迷宮とチョコスティックパン
用事がある日は実際のところほとんどなくて、綺麗で真っ新なカレンダーに書き込むことがない。
必要な休みはほとんどないのに、バイトのシフトはギリギリまで渋ってバツをたくさんつけて提出していた。
午前の眠たい授業をルーズリーフの端の落書きで耐え切った。
昼休みの時間に切り替わっても、重すぎるフットワークで昼の人混みでごった返している食堂に移動して食券を発行するのは嫌だし、コンビニで朝買ってきた残りを食べることにした。
6本入りで100円ぐらいのチョコスティックパンは、少食のわたしにはぴったりの手軽さで、空腹を紛らわすにはちょうど良くて、時間もお金もかけたくない日はパンで過ごしていた。手持ちのアイテムの一つとしてカバンにいつもいる。いつメンだ。ポケモンだったら一緒に旅しているだろう。
入学当初は友達作りに必死になっていたけど、取り繕って化けの皮をかぶった自分を俯瞰で見て気持ちが悪くなって、全てを水に流した。せっかく両手で救い上げたものだったけど、掌を180°回した。
関わってきた人数の絶対数が少ないことを1週間に2回ぐらい後悔しながら、LINEのやりとりを復活させるか迷ったり、結局送らなかったり。
LINEを再開したい思いだって、元を辿れば衝動的なもの。
3回ぐらい言葉が飛び交った頃にはめんどくさくなって返事は遅くなって適当になっていく。
特に理由もなく、3日返事を怠った。内容もなければ遊ぶ予定を立ててるわけでもない、中身のない会話を空中で繰り返すのは秒で飽きてしまう。
「最近はどうしてるの?」の文字がこちらに向かってきている。
最近はどの範囲なんだろう。
一瞬だけ熱が高まった勉強意欲をかいつまんで「勉強してる」と返してもいいのかな。本を読むのが好きなアピールをしてきた時期もあったけど、今はほとんど読んでないし。
LINEを通してコミュニケーションを取るのが苦手だ。どうしても文字だけの情報は相手の表情が見えなくてこちらもどんな顔して文字を打てばいいのかわからない。
しかめっ面でもしながら文字を打てばいいのか。こっわ。
昨日も今日もスマホゲームを何も考えずに触っている。面白くも楽しくもないのに。なんのために今という時間を潰して生きているのだろうか。
今の自分が迷宮入りする前に、原点に戻って軌道修正したくなってきた。
ファンヒーターのスイッチを弱に入れてつけっぱなしにしていた。
熱がこもっていた部屋の窓を開けて冷風を浴びる。
チョコスティックパンを買ってきた。
買ったときには気づかなかった。
このチョコスティックパンは5本入りだった。
自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。