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読書人間📚『恋愛中毒』山本文緒



『恋愛中毒』山本文緒

1998年 角川書店、単行本発刊
2002年 文庫初版発行
2004年 13版発行
第20回 吉川英治文学新人賞受賞



痛々しくて思い出したくない封じ込んでいた古い恋愛。
それは若さだったのか、人を知らなすぎたのか、自分を知らなすぎたのか、何を繋ぎとめておこうとしたのか、何に必死だったのか今となってはわからない。何かの病に侵され、剥がれ落ちそうになる何かを離れないようきつく縛りつける。
縛れば縛るほどもやがかって、前が見えにくい。
見えなくなっても、手探りで離そうとはしない。
苦しい。苦しいけれど猛然と追い続ける。
過ぎてしまえば、哀れに私を見る誰かの目と、甘やかな痛みだけが頭の中に居残る。
夢なのか現実なのか、ただ人を愛し、信じただけ。何が悪かったのか、何がそうさせてしまったのか自分にもわからない。
あれほど人を愛することがないよう、もう誰も愛さなくてもいいよう、何にも揺れないように律して生きなければ、わたしはまた盲目の中毒患者として世界から追い出され孤立する。適度な分量を計りながら、何にも乱れなければ、わたしは現実を生きていける。


30代時、友人に「君は愛情が深いから付き合う男をちゃんと選びなさい」と言われた。"愛情が深い"とは耳障りの良い柔らかな言い換え。だけど、わたしの  "重さ" が全く隠しきれていなかった事実にショックを受ける。
この作品は、身につまされる経験がある人には苦しいだけの作品かもしれません。
そんな人はあの日の辛さを過去として消化できていますか。あんなもの時間が経っても消化できないものかもしれないとわたしは感じています。
良い経験か悪い経験か未だにわかりません。
ただ人知れず蓋を開けないようにするだけです。
一生もう二度と蓋は開けません。今、目の前にいる大切な人の為に。




2021年、昨年、膵臓癌により58歳でお亡くなりになられた山本文緒さん。40歳時にはうつ病を発症するなど、その繊細さが作品に現れ、きっと魅力的な女性だったに違いないと感じます。まだまだ書いて欲しい人でしたね。まだ手にしていない作品も読んでみようと思います。

本書は、本棚の奥から引っ張りだしました。歳を重ねて読み直すと全く違う感情、自分が見えてきます。また新しい装丁で発行されているので、気になる方はぜひ。




♟声、発声、機能を考える
ボイス・ボーカルレッスン/東京都 
歯科助手経験と音楽療法の観点からオーラルフレイル、口腔機能、老化防止を意識した呼吸法、発声のレッスンも行います。

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