苦楽を共にする姿勢が一流ホテルと言える
「苦楽を共にする」という表現がピンと来ない人もいるかも知れないが、四十数年の長きに亘り、シティホテル、リゾートホテル、そして旅館などに通い詰めると、一つの結論に至る。
「苦楽を共にする」とは、施設側とお客との距離感の問題にも繋がるが、「苦楽を共にする」姿勢が一流ホテルと言えるのではないか。
シティホテルを例に挙げると、帝国ホテルでのベルボーイさんやフロアスタッフが掛けてくれた言葉がとても印象に残っている。
タクシーでホテル玄関前に到着し玄関に立つと、「お帰りなさいませ」とあちこちから声が掛かる。「いらっしゃいませ」ではない。このフレンドリーさが高級シティホテルの姿勢であり、常にお客目線に立った証であろうかと感じた次第。
非常に親しみを込めた言葉、「お帰りなさいませ」。とても心に響き、心地よい。そして、チェックアウトでも、「またお越しくださいませ」ではなく、「行ってらっしゃいませ」であった。
しかし、地方のホテルではそんなにクールな対応を実践しているところは少ない。個人差もあろうが、多いパターンはローカルスタンダードを強要するような、高圧的なスタンスとうイメージが強い。
「俺はこの地域の有名ホテルの人間だ!」と言わんがばかしの態度であり、その地域の名だたる政界財界の人間にはペコペコと最敬礼をし、一部の常連客には会釈もせず、その場を立ち去るホテル役員(個人的な感情剥き出し)もいる。
人の命を預かるサービス業の頂点に立つ宿泊業であるが、グローバルスタンダードには到底及ばぬ、勘違いと履き違えの複合汚染とも言うべき非礼なる対応が目立つホテルや旅館が存在する。(区別と差別がごちゃ混ぜ状態)
帝国ホテルが国内のホテルのホテルと言われる所以は、その手本を先輩格である世界のホテルのホテルであるリッツに学んだことにある。
そこでリッツの歴史を紐解き、現在のリッツの教育制度やホテリエの心構えなどを検証すると、行き着く先は「We are Ladies and Gentlemen serving Ladies and Gentlemen」となる。
なるほど、「紳士淑女であるお客様にお仕えする」という姿勢を全面的に押し出し、サービス業の頂点としての手本を示唆してくれているのである。
帝国ホテルは、マニュアルを好む日本的であり、「十則」となるものが存在し、長きにわたり全スタッフに対して徹底指導、徹底実践している。
ところが、地方のホテルとなれば、地域の人脈重視に偏り、足繁く通う多くのファンの目を軽視する傾向にあると言っても過言ではない。
特に、ホテルの壁の裏側の「噂話」が蔓延しており、タヌキのような人間があちらこちらに暗躍しているケースも否定できない。
それはホテリエとしての意識の欠落であり、身勝手、傲慢さの塊のような価値なき似非ホテリエスタイルと、筆者は呼んでいる。
例えば、地方の百貨店でカルティエを販売するテナント担当者が、如何にもセレブで偉そうに語るところなど、勘違い、履き違えの典型と言える。
大枚を払い商品を購入するのは顧客であり、その金額に見合う優れた商品を販売するのがブランドであるが、接遇にて横着な対応が見え隠れするとなれば、そのブランド価値に傷がつく。
ホテルに有名人が寝泊まりしようが、政治家のドンが会食をしようが、ホテルは施設であり、有名人と会って話したとか政治家の食事の傾向を知っているなど、その他の利用者には全く無関係であり、自慢話にもならない。そういう思考回路が、勘違い、履き違えを増長しているのだろうと。言葉は悪いが、その辺の野次馬と変わりはない。
筆者がホテルや食事処のコンサルを引き受ける時には、必ず、「細心高度な接遇」ができるように、とことん「We are Ladies and Gentlemen serving Ladies and Gentlemen」を叩き込むことにしている。
一見客であろうが、常連客であろうが、筆者のような一般市民であろうが政財界の重鎮であろうが、そのサービスの基準は唯一不動であるべきものだ。ケース・バイ・ケースの区別は構わないが、差別は厳禁となる。
そのホテルの役員の個人的な好き嫌いで、接遇の基準値を上げたり下げたりするものではなく、人の命を預かるサービス業の最高峰に位置するホテリエとして、日々精進しなければならない。
よって、長きにわたり足繁く通う常連客へのホテリエの距離感とは、「苦楽を共にする」ほどの信頼関係を構築することにある。末長くしっかり対応していると、自然とその子供や孫たちが常連客を継承し、更に、その子供や孫たちが友人を引き連れ、新たな常連客としてファンが増えることになる。
年に一回の大きな宴会を予約する企業だから最高のおもてなしではなく、一人の一見客でも、一人の後期高齢の常連客でも同等の配慮にて、最高の接遇を提供するのが、本物のホテル&ホテリエと言える訳だ。
歴史と伝統を誇るホテルや旅館であればあるほど、長年偏っていたものが時折膿となり噴き出し、恥ずかしさの境界線を逸脱したローレベルの客対応になっていることも否めない。
良き先輩に恵まれたホテリエたちは、最高の接遇を無意識の内に実践しているが、品性に欠ける先輩と遊び呆けていた似非ホテリエたちは、自分の都合で動くことを常としており、失態を繰り返す。
国際儀礼もままならず、客の誹謗中傷や揶揄を唯一の趣味として、サービス業で勤務しているのだから、閉口ものである。
今、ホテルや旅館で働いている若者にサジェストしておきたいことは、「人の命を預かる」を常に意識して、「We are Ladies and Gentlemen serving Ladies and Gentlemen」を日々実践していただければと・・・。
サポート、心より感謝申し上げます。これからも精進しますので、ご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。