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ゴールテープ

最終コーナーを大きく回り、ついにラストの直線勝負に歓声が聴こえる。自分を中心にして応援の言葉がアーチを作ってその行き先まで見送ってくれている。

途方に暮れて、無限そのものだと確信して疑わなかったこのレースも、あとは同じ動きを反芻するだけでゴールに到着する。ゴールテープを端で抑える役に抜擢された二人の若い少年は、あくまで冷静を装いながら心の内では燃え上がっているのか、それともただのアルバイトで、「テープの端を持つだけで高収入」のタイトルに惹かれて日雇いにやってきただけなのか、下を向いて手だけは強く固く握っている。

当事者であるはずなのに、目の前の競技よりも周囲が気になって仕方がない。
ラストシーンに興味がある観衆は、ゴールした途端に他人になる。サポーターは他人よりも遠い存在になる。
競り合っているライバルは競技に夢中で顔がよくわからない。スタートのタイミングで一瞥したはずなのに、思い出せない。
速さに乗って揺れる被写体と視線、当然正確には眼のレンズには映らない。シャッターを切ってもブレが残ってしまう。


現在進行形で興奮に狂気する人々が取り巻く空間をまじまじと見ていたいな。
時間が止まって見えたりしないかな、なんだったら止まってくれても良いのにな。

最後まで1着になれるかどうかはわからないのに、歩む方向を変えてしばらくゴールしないでパフォーマンスしたい。この歓声を独り占めしたい。


いや、1着でゴールテープを切れたら、最初に上がる歓声は間違いなく自分に向けられた歓声のはずだ。

ゴールを目前にしたところでゴールする理由を思い出した。あとはゴールテープに突進するだけ。カンタンナコト。

体力以上の気力が漲ってきた。いざ1着へ。


自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。