた

https://sustainablejapan.jp/2021/08/04/infrastructure-investment-and-jobs-act/64727 @SustainableJPN

他にもグリーンニューディールや軍事関連、海外企業誘致なども熱心にやっている。
本当に雇用規制緩和だけで劇的に変わるなら、このような支出は、不要なはずだ。
雇用規制緩和を唱える方はほとんどアメリカがこのような雇用対策を同時に行っていることには触れない。
政府の支出は社会主義だとまで言う方までもいる。
アメリカは社会主義なのだろうか。

「解雇規制緩和で雇用流動が起きる」は詐術

生産性が低いのは解雇規制のためにその会社が考える不要な人材を抱え続けなければならないから、というのが主流派の考え方だ。
その人材がもっと活躍できる場に流動すれば生産性が上がるから、解雇規制緩和が必要と唱える。

解雇

であるならばその人材がもっと活躍できる場を会社で探したら良い。
それは不況下においては多くの場合、相当な労力を要するだろう。
その労力を労働者に押し付けてはならない。
また、主流派は「今は人手不足」とも言っている。
これが正しいなら、新しい職場を見つける労力は小さいはずだ。
そもそも賃金が上がっていれば解雇などせずとも労働者は高い賃金を求めて流動する。
労働者の半分近くが非正規で最低賃金付近の状態では解雇規制緩和しても失業者を増やすだけだ。
つまり「解雇規制緩和で雇用流動が起きる」は経営者視点で有利なだけの詐術なのだ。

「インフレは庶民に厳しい」は詐術

庶民に厳しいかどうかはインフレ率だけでは決まらない。

インフレ

賃金上昇率からインフレ率を引いた実質賃金上昇率による。
つまり、インフレ率が高くてもそれ以上に賃金が上がっていれば大丈夫だし、インフレ率がマイナスでも賃金がそれ以上に下がっていれば厳しい。
つまり現実にはインフレ率だけ見ても厳しいかどうかはわからず、「インフレは庶民に厳しい」は詐術である。
そもそも他では庶民に厳しいことばかり主張してるのにインフレ率に限ってだけ庶民の味方になるは不自然だ。
ただ庶民を盾に取ってるに過ぎない。
そしてインフレ率は負債をしている者にとっては負債の負担を目減りさせる効用がある。
投資をすれば投資のリスクを軽減させる。

中小企業淘汰論の詐術

日本の生産性が上がらない原因としてしばしば挙げられるのが中小企業の生産性の低さである。
補助金でようやく生き延びてるような効率の悪い中小企業には退場してもらい、生産性の高い大企業へ統合された方が良いというのものだ。


大企業は確かに中小企業より生産性が高い。
中小企業が淘汰され大企業に統合されたら多く無駄が排除され効率化するだろう。
だが、先に述べたように無駄の削減は賃金の削減に直結する。
大企業は淘汰された企業から顧客は全て吸収したとしても全て従業員までは要らない。
契約で数年間の雇用は保証されたとしても、その先は不要になるだろう。
大企業は効率的だから同じ仕事をするのにそれまでと同じ人員が要らないからだ。
中小企業淘汰論は失業者を増やす方向に力が働く。
結果、他の生産性向上策が賃金を上げないのと同じ理由で中小企業淘汰論も賃金を上げることにはならない。
中小企業淘汰論は詐術なのだ。
ただし、これからは経営者の高齢化により中小企業の大廃業時代が到来すると予想されている。
そのまま廃業を許せばそれこそ大きな失業者を生むことになる。
廃業の前に統合された方が良いのは確かではある。
でも、その視点で語られるのはほとんど見たことがない。

「ゾンビ企業が起業を妨げている」は詐術

ゾンビ企業という表現は適切ではないが、一般に使われてるのでここでもそう表現することにする。

ゾンビ企業

ゾンビ企業にはそんな力はない。
妨げているとしたら大企業だ。
「ゾンビ企業が起業を妨げている」は詐術だ。

「失業率が低いので政府の経済対策は効果がない」は詐術

まず、失業率は実態を反映していない。
このことも(「賃金をあげるために生産性が必要」は嘘だった!)で書いている。
失業率だけでなく、有効求人倍率も実態を反映していない。
有効求人倍率はハローワークに届けられてるものだけの数字である。
無料で掲載できる求人情報は本気で採用する気のない求人が多く、求職者はハローワーク以外の選択肢が増えてる。
このため有効求人倍率は実態からかけはなれた数字になってると見るべきなのだ。
失業率や有効求人倍率の数字以上に実質的な失業者は多い。
ついでにいうと需給ギャップも実態を反映してるとは言いづらい。
需給ギャップについてはまた機会があれば書きたい。
また、失業率の表面的数字が改善した大きな理由は高齢化による介護従事者の増加である。

産業別就業者数推移

勿論、高齢者が増えただけでは介護従事者は増えない。
社会保障費の増加という政府支出の増加があることではじめて実現したことである。
にも関わらず、失業率が下がってるから政府支出は無駄というのもおかしな話だ。
そして「失業率が低いので政府の経済対策は効果がない」というのは失業者が就業者に変わる場合にだけ、経済成長があるということ言っている。
実際にはそんなことはなく、労働者の賃金が上がれば経済成長はするのだ。
失業率がたとえ低くても人材獲得競争が起きてないときには政府支出で仕事を増やし、人材獲得競争を促すことが必要だ。
そして賃金が上がれば経済成長する。
「失業率が低いので政府の経済対策は効果がない」は賃金を上げたくない経営者視点の詐術なのだ。

移民規制緩和の詐術

日本には移民が必要とする主張は主に2つある。
まず、日本の人口減少が見込まれる中で経済成長を維持するためには人口減少を移民で補わないといけないというものである。
確かに日本の人口は減少方向にあり、今のところ回復の見込みはない。
しかし生産性向上とは労働集約からの脱却であり、移民という新たな労働力に頼ろうとすることは生産性向上とは真逆の行為である。
生産性向上するには労働力に頼らないようにする投資に注力しなければならない。

移民

もうひとつの移民が必要という主張は日本にもっと優秀な人材に来てもらって生産性を上げないといけないというものである。
だが、日本には既に多くの移民がいる。
優秀な外国人への門戸は既に解放されてるのだ。
優秀な人材を増やすには、日本へ来るハードルを下げることではなく、来たいと思えるような日本の魅力を高めることだ。


まとめ

最近はユニクロやイオンなど、一部企業ではこれまで無かったような大幅な賃上げのニュースも見られるようになった。
これは規制緩和したからでもなく、生産性が前年と比べて大幅向上したからでもなく、中小企業が淘汰されたからでもなく、労働者の能力が大幅に上がったからでもなく、人材獲得競争の到来を企業が予測し戦略的に対応したからだ。
アメリカで賃金がドンドン上がってるのも人材獲得競争が激しすぎるからだ。
勿論アメリカを見れば適正な人材獲得競争の水準というものはあろう。
しかし、現状のように全く賃金が上がらない状況は人材獲得競争が足りないと言わざるを得ない。
民間が雇用を増やせないときは政府こそが仕事を増やし人材獲得競争を促していかなければならない。

後記

主流派の詐術は長く信じられてきただけあって多い。
まとめるのは大変苦労した。
ネット上に溢れる不毛な議論を終結し、国民が幸せに生活をおくれるようになる一助になれば幸いである。

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