私の「推しの子」論 第1回 嘘は飛びきりの愛
■【厳重注意】:この考察は完全にネタバレモードでしか進みません■
アイドルグループ「B小町」の不動のセンター、星野アイは施設育ちだ。
母子家庭に育つ。
しかし父親については、少なくともアニメの物語の第1話の時点では、語られていない。
だがその母親も、彼女が小さい頃、窃盗をして、捕まる。
その間、アイは施設に預けられる。
だが、釈放されてきた母は、彼女を引き取りに来ないまま、姿を消す。
アイは、
「施設にいる方が、殴られるよりまし」
と言葉にしたから、母親からの暴力もあったのだろう。
アイドルにならないかと、苺プロダクションの社長、斉藤壱護にスカウトされた時、
「私の抱いているアイドルのイメージは、
みんなに笑顔をふりまいて、
みんなを笑顔にする、純粋な存在。
嘘つきで人嫌いの私とは真逆。
こんな私はきっとファンを愛せないし、
ファンからも愛されない」
いいんじゃねえの?
そもそも普通の人間に向いてる仕事じゃない。
そういう経歴も個性じゃん。
「でもアイドルなんて、みんな、『愛してる』とかいうじゃん?
私が言ったら嘘に・・・」
嘘でいいんだよ。
むしろ客はキレイな嘘を求めてる。
嘘をつけるのも才能のうちだ。
「いいの?
嘘でも、『愛してる』って言っていいの?」
ほんとうは人を愛したいと思ってるんじゃねえか?
やり方がわからないだけで。
その対象が見つからないだけで。
かわいく歌って踊っていれば、
それだけで、ファンに対する愛情表現となる。
アイドルになれば、『愛してる』という言葉は歌詞にいっぱい入ってる。
みんなに『愛してる』って言っているうちに、
嘘が本当になるかもしれない。
心の底から『愛してる』と言ってみたくて、
『愛してる』って、嘘をふりまいて来た。
母親になれば、子供を愛せると思った。
私はまだ子供たちには『愛してる』と言ったことない。
その言葉を口にした時、
もしそれが嘘だった、と気づいてしまったら?
そう思うと、怖い気がする。
だから私は、
今日も嘘をつく。
うそが本当になることを信じて
その代償が、
いつか訪れるとしても。
いつかそれが、本当(の愛)になることを願って。
******
アイのステージは、表情から指先の表現まで、すべて計算され尽くしたものだ。
どうすれば、客が喜ぶか。
もう一人の自分が、いつも冷静に見て、コントロールしている。
しかもそれは、繰り返しのたゆまぬ努力の中でたどり着いたもの。
ところが、練習に疲れたある日、なんとなくエゴサしたら、
「なんか人間くささがないというか。だから今イチ推せない」
痛いところ突くな。
******
ファンクラブの抽選にあたった参加者のみのイベント。
歌い出すと、なぜか、ベビーカーに乗った二人の赤ん坊が、ノリノリでサイリウムを振っているではないか!!
それは周囲の観客をぎょっとさせる。
しかし、ステージのアイは、それを心底かわいいと感じて、
思わず心からの笑顔を見せてしまう。
SNSには、
「これだよ、こういう笑顔が観たかったんだ!」
そうか。
こういうのがいいんだ。
覚えちゃったぞ。
・・・・だが、その双子こそ、アイの子供たちだったのである。
******
天童寺さりなは、小さい頃から、病院の病室で過ごしていた。
退形成性星細胞腫という、脳と脊髄の腫瘍を患い、実は長く生きられないことはわかっていた。
廊下を伝え歩きしようとしても、倒れてしまう。
だから、受け身するのがあたりまえになっていた。
だからこそ、テレビを通して、歌い踊るアイに憧れていた。
何百回もビデオを観て、完全に目に焼き付けていた。
おかけで、後に「母親」となるアイに、どうしてそこまで覚えているのか、驚かれることになるのだが。
******
雨宮吾郎は、さりなの主治医だった。
おかげで、さりなの感化を受けてしまい、アイを推す熱烈なファンになり果てていた。
さりなは死んだ。
*******
そういうある日、産婦人科に、ワケありの16歳の少女が受診してくる。
それは、まごうことない、3D解像度無限大の星野アイであったことに雨宮は仰天する。
総合病院ではあったが、さりなの例をみればわかるように、サナトリウム的な面もある、山の中の田舎の病院。
雨宮は、いくつもの科を受け持っていたのであろう。
ばれちゃったかあ、と、ケロっとしているアイ。
雨宮は、産むかどうかはアイの主体性に任せる、と告げる。
******
突然現れた若い男は、アイがこの病院にいること、妊娠していることを知っていた。
どうしてわかった、どうして知ったと問い詰める雨宮。
崖から突き落とされる。
******
目覚めた雨宮は、アイの赤ん坊になっていた。
前世の記憶を受けついていることに驚いたが、アイのふところに抱かれるというのは、全く想定外の天国であった。
「愛久愛海(あくあまりん)」などどいう、壮絶キラキラネームをつけられていたのは、どうもなあと感じたが。
双子の片割れの女の子が、瑠美衣(るびい)という、まだしもまともな名前をつけられているのを妬みたくもなったが。
実は、瑠美衣の方も、誰かが転生してきていたことに、アクアは気づく。
瑠美衣は熱狂的なアイおたくだったから。
でも自分より年上か年下かもわからんから、うかつなことは言えんわい。
おい、男の俺が哺乳瓶で我慢しているのに、アイの乳房から直接飲むなよな。
******
双子がアイの子供であることは、当然外部には秘密。
社長夫妻の子供ということにされていた。
だが、妻は、アイが活動再開に向けての練習で家を空けるときにベビーシッターをさせられることにつくづく嫌気がさしてきた。
私はイケメンの男の子たちのグループのメンバーを育てられると思ったから芸能プロの社長と結婚しただけなのに。
もう、こうなったらキレてやる。
このネタ売って大金持ちになってイケメンと再婚してやる。
アイの母子手帳をスマホで撮り始める。
やばい。
「待て。
我は神の使いである。
哀れな娘よ」
赤ん坊がしゃべる?
ドッキリでしょ?
カメラはどこ?
「慎め。
我はアマテラスの化身。
貴様らの言う神なるぞ。
貴様は目先の金に踊らされ、
天命を投げ出そうとしている。
星野アイは芸能の神に選ばれた娘
そしてその子たちもまた、
大いなる宿命を持った双子
それらを守護するのが汝の天命である。
このままでは天罰が下るであろう」
なかなか迫真の演技だったな。
とこかでやってたのか?
ううん、はじめてやった。
(だって私は・・・)
******
アイドルは楽しいと思った。
でも世の中結局お金だと気づいたの。
私だけならこのままでもいいと思ったけさ、
この子たちをいい学校に入れて、
習い事させたり、
いろいろな選択肢あげるには、
私がもっともっとバンバンバンバン稼がなきゃ、ダメなんだよね。
今のままじゃ、この子たちを幸せにはできない。
******
「俺たちの父親って誰だ?」
「処女受胎に決まってるじゃない」
これはマズい。
子供たちの父親に、「会ってみない?」と連絡を取ってしまうアイ。
「新しい住所は・・・」
******
刺された。
裏切りものめ。
ガキなんて作りやがって。
君たちのこと『愛そうとして』きたよ。
『愛したい』って思ってる。
嘘つけ。
俺のことなんて、覚えてもいないだろ!
見逃してもらおうと思って。
リョースケ君だよね?
よく握手会に来てくれてた。
あれ、違った?
こめんなさい。
私、名前覚えるの苦手だから。
お土産でくれた星の砂、
嬉しかったなあ。
今もリビングに飾ってあるんだよ。
嘘だ。
狂乱して、ナイフと投げ捨て、駆け出す男。
玄関への扉を開けて、呆然と立ち尽くすアクア。
血に濡れた身体で抱きしめるアイ。
ごめんね。
もう無理だア。
アクア、ケガとかはしていない?
今日のドームは中止かな。
みんなに申し訳ないないなあ。
ルビイたちのお遊戯会、よかったなあ。
私さ、ルビイももしかしたら、
この先アイドルになるのかなあって思ってて。
親子共演みたいなさあ。
アクアは役者さん?
ふたりはどんな大人になっていくのかなあ。
ランドセル背負う姿、見てみたかったなあ。
授業参観とかでさあ、
「ルビイのママ若すぎる」
とか言われてさ。
あんまりいいお母さんじゃなかったけど、
私は産んでよかったなって思ってる。
あとあと、
これは言わなきゃ。
ルビイ、
アクア、
愛してる。
あ
やっと言えた。
ごめんね。
言うのがこんなに遅くなって。
よかった。
この言葉は、
絶対ウソじゃない・・・
******
相手のことを「ほんとうに」喜ばせようと思ったら、
「嘘」をつかねばならない。
これは、
相手の歓心を買おう、自分に惹(ひ)きつけようというエゴばかりではなくて。
相手に「尽くす」というのは、そういうことだ。
感情に任せるだけでは、ほんとうの思いは伝わらない。
自分自身の気持ちを見つめる、冷静な「もうひとりの自分」を作らねばならない。
そして、「役者」としての「演技」をする、更に「もうひとりの自分」を監督、演出し続けねばならない。
これは、恋愛においてもそうだし、
親子関係、
いや、
すべての人間関係においてもそうだと思う。
ユングは、日本人には「ペルソナ」がないと書いている。
「仮面」をつけて、意識的に「演じる」力がないということだろう。
人に気持ちを「察して」もらえることを期待しがちな日本人には、欧米の、少なくとも良識的な人たちには当たり前な、自分の気もちを、意識的に「演技して」伝えるということが、ひどくわざとらしくて、大げさなものに映る。
だが、それこそが、ほんとうの愛の伝え方。
でも、それを嘘だと、相手は疑い続けるかもしれない。
そして、
他の人をも何らかの意味で愛していると気づいた時、
やはり裏切られたかと感じて、
殺しに来るかもしれない。
それに殉じるのも、
ほんとうの「愛」であろう。
******
ただ、
「愛している」と言われて、
遺された者たちにとっては、
たまったものではない。
みすみす、死なせてしまった。
そのことへの深刻な罪悪感。
それを「償う」ために
残りの人生を、生き急ぐ。
でも、それは望まれていたことではない。
自分自身の人生を生きることこそ、故人の思い。
そうであってこそ、
あの世で再び巡り合えた時、
共に喜び合うことができるであろう。
*****
しかし・・・・
アクアは、敢えて「業」を背負おうとする。
母親殺しを示唆した、ほんとうの犯人を捜すと。
そして、それは自分の・・・であろうということを。
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■第2回■
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