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なぜ部活では、一年生が雑用をするのか【ヤマシタのおたより#47】

なぜ部活では、一年生が雑用をするのか。

ほとんどの部活では、雑用は一年生の仕事である。
私が中学生のときもそうで、私は自然と受け入れていた。
(ちなみに私は水泳部)

だって、一番年下だし。
なんの疑問も持たなかった。

だがある日。
顧問の先生が、いつもの練習後のミーティングで、こう切り出した。

「みんな、なんで部活の準備を一年生がやるか、分かってるか?」

え、下っ端だから。それしかなくない?
私は心の中で「?」をたくさん浮かべた。

先生は、こう続けた。
「たぶん、なんで自分たちばっかりって思っとるヤツもおるやろう」

「一番年下やから、と考えているヤツもおるやろう」

「でもな、違うねん」

えええ!?!?!?
違うのー---------!?!?!?!?

頭の中がひっくり返った。
一番年下やから、じゃないん????????
先輩に雑用させるのは忍びないねんけど、それじゃないん??????

違うのー---------!?!?!?!?
と、私の脳内が、お祭り騒ぎになっていることなど、先生は露知らず。

「あのな、もし、心優しい先輩ばかりで、部活の準備を上級生がやっていたら、どうなると思う?」

「一年生が、準備に慣れていなかったら、どうなる?」

え、先輩がやってくれるん、それやったら嬉しい…

なんて口に出せるわけもなく、きょとんとした顔でいる私(たち)。
先生は続けた。

「上級生は、必ず引退する。卒業する。そしたら、次誰が準備をするんや?新しく入ってきた一年生に、誰がが伝えていくんや?」

「準備も片付けもその他の雑用も…どれも、すごく大事なものや。それをするから、する人がおるから、練習ができて大会に出られて、こうやって部活として成り立つねん。

「それを、ちゃんと次の代に伝えていかな、困るのは後輩たちや。」

「上級生は1年生を手伝うなとは、言わん。一緒にやることがあってもええわ。でもな、いわゆる雑用は、その時々で対応が変わったりする。だから、なるべく1年生が多く経験して、こういうときはどうする、っていうのも分かっててほしいねん。それで、2年生になったら、新入生にちゃんと教えたってほしい。

なるほど、と思った。
ただ新人だから、上級生を敬うために雑用をするんだと思っていた私。
そうじゃなかったんだ…そして、たしかにその通りだ…

ものすごい納得感が、身を包んだ。

「これが、新人が雑用をする理由や。先輩は、経験してるから、色んなことを端折ったり、飛ばしたりするかもしれん。でもな、それは経験してるからや。一つひとつの意味を分かってるからええねん。新人は、なんでこれをするのか、どういう意味があるのか、それを知りながら丁寧にやっていくことが大事や。そして、基本をマスターしたうえで、後輩に伝えていくんや。宜しく頼むぞ、一年生。

先生はミーティングの終わりを告げ、私たちは挨拶をして部室(更衣室)へ戻った。

なんだかすごい話を聞いた気がした。
そして、大人になったいま、本当にすごい話だったなと思うようになった。

何も特別なことは言ってないし、格言というほどでもない。
ごくごく当たり前のことで、誰にだって理解できる内容だった。

だけど、何がすごいって。
これをちゃんと言語化できて、生徒に伝えた先生、いや、生徒に「新人が雑用を担う理由」を伝えようと思った先生が、すごいのだ。

以前、この記事で「子どもだからといって蔑ろにせず(略)教えてくれた父には、感謝している。」と書いたが、この顧問の先生に対しても、同じように思う。

何かを伝えるとき、または何かをさせるとき。
理由まできちんと説明する大人が、できる大人が、どれくらいいるだろう。

もちろん、すべての物ごとにおいて、何から何まで言うのがいいとは、思わない。

ときに、「自分で気づけよ~!」と、わざと多くを語らないことだって必要だ。
でも、それはあくまでも「説明するか否か」を考えたうえでの選択であるべきだろう。

もしかすると、いろんなルールや規則に対して、大人が意味を理解していないことも、多いのではないか。
または、意味がないと決めつけて、無駄な規則だと思っていることが、多いのではないか。

そんなことさえ、考える。

そういえば。
最近、校則や就業規則に対して「意味がない」「ブラックだ」という声をよく聞く。

たしかに、疑問が多いルールもあるし、それは改善すれば良いと思うけれど、たまに「いやそれは○○やからやん!なんで意味がないって思うねん!」とつっこみたくなることがある。

これについてはまたの機会に話すけれども、「当たり前に疑問を持つ、ちゃんと考える=否定する」になっている気がしてならない。とても危険だと思う。

もしかすると、どこかの「一年生が雑用をする、という規定ルールに疑問を持った」学校で、「一年生に雑用させるのはやめよう!上級生が進んでやろう!」という部活があるかもしれない。
数年やってみてメリットが多く生まれたのなら、ぜひその話を聞きたいけれど…いかがかしら。

少し話が飛んだけれど。
私は、この先生のおかげで、こう思えるようになった。
「理不尽に思える規則やルールにも、もしかしたら意味があるのかもしれない…」と。

そして、「やたらめったらと、異議を唱えるのは、もしかしたら恥ずかしいことかもしれない…」と。

厚顔無恥な大人は、とても品があるとは言えない。
全てにおいて黙って従うことはないけれど、一度、存在する意味を考えてみるというのは、とても大切なことなのではないかと思う。
(そのうえで唱える異議は、大いにアリだ)

さて、この先生も非常にユニークで、いろんな思い出がある。

ひとまず今日は、「私の恩師シリーズ」に加えつつ、記事を結ぼうか。

あ。
気づいてしまった。

私、当時の先生の年齢を、超えている…



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