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アート界への金銭的支援、日本もちゃんとやるべき(続編)

昨日まとめました、「アート界への金銭的支援、日本もちゃんとやるべき」。複数の方から反応をいただき、とても嬉しく思いました。ちゃんと具体的な動きにつなげられるように、書くだけではなく、動いていかなければと決意を新たにしたところです。

さて、本日18時から、安倍総理の緊急会見がありました。そこであった、この言葉。

「文化芸術スポーツは大変重要であると思っております。この火が一度消えてしまっては、復活するのは大変だということは重々承知しております」「損失を補填する形で税金で補償するのはなかなか難しい。そうではない補償がないかということを今考えているところでございます」(Huffington Post『文化芸術、スポーツへの救済は? 安倍首相「税金で補償はなかなか難しい」』)

税金、投入されないと。ほぼ言い切っている…そうではない補償って、じゃあ何があるでしょうか…噂の和牛券とかだったら、どうしようかと。

冗談はさておき。税金が直接投入されないとなると、具体的な金銭的支援として、どんなやり方があるのか。考えてみたいと思います。

1.各国に関する追加情報

日本でのやり方を考える前に。昨日の記事からのつながりで、早稲田大学文学部演劇映像コースの藤井慎太郎先生のFacebookの投稿を教えて頂きました。新しい情報いただき、本当に感謝です。まずは昨日のドイツ、英国、オーストラリア、フィンランドに加えて、各国の情報を少し追記したいと思います。

フランス
3月19日発表:
文化省と労働省がアンテルミタンの失業手当受給条件を緩和。アンテルミタンや短期契約労働者に対する、封鎖期間中に切れる失業手当は封鎖が解けるまで延長。
3月18日発表:
文化省の第一弾緊急支援策(以下の施策を合計すると2200万€、約26億円)。財政的に安定した組織が、より不安定な組織・個人を支援するように、連帯を要請。(各分野における例:映画・視聴覚分野 映画館入場料税(映画支援の財源)の支払い猶予。支援基準を緩和。中止になったイヴェントに対する助成は、すでに振込済みであるかを問わず、維持。音楽分野 入場料税の支払い(期限2020年3月)を猶予。舞台芸術(音楽を除く) 雇用の維持に配慮しつつ、特に民間劇場に対して500万€の緊急支援を実施。等)

シンガポール

3月26日発表:
3月6日発表の支援に加えて、雇用の維持のために5500万シンガポールドル(約41億円)を支出。
3月6日発表:
芸術団体向けに160万シンガポールドル(約1億2000万円)の緊急支援。能力構築(スキルアップ)にかかる費用の助成。国立文化施設の利用料は約3分の1を減免。

カナダ/連邦政府

3月23日から断続的に発表:
・助成団体・芸術家向けの緊急支援策を検討中。
・雇用対策として、通常の失業保険の対象とならない自営業者、契約労働者、フリーランス向けの緊急対応手当を創設、2000$(課税対象)を最大4か月支給(3月25日、首相が発表)。
・助成金の範囲で、中止や延期にかかる費用(助成対象経費のみ)を支出可能。助成金の転用は不可。少額の場合を除き、余剰金は返還の必要あり。
カナダ/ケベック州
3月16日発表:
ケベック州芸術人文評議会は、助成団体・芸術家に対する緊急支援を実施(助成金支払いの前倒しではなく、短期資金や緊急帰国費用などの手当て)
藤井慎太郎先生Facebook投稿より一部を引用

昨日の事例でもありましたが、やはり助成金の柔軟な使い方への切り替えやイベント中止における返還の不要、基金の創設などが挙げられます。加えて、施設利用料の軽減などもありますね。

2.日本において考えられる金銭的支援

文化庁もおそらく別途支援方法を考えるということだとは思うのですが、政府による税金投入以外で、個人的に考えたことを3つ、ここではあげてみたいと思います。

2-1.既存の助成金の使い方を柔軟にする

海外の事例に学ぶように、文化庁、自治体、公益財団等で既に芸術文化団体・個人向けに出ている助成金の使い道を柔軟にする、ということが考えられます。制度の縛りなど障壁もあるかもしれませんが、この有事、助成金の意義に照らし合わせて考えれば、実行できると考えます。

「芸術文化振興基金」は、すべての国民が芸術文化に親しみ、自らの手で新しい文化を創造するための環境の醸成とその基盤の強化を図る観点から、芸術家及び芸術に関する団体が行う芸術の創造又は普及を図るための活動、その他の文化振興又は普及を図る活動に対する援助を継続的・安定的に行います。(独立行政法人日本芸術文化振興会ホームページより)

芸術文化振興基金、アーツカウンシル的機能を担う助成財団等、行政予算が絡むものは融通が利きづらい部分もあると思いますが、特に民間からの資金流入のある財団等にはぜひ、助成金の使い方を柔軟にすることを期待したいです。

2-2.行政、財団などで新たに資金を募る

とはいえ、個人のアーティストや、主に事業収入で実施している助成金と直接つながっていない個人・組織も多くいると考えられます。助成金以外の新たな資金流入も必要なのです。税金が拠出されなければ、民間から集めることを考えなくてはなりません。

例えば、行政・民間に限らず、ある程度まとまった資金を動かすことのできる、かつ芸術文化分野に知見のある組織が、クラウドファンディング等で新たに資金を募ることが考えられます。みなが厳しい状況でしょうが、個人的には私は寄付したいですし、企業からの寄付ニーズもあるはずです。アメリカの事例では、収益を寄付に充てる企業もあるようです。日本の企業にもぜひ、期待したい。

ニューヨーク在住のアーティストたちがビデオプラットフォーム「The Trickle Up」を設立。これは月10ドルの定額制ビデオプラットフォームで、劇作家、コレオグラファー、歌手などによるオリジナル作品にアクセスすることができる。収益はすべて新型コロナウイルスによる影響を受けたアーティストへ寄付される。(Tokyo Art Beatホームページ

個人や団体が個別に寄付を募るのも大事ですが、やはり行政や大手財団がまとまって資金を集めることに意味があります。まとまった金額を集め、再分配を適切に行うためです。

例えばZOZOファウンダーの前澤さんもアートファンとして知られますが、彼のような個人の富裕層のお金がどーん!と、ある分野に一点集中するのは、こういった有事の時には避けたい。やはり、適格な知見を持って業界全体の維持・反映に判断が下せる専門家のいる組織、公平な判断を下せる組織に、資金が集まることが重要だと考えます。

行政には、ふるさと納税の仕組みを使ったガバメントクラウドファンディングがあります。神奈川県は下記のとおり新型コロナウィルスの感染症対策で既に目標の1,000万円を達成しており、その他佐賀県や茨城県境町も子ども支援等で実施しています。芸術文化分野もぜひ、各自治体から取り組んでいただきたいです。

また、業界全体のために民間からの寄付を束ねるやり方として、個人や企業が、新たな基金を設立することも考えられます。ゼロからやる必要はなく、民間財団をとおして、いわゆるテーマ基金のようなものを立ち上げられるのです。パブリックリソース財団等が、こういった基金の設立を行っています。私も設立を検討中です。

ただこの場合、小さな基金が複数立ち上がっていくと全体としての資金分配は行いづらくなりますし、芸術文化に特化した知見を有する専門家等の協力が必要になると考えます。

2-3.地方自治体が資金を拠出する

政府は資金拠出をしない方向性ということですが、地方自治体のレベルでは考えられることがあります。補正予算、基金の活用です。

補正予算とは、当初予算成立後に発生した事由によって、当初予算通りの執行が困難になった時に、本予算の内容を変更するように組まれた予算。予見し難い事態への対応として予備費の計上が認められているが、予備費でも対応できないような事態が生じる場合には、追加予算を編成することになる。議会の承認を受けて、補正予算が成立する。突発的災害による対策として補正予算が組まれることもあるWikipediaより一部抜粋

日本全体でも今補正予算をどうするかが議論の焦点ですが、冒頭の安倍首相の話からも、芸術文化への支援は不透明。ですので、地方自治体、例えば特にアートに力を入れている自治体が、補正予算を芸術文化向けに取ることを期待したいです。

それから、基金も活用できるはず。東京都芸術文化振興基金世田谷区文化振興基金港区文化振興基金など、各自治体に設立されています。こういった基金の使い道の一つでもある、(1に書いた)助成金の活用を柔軟にするということに加え、(2で示した)資金調達を含め、新たな資金の流れが生まれることを期待したいです。

長くなってしまいましたが、1.既存の助成金等の使い方を柔軟にする、2.行政、財団などで新たに資金を募る(個人も財団等の仕組みをとおして、業界全体に向けた資金を集める)、3.地方自治体が資金を拠出する。こういった点を含めて、各個人・組織で具体的に働きかける、動いていく必要があると思います。

他にもこういったやり方があるのではないか、この方がよいよ、こういうものがあったらよい等、ご意見やご質問、あればぜひ、コメントいただけると嬉しいです。


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