括られる線は見えない
ストーリー
疑わずして若さを尖らせていた。顔を見合わせたかもしれないのに、もう記憶からは遠のき、投稿に固まった表情で想像されたきみは、仲睦まじい友人とのカラオケで、歌詞に沿わない合いの手を入れている。
レモンサワーやら、ハイボールやら、大衆を引っ掛け、騒音から飛び出してから、狙った音が反響する部屋で、メロディに合わない音程が心地良さそうに聴こえる。
同世代に括られていた。首に馴染ませているファッショナブルなヘッドホンから、こちら側の声は入らないし、取り憑かれたかのように餃子を見せられても、香りも味も届くことはない。
違う日の天気模様を写真には残していた。雲が遠慮する程の晴れがあるなら、私は下を向いて歩きたい。悩みが大きくなりたがる暗い雲がいてくれるなら、肌を撫でられても涼しいと言うだろう。
支配しきれない他人に飽き飽きした頃に、他人を支配したくなる。同世代は違う時計を掛けて、たった1日の出来事を上書きして、7分の時差で電車に乗った。
有線
姿がなかったなら、思い出してあげるきっかけに引っ掛からない。トレンドが表示したジェネレーションギャップの顔を一瞥して、昨日自宅に着いたところで切り上げていたポップチャートの続きを、有線イヤホン越しに確かめた。
腰のポケットに繋がった線をピンと張る。ジャケットに引っ掛かり、耳に重みを感じて、呆気なく抜け落ちた。
買い換える理由も、なんとなくのこだわりもなかったのに、繋がった糸が邪魔に思えた。
途中駅で降り、イヤホンを取り外し、良音質で没入間の高いヘッドホンを見て回った。
魅力を盛り込んだハイテク広告も、起用された若手タレントも目に入らなかったのに、見覚えだけ断片的に残っていたヘッドホンに目を奪われた。
断片は見覚えで途切れていた。
買って2週間、ストーリーが更新されて、ユーザーが前に出てきた。
遠すぎて、知り合いたくなかった。
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