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義父が退院するっぽい<4>

眠れないだろうとは思ってましたが、それなりにうとうとできたようで、気がつけば七時半前。
早朝に到着しひっそりしていた病院の1階に、出勤してくる人たちの声や足音が響くようになりました。
通路を出ればすぐ受付があるので、そこの事務の方も来たようで、トイレに行くときに横を通ったらびっくりされました。

深夜、早朝の病院の1階ロビーなんて、入院患者でもあまりうろつけない貴重な体験なんですが、寒いのよ。裏口の立て付けが悪いのか、風が入る音も響いてくるし、葬儀社さんがくるまで控え室に引きこもってました。夫は結局、最初の対面の後は一度も、義父の顔を見にいきませんでした。

八時二十分をまわったくらいに、葬儀社さん到着。
義母の時ももそうだったけど、人件費最小限の「小さなお葬式」では、病院のお迎えに来るのは一人です。安置室のすぐ横の扉が外に直結していて、ストレッチャーに載せ替えればすぐに遺体を車に乗せられます。
「とりあえず、 ○○にある会館に運びます。打ち合わせはそこで」
とのことで、義父を頼んで私たちは車で後を追いかける。
ガソリンの少なさにひやひやしましたが、メーターは減ること無く到着。

たまに前を通ることはありましたが、この会館、入るのはもちろん初めてです。九時を過ぎた頃合いだというのに、式の予定があるのか、泊まりの利用者がいるのか、館内は慌ただしいです。
夫が「トイレに行く」と奥に行ったところで、義父を連れてきたスタッフさんに発見される私。
そのまま、「どうぞお線香を」と、1階の安置室に通される。

てかここ、ほんとの安置室です。壁に遺体を収納(言い方)する引き出し型の安置室が、壁面によっつ。ホワイトボードには番号と名前が書かれていて、全部埋まっているようです。
その前に、ストレッチャーに乗ったままの義父。そして焼香台。
さすが格安プランだな、と思いつつ、さっくり線香を立て、すぐ扉をあけトイレから戻った夫を呼び込む。入れ替わりに私もトイレに行って戻ってきたら、さっきとは別の若いスタッフさんが、
「こちらのお部屋で打ち合わせいたします」
と声をかけてきたものの。夫がいない。
安置室の扉をあけたら、線香を上げ終えた夫が、手持ち無沙汰の様子でスマホをいじってた。
てか、壁面もあわせたら五体のご遺体がある部屋、しかも一体は自分の親なのに、のんびりスマホ見てるとか、さすがだよなぁ。

型どおりのご挨拶の後、さくさくと話は進みます。
通夜も告別式もない、直葬プランなので、一番大事なのは火葬場です。
千葉県のこの近辺、住民票の有無で、火葬料に雲泥の差が出るところが多いのですが、義父は元々東京都民。私の地元の市でも、近辺の市でも、火葬料は変わりません。
うちの地元の火葬場だと、最短は二十五日。しかし千葉市なら、二十三日に空きがある。

「小さなお葬式」の最安直葬プラン、安置日数は二日分までセットに入っていて、超過すると一日につき一万円以上プラスされるのです。二十三日に火葬できれば追加料金なし。千葉市、即決。
「では、本日、このまま、千葉市の火葬場に近い、当社の会館にお連れして安置させていただきます」とのことで、
なるほど、それでストレッチャーに乗ったままだったのね。

場所が決まると、後はオプションの確認。
なにしろ、余計なものは何もない最安値プラン。白木位牌も仏衣もなければ、火葬後に骨壺を安置する祭壇すらついていないのです。当然花もありません。
「90年生きた方ですし、最後にお花くらいはどうでしょうか」
っていわれても、もう死んでるし。本人も花より酒って感じだったし。
追加の提案、全て却下。すがすがしいほどお断りしましたが、一つだけお願いしたのは、

「義父の棺に入れたいモノがあるのですが」

年配の人なので、自分の数珠を持っています。どうせ残っても処分するだけなので、せっかくだし一緒に棺に入れて持っていって欲しい。答えは、
「当日はダメですが、今あるなら持たせてあげられます」
ありますとも。全て見越して準備してるのです。

千葉市に更に移動される直前の義父に、使い込まれた木数珠を持たせることに成功。
(これが石だったらだめなようです。千葉市は副葬品も厳しいらしい)

義父、人生最後で、東京から千葉県某所の病院に入り、亡くなったあとは息子の居住地ですらない、縁もゆかりもない千葉市の火葬場で骨になるのが、確定です。私も、まさか千葉市の火葬場に縁が出来るとは思いませんでした。

金額も当初の予定で確定。後は当日、葬儀社の方に精算、火葬費は別にお支払い。
調べたら、千葉市は待合室、無料です。持ち込みもOK。お菓子と飲み物くらいは持参しますかね。

サクサク打ち合わせている間に、義父は出発したようで、最後にお線香を上げる提案もされませんでした。この時点で、朝十時。
早い、安い、楽ちん。
そして、午後の出勤に間に合ってしまい、義父の亡くなった日だというのに、私は普通に仕事に行きました。
預かり安置、おすすめします。故人との関係にもよりますが。

次回、市境を越えて火葬に赴く私の巻。リアル日程で、明日です。

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