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うらがえらないてんき

最寄駅の改札を掻い潜ると、KIOSKが大都会方面に背を向けて、俗世からはみ出したどこかを向いている。ツナマヨのおにぎりもたまごサンドも今はいらなくて、グミを買って帰りのバスの待機列でおちょぼ口で嚥下する。小雨の降る中で細かく分けられた1日を巻き戻して再生する。

駅隣接の商業施設のトイレまで優雅に歩く。
支度を済ませて鏡に反射するもう一人の似た顔の人が徐々に浮かび上がってくる。スタイリングが必ずしも上手ではないこともあり、ガチャを回す感覚で髪型は変動する。なぜか今日は1%の奇跡を引き当てて調子が良かった。型崩れしないセンター分けが、強風にも負けることなく鏡までたどり着いた。

1%を引き当てた日は必ず良い日になってしまうジンクスを抱いている。探索地は拠点から遠く、各駅停車をうたた寝してやってきた。世の中を知らなくて呼吸が乱れるところを、必死になって胸を撫で下ろして3秒吸って7秒吐く。改札前の柱にもたれながら、充電器を忘れたスマホを節電モードに切り替える。

時代と逆行した純喫茶でアイスティーを注文する。コーヒー豆の香りが染み付いて濃い匂いが漂う喫茶店の中で、紅茶の気分になる。我ながら思考回路が謎でなんだか気持ち悪くて面白い。褒め称える歓声が鳴り止むことなく、静寂が立ち込める店内に響き渡る。駅前の純喫茶に電車の発車音が届く。

生命維持と最低限の食事を装ったアイスティーを我がものにして、文化層の最上層から最下層までを挟んで聳え立つ古本屋への対戦カードを場に出す。虚像かつ偽物の不自然な主体を見逃してはくれず、みてくれに微塵も興味がないことが見透かされ、本棚から雪崩れ落ち、入店した私と入れ替わりで退店して背中が見えなくなる。

振り向かせたいと思えるまえに、濃度の低さを感じざるを得ない。対等に会話できるようになるまで、あと20年はかかりそう。博識と引きつける原動力は見透かされている。若さを盾に世界を知らないことはすでにバレている。

上の空になりながら、頭の片隅にあるようなものを語らう。どうしてここにやってきたのかと考えれば、それこそ興味で来たものだから、文学と海を渡った先にある景色が、今とは見栄えが違う明朝体による案内が始まる。ナビゲートの口調には重みがある。次の電車の到着を知らせるナビゲートが駅から聴こえる。現実に強く引き戻された私は、時代を飛び回るのを断念して、駅前のマクドナルドで冷えたポテトを食べ、タイムトリップに非現実的な目標を重ねて行き来するのはもうやめた。

昨日見た夢では、最寄駅から渋谷が直通し、急行であっという間に到着する夢を見た。
実際には、最寄駅から渋谷は直通どころではない。乗り換えがどうしても必要なのだ。不可解な夢に、ひとまず夢占いにひっかけてみる。

駅は、どこか別の場所への旅立ちの暗示。つまり駅の夢は、転機が訪れる兆しなのです。

目的地がないのに、渋谷駅に到着している。わずかな望みを残して渋谷の地上に出てセンター街を歩く。今日の古本屋で入れ違いになったのは、昨日の夢の中ですでにセンター街に登場していて、はっきりとした見覚えはないのに輪郭と雰囲気が一致する。

大粒の雨が滴り、折り畳み傘を勢いよく開いた。風で傘が反転する。冬装備に抜かりがない3月に、てんきは訪れる。

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。