隣にいてくれるだけで心が軽くなることがあった
言葉が通じる人と、話したいと思っていた。
ずっと。
海外にいるよりも、もっと一人で、もっと孤独を感じていた。
「あー」とか「う~」しかいわない子と、ふたりで。
子どもは、かわいい。
無条件にかわいいけど、時どきつらくなる。
「話」をしたいなあって思って。
なんでもないおしゃべり。
好きなもののこと。
おいしいもののこと。
日本語の通じる、会話、したい!
そう思いながら、グッタリ体が重くなって。
何をするのもおっくうにもなる。
友だちに連絡するのも、けっこう重荷で。
時間通りに出られないし。
荷物は多くなるし。
わかってもらえないかもしれない。
私の話って、もうおもしろくもないかもしれない。
自分がアップデートできていない気がして。
育児休暇時代のこと。
ママ友と、子どもの話をしたいんじゃない時もあるんだ。
そんなのわがままかな。
私って何だろう。
大人の人には、透明人間みたい。
見えないかもしれない。
泣くとうるさい、赤ちゃんを連れた人、でしかない。
どんどん落ち込んだことがあった。
一時期、だれともしゃべりたくなくなった。
話したいのに、話したくない。
完全、ブルー。
ドヨ~ンとしながら、近所の公園に行った。
ベンチに座って、つかまり立ちする息子を、ひとり、見ていた。
うれしそうに、伝い歩きする。
そのとき。
「隣りに座っても、いい?」
びっくりして、見上げた。
近所に住む友人が立っていた。
独身時代の友達・真理ちゃん。
出産後、会っていなかった。
真理ちゃんは、バツイチの独身で、少し年下で、フリーランスのライターさんとして働いていた。
数回仕事をし、近所に住んでいると知ってから、一緒にご飯を食べることがあった。
そっけない感じだけど、お酒と旅行が好きで、飲むと盛り上がる。
「久しぶり」も「元気?」も、ない。
真ん中に座っていた私が、少し端に寄った。
ニコッと笑って、ストンと隣に座った。
何もいわないで、息子を見ていた。
息子は、はじめ少し私の足に隠れるようにしながら、
ジ~~~ッと、真理ちゃんを見ていた。
真理ちゃんはまた、何にもいわないで、ニコッと笑う。
私も、何もいわなかった。
少しずつ、少しずつ、息子が顔を出して、真理ちゃんを見て。
なかなか近づかないけど、ゆっくり、笑顔になった。
ふたりの、にらめっこみたいだった笑顔。
「会えて、よかった」
そういってくれた真理ちゃんと、少しだけ話した。
「なんかさ、どうしていいかわからなくて、連絡してなかった。
私じゃ話が合わなくて、おもしろくないかな、なんて思っちゃってさ」
私と一緒だ。
10分くらいで、真理ちゃんは手を振って去っていった。
心がブルーから淡いパステルに変わっていた。
「隣に座っても、いい?」
その一言が、溶かしてくれた。
話したかったのに。
いてくれただけで、よかった。
そっか、話さなくても通じ合えるんだ。
隣にいてくれるだけで。
※イラストはふうちゃんからお借りしました。ありがとうございます。
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