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くちなしの花の香りは母を思い出させる

くちなしの花が咲いて、少し朽ちかけている。

香りは少し甘く、品がある。
でもなぜか、くちなしの花と香りは、私には重い。

くちなしの香りをかぐと、昔の化粧品を思い出す。
木の鏡台の前に、いくつかの化粧瓶とおしろいが並んでいた。
そこは娘の知らない、母の世界。

幼い私はあこがれて、おしろいのふたを開けてかいだり、ほんの少しだけほっぺにつけてみたりした。
ふわんと漂う甘さ。
知らない、大人の、女の、香り。

20210609鏡台 (2)

母に見つかると、ひどく叱られた。

母は、5人兄弟の唯一の女の子。
お手伝いさんのいる家庭で、かわいがられて育ったという。
戦中、祖父が亡くなるまでは。
それを臆面もなく自慢した。

「来るお客さんみんな、かわいいかわいいっていってくれたのよ~」
「混血(当時の言葉遣いです)みたいっていわれてね」

実際、母は私と違って色素が薄く、髪も目も明るく茶色っぽかった。
若いころの写真を見せてもらうと、パッと華やかな美しさがある。

声も性格も明るく、天真爛漫。
愛されることを疑わない。

一方で、人のことを考えない。自分が太陽。

貧しい農家で育ちながら、苦労してエリートコースを目指した父と相性がいいはずがなかった。
うちでは口げんかが絶えなかった。
母はいつも私たちに言う。
「私は悪くないのよ。全部お父さんがいけないのよ」と。

母は母なりに子どもをかわいがってくれた。ワンピースを作ってくれたこともある。うまくはないが、よくお菓子を焼いてくれた。

自分をいい母だと信じ切っていた。
「あれもした、これもしてあげた」とよくいわれた。

よくやってくれたと思う。でも。

もちろん、しなかったこと、できなかったことは頭にない。
誰でもそうかもしれないが、考えもしないようだった。

枚挙にいとまがない。

たとえば添加物や栄養のことは考えない。知らない。
私が「魚は養殖より天然の方がいいよ」というと「そんなの知らないわよ。みんな気にしてないわよ」そして
「魚に添加物なんて入れようがないじゃない」という。

おもしろいけど。養殖が全部悪いわけではないけど。
そういうところまで議論がいかない。

「あんたは働き始めてから理屈っぽくなって」といやがった。
それも、わかるけど。


かわいがられて育って、自らを省みなくて。

少し、「稚くて愛を知らず」(石川達三)に似ているような。

古い小説だ。主人公はお嬢様として育てられ、結婚しても夫と愛情を育てられない。相手に興味を持たず、関係をつくれない。子どもは亡くなり、結婚生活は破綻する。
時代的でどこか一方的な見方はあるが、こういうことは今もあるだろう。

学生時代に読んで、すぐに母を思い浮かべた。

母はそこまでではなく、社会生活も営めたけれど、自らへの客観的な目や長期的な視野は最後まで育てられなかった。
そして男性を見る目も。
「自分と合うか」「好きか」ではなく、「条件がいい」で選んでいた。

母はいつまでも「かわいい女」だった。
明るくて、社交的で、きれいで。
ほめられるのが好き。
そしてほめられて当然、とどこかで思っている。

ただ母は一時異常なまでのガンバリをしたことがあった。それはいずれ書きたい。


今、母は認知症となって施設にいる。
救いは「明るくて、いい方ね」と周りからほめられること。
明るいままでいてくれて、よかった。

ぱあっとしたひまわりみたいな笑顔は変わらない。

20210609ひまわり

「ひまわりみたい」とほめると「あらバラの方が好きよ」というような母で。

自分に対して肯定的で、自分のことが好きで。
自分優先で。

離婚しても、自力で家計を支えても、変わらなかった。
芯が通っているともいえるのか。

くちなしの花は真っ白いけれど、枯れると茶色くなって木に残る。
それを見ると、ちょっと悲しい。



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