見出し画像

1年越しの渋谷で再会しよう。

東横線と埼京線から向かってきて、とりあえず集まりたくて、駅は渋谷駅に決めた。13:00に集まると聞いて、時間にルーズな彼は13:04に到着するらしい。私はいつも時間に余裕を持って行動したいから、渋谷駅までのルート検索では12:45を到着時間に設定して家を出る時間を決める。

渋谷駅に到着した電車から下車し、階段を上り、改札を抜ける前に必ずトイレに立ち寄る。

待ち合わせの体勢を一度構えてしまったら、あとはひたすらに待つことしかできず、スマホを見ているようで心はどこか違うところを見ていたりするから、きっと暇になると思う。
それまでに身なりはもう一度確認しておきたい。

スマホに反射する前髪だけではあまりにも情報が少なすぎる。顔が明後日の方向を向いていないか、洋服がタンゴを踊る衣装にすり替わっていないか、今一度確かめておかないと落ち着かないのだ。

鏡に写った自分らしき人を全体像として眺める。家を飛び出したときと同じぐらいの準備力を保てているか、目視でいちいち確認する。

これでいいかと許せたところで、改札を通り抜ける。

渋谷駅に集合、とまでしか決めていない12:53に、とりあえずでハチ公口から地上に出た。
ハチ公前というだけで、人はわんさかいて、どこのメディアかわからないスタッフチームが、無作為そうでメディア映えする、インタビューに向いてそうな一般人を探している。
その瞬間は喋りかけてほしくないオーラを出し、テレビ的にNGな不審者感を出す。不気味さに近いものを醸し出していく。無駄な努力の甲斐はあったかわからないほど自然にスルーされ、話しかけられることもなく、時間が過ぎる。

あ、一応「ハチ公前に集まろう」ってLINEしておこう。
渋谷で集まるとするなら、言わずもがな伝わっているかもしれないが、彼は私と同じぐらいの癖者だ。長年の経験から言わせてもらうと、おそらくヴィレッジヴァンガードがある出口から出てきて、当然のように私がいないことを念入りに確認してから、ニヤニヤして電話をかけてくるタイプだ。

集合に時間をかけて会心のボケを食らってたまるか。せっかくの再会の一つの件に予防線を張る。

事前の準備に抜かりのないファインプレーのおかげで、13:07にハチ公前で出会す。

柄シャツに柄ネクタイ、なのに革靴のイケイケな古着ファッションで登場した。

癖者だ。

まるで鏡に写った自分のようだった。

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。