知られざる焼き物の世界。紺青の鈴
紺青の鈴
高橋治 著
紺青の鈴という小説を読んだ。
これを読んだには理由がある。石川の銘酒「菊姫」の記述があるからである。
何年も前。父親から本の一部をコピーした紙をもらった。こんな内容である。
石川県では東京へ出て大成する人間は多いが、地元にとどまって成し遂げる人間というのはそう多くない。菊姫の社長はそのひとりでこだわり抜いた酒を作り続けている云々。
菊姫を引き合いに出してその次に小説に登場する人物に話をつなげていく。
父はぼくが菊姫を好きなことを知っていて小説の1ページをコピーしてくれたのであった。その紙が先日ぽろと出てきた。そしてそのくだりをみてこの小説そのものを読んでみたくなったのである。
舞台は石川県。九谷焼の陶工の娘が主人公である。祖父が人間国宝に選ばれるほどの名家で育った彩子の陶芸成長物語に男女の危ういロマンスを絡めた一品だった。
描かれる女性すべてが男が妄想する理想的な女性像として描かれているのは現代に読むには少々きついものがある。あまりにも男にとって都合が良すぎる女ばかりで男のぼくでさえ読んでいて気持ち悪い。しかしこの小説の本位はそこではない。陶芸、焼き物、九谷焼について学べることにある。
ぼくはまったく知らなかったが、九谷焼というのは一度断絶していて、古九谷と呼ばれる過去ものと現代の再興した九谷焼とは別物であるというのだ。そのへんの細かい事情についてかなり言及していて実に勉強になる。例えば佐賀の伊万里と加賀の九谷は切っても切れない関係にあるとか。九谷の発祥は諸説あって今のところ石川の久谷村ということになっているが、九州発祥説もそれなりに説得力がある。等など。
焼き物の世界は奥深い。普段使う食器であると同時に芸術品になったりする。奥深い世界からおいでおいでと手招きしてる。あぶないあぶない。焼き物は身を滅ぼす。ここはひとつ焼き芋で我慢しようじゃないか。