頑張りました
アパートから自販機まで100m。
コンビニよりは近いこの距離も、寒空の下では多少なりとも駆け足になる。
走る必要はないが、足取りは早い。ものの数分だ。
それをあの頃の少年は全力で走っていた。
なんの報酬もない。
ただ、走るように言われて走った。
一等賞のシールは程遠く「頑張りました」のシールだけがもらえる。
紅白帽子の白い部分は薄茶色に汚れて、あご紐のゴムはふざけて遊んだ為にだらしなく弛んでいる。
あの頃、足が早かった子は、どうしているだろう。
今でも人生で一等賞だろうか?
おそらくそんなことはないだろうが、今になってかけっこをしたらどっちが勝つかわからない。
ただ、意味もなく走ることを楽しめるかどうか、それだけに意味があるかもしれない。
自販機の前にたどり着いた私は、少年の憧れた飲み物を当たり前のように手に入れる。
少年は羨ましがるかもしれないが、少年は手に入れる方法をまだ知らない。
私にとってこのジュースは「頑張りました」のシールなのだ。
美味しいご飯を食べます。