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学校に行かず図書館に行ったときの話。


『図書館のおばさん』


小学生の頃、不登校だった時期があった。
両親の離婚がきっかけで塞ぎ込んでしまった私は、小学5年生から卒業までの約2年間、学校に行かなかった。

イジメられていたなどの明確な理由はなかったにも関わらず、
小5の夏休みが終わって、さぁ二学期だ! 
という日から、

「あ、今日から学校、行けないかも」

急に行かなくなってしまった。

行けなくなってしまった。

大人になった今ならば、急に会社に行けなくなったとしても、
美術館や水族館など、自由に出かけることができる。
どこかへ旅行に行ってもいい。
ストレスが溜まったらカラオケやボーリングなど、
いくらでも過ごし方はある。
 

しかし当時は義務教育真っ只中の小学生。
本来ならば学校に「行かなければならない」立場だ。
小学生をアルバイトで雇ってくれるところもなければ、
家も貧乏だった為、どこかに行こうにもとにかくお金がなかった。

母は仕事に出ているから、日中は家に一人。
よって話す相手は誰もいない。
今みたいに携帯で無限に動画を観れる時代でもないから、暇つぶしはもっぱらテレビ。


「さわやか3組」観てさわやかな学校生活を疑似体験してみたり、
「ストレッチマン」観て「腹筋が伸びてきたぞぉー」とか言ってみたり、
「つくってあそぼ」観るだけで全然つくってあそぼしてなかったり。

毎日、NHKの子供向け番組を飽きるほど観ていた。



当然、飽きた。


テレビにもゲームにも飽き、やることがなくひたすら家でボーッと過ごす日々。
「このままでは廃人になってしまう…」
と、子供ながらに危機感を抱いた私は、なんでもいいから外に出ようと、
近所の図書館に行ってみることにした。
図書館だったら絵本や漫画もある。
なにより何冊借りても無料だ。最高じゃないか。


自分が小学校をサボっている立場であることも忘れ、意気揚々と図書館に向かうも、いざ目的地に着くととても緊張したことを覚えている。
母と来たことはあったけれど、一人で来るのは初めてだ。
しかもこんな昼間に小学生が入っても大丈夫だろうか…
と不安に思ったのも束の間。
入った瞬間、その不安は吹き飛んだ。

そこでは大人達が静かに、周りを気にせず手元にある本と向き合っていた。みんな自分の世界に没頭している。
誰も私のことを気にしている様子はない。

なんて素晴らしい空間なんだろう…。
なんかめちゃくちゃ涼しいし。
ここは天国かもしれない…。


私はあっというまに図書館の虜になった。


ゆっくりと本棚を眺め、そろそろ帰ろうかなと、本を持ってカウンターへ向かったその時。
カウンターの中のおばさんが「学校はお休み?」と話しかけてきた。
私は何と言っていいかわからず俯き、
「…行ってないです」とだけ答えた。

この頃、周りの大人達は私の顔を見る度、
「学校へ行っておいで」「行けば楽しいよ」「先生も心配してるわよ」と言うばかりだった。私も学校に行かないことはいけない事だと頭ではわかっていた。責められても仕方がなかった。
しかしそのおばさんは、
「そうなの。またいつでもおいでね」とだけ言い、貸出処理を終えた本を渡してくれた。
 
その日から私は、学校に行かない時間のほとんどをその図書館で過ごすようになった。
学校にも家にも居場所がなかった小学生の私が、居場所を見つけた瞬間だった。

しばらくして私は中学生になり、自然と学校に通えるようになった。
それまで窮屈さを感じていたのが嘘のように、中学生活はとても楽しく、
私の居場所は中学校の図書室へと変わっていった。


今でもときどき思う。
あの時。もしも図書館のおばさんが「どうして学校に行かないの?」「学校休んでこんなところ来てちゃダメよ」なんてことを言う人だったら。
私は図書館を、読書を、本を。きっと嫌いになっていただろう。
そうすると「文章を書く」ということにもたどり着かなかったと思う。

そのままどこにも居場所を作れず、中学校にも行けなかったかもしれない。

顔も名前もわからない、図書館のおばさん。
もう二度と会うことはないだろうし、たとえ会えたとしてもわからないのだけど。
あの時のあのおばさんが、不登校だった私を何も言わずに受け入れてくれたから、私は本が、読書が、大好きになれた。

大人になった今でもなにかに疲れたときや気分がささくれだったときは必ず図書館に行く。
そうすると今でも、子供の頃に感じた温かさがじんと胸にひろがるから。呼吸ができるから。

もしも当時の私のように、学校に行けず悩んでいる子供がいるならば、図書館に行ってみてほしい。
友達が出来ないなら、本と友達になればいい。
もしも今、会社に行けず悩んでいる大人がいるならば、図書館に行ってみてほしい。たった一冊の本が心を軽くしてくれるかもしれないから。

子供の頃、本や読書に救われた私は今、自分の本を出版することを目標に執筆活動に勤しんでいる。いつか私が書いた本が、図書館に並び、生きづらさを抱えているどこかの誰かに届くことを願って。


あの頃、小さな私を救ってくれた、
あの図書館のおばさんのように。


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※上記の記事は、読書エッセイにて応募、
落選したものを加筆・修正し掲載しました。

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