鎮丸~天狗舞ふ~ ⑭
晴屋は師と天狗の格闘の気配を背中に感じながら、本堂の中を覗いていた。
扉に体重をかけた途端、扉は開き、中に転がり込んだ。
目の前に本尊はなく、代わりに赤い目をした巨大な天狗がこちらを見ている。
周りを沢山の大天狗、烏天狗が取り巻いている。
前に一度見た光景だ。
一際巨大で威厳のある天狗、僧正が口を開いた。「小僧、またしてもお前か。何用だ。」
深く、重みがあり、僅かに歪んだ声で言う。
「師匠の代理でお前を討つのだ。」晴屋は物怖じせずに言い放った。
僧正は、「痴れ者めが!」と晴屋を一喝し、大天狗、烏天狗らの配下達に「駒を手助けせよ。」と言った。
空に雷鳴が轟くと、配下達は一斉にいなくなった。
(舐められたものだ。俺には自分一人で十分という訳か?)と思った。
そして「貴様はなぜ大天狗と翔子さんを使って、俺達を攻撃して来るんだ?」と聞いた。
僧正は、「聞きたくば教えてやろう。お前が師と仰ぐあの者は、人界にいてはならん者。わしがあ奴を倒すこと造作はないが、少々、苦しみを味あわせてやろうと思ってな。」と言った。声の歪みが増したようだった。
晴屋は「先生は人間だ!俺達人間はか弱い存在だが、けっしてお前らなんかには負けない!」と叫んだ。
僧正の目が赤く光り、口から突風を吐く。
「何度も同じ手を食らうか!俺だって成長してるんだ。」晴屋は前転しながら僧正に近づく。同時に音叉を鳴らした。
不動金縛りはかかった筈だ。
気は十分に乗っていた。しかし、僧正は平然としている。
「鬱陶しい奴よの。」目が赤く妖しく光ると術は晴屋に返って来た。
あろうことか晴屋は僧正の目の前で自分の放った金縛りにかかってしまった。
「ぐっ!まだ負けた訳では…!」晴屋はもがくと右手だけが僅かだが動くことに気が付いた。
八王子の駒縁宅。
葉猫が古い家系図をテーブルに広げ、何かを霊査している。
「あの…実家の蔵にあったものですが、こんなものでお役に立つのでしょうか。」そう言いながら、舞子が心配そうに見ている。
葉猫の指は順々に先祖の名前を辿っている。ある先祖の名前の上で指が止まる。
「この方ね…。天空坊!?」
葉猫は合掌し、神に祈った。
部屋に神気が漲る。
晴屋は自分の未熟さに救われた。術が完全ではなかったため、僅かだが体が動くのだ。気付けば周りは洞窟になっている。いや、本堂に入り込んだ時からそうだった。
晴屋は土の上を転がった。背中から破魔矢が落ちる。(今だ!)晴屋は回転するようにして破魔矢を僧正目がけて蹴り上げた。
僧正は避けようともしない。
しかし信じられないことに破魔矢は僧正の額を貫いた。
「こ…これは猿田彦大神!!」と言ったまま僧正は絶命した。
(to be continued)
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