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鎮丸~野獣跳梁~ ⑧

鎮丸は病院の個室にいた。

晴屋が到着すると、若い女性看護師が言った。「息子さんですか?」

晴屋はそれを否定しなかった。どうやら息子にしておいた方がいいようだ。

「面会時間は10分だけです。後は私達にお任せ下さい。」と看護師は言った。

ご時世とは言え、アクリル板越しに10分の面会である。その日は、様子を見るだけにし、自分は実家の荒れ果てた寺に戻った。

毎回タクシーを使う訳にもいかない。

晴屋は地面に倒れていた黒い自転車を起こし、それを漕いでサロンまで来た。

今やここが自分の家だ。

翌日、晴屋が病院に来るとエレベーターで、派手な女性と一緒になった。飲み屋のママだろうか。

大陸的な顔立ちをしている。

エレベーターが着くと、その女性は晴屋より先に降りた。前を歩いて行く。晴屋と同じ方向だ。

鎮丸の病室の前で立ち止まる。

(先生にお見舞い?誰だろう。クライアントの一人か。)

晴屋は思い切って尋ねた。
「失礼ですが、こちらの方のお見舞いですか。」

「そうよ。」女性はそう言うと、「貴方は?」と聞き返した。

「私は会社の部下です。」と晴屋が言うと、

「あら!じゃヒーリングサロンの方?ちょうど良かったわ!」と笑った。

「私ね、歌舞伎町で文麗ってお店やってるの。今度来てちょうだいね。」と名刺を渡して来る。

「彼、大丈夫かしら?」
心配そうに室内を覗く。
「ウーロン茶で倒れちゃうんだもの。元々心臓の持病かなんかあるの?」

「いえ、ありません。」
晴屋は言いながら考えた。(ウーロン茶で?一体どうしたんだろう。)

「ところで、どうしてこの病院が分かったのですか。」晴屋が聞く。

鎮丸が倒れた翌日、酒屋の社長が「文麗」に来た。経緯を聞き、驚いた社長は、親戚筋だと言って、消防署に電話を掛けた。

そのままこの女性に電話を代わり、搬送先を聞き出したとのことだった。

「ほら、うちも人死にが出たなんて噂がたったら、商売上がったりでしょ?」

晴屋は思った。(先生の命はどうでもいいのだろうか?)

女性と晴屋は病室に入った。

意識が戻った鎮丸の目に入って来たのは、晴屋と文麗のママの顔だった。

「先生!一体なぜ、こんな!」
晴屋が縋りつくようにして聞く。

「あぁ、晴屋君か?ドジ踏んじまったよ。」
と鎮丸が言い、女性に視線を移す。

「あ…あなたは…。」

ママは「まぁ、良かったわね!心配したのよ。ほんとに死んじゃったかと思った。これ、お見舞い。」と言い、菓子折を置いた。

「生憎、しぶとい性質でね。」鎮丸がママに答える。

「晴屋君、頼みがある。三峯神社にお詣りして来てくれないか?」と手短かに鎮丸は言った。

「三峯神社って埼玉のですか?どうして…。鎮丸先生と葉猫先生、それに桃寿ちゃんを放っては行けません!」晴屋は顔色を変えた。

(to be continued)

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