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【劇団ドガドガプラス】 谷崎先生、ごめんなさい。「春琴SHOW」は浅草大サーカスだった!!

前回の『金色夜叉・改』に続き、『春琴SHOW』を観てきました。予想は完全に裏切られました。いや、いい意味で!! 観劇当日につづった速報レポートです。
※多少のネタバレは含まれますが、ネタバレしたところで全然バレない(?)のがこの劇団の芝居なので、ご了承ください。
※タイトル画像は劇団公式HP、文中写真は出演者のツイッターより


谷崎潤一郎・作の小説「春琴抄」をまず読んでみた。あらすじはこんな感じです。

盲目の美少女、春琴しゅんきんは三味線の演奏家として一流の腕前。
四つ年上の奉公人、佐助は身分違いにもかかわらず
密かに春琴に心惹かれており、
ついには彼女の弟子となって三味線の道へと進む。
けれどもそこに待ち受けていたのは、春琴からの厳しすぎる稽古と折檻。
それを泣きながら耐え忍ぶ佐助。
やがて春琴の妊娠が発覚。父親は果たして誰なのか。
さらには数年後、何者かによって
春琴の顔に熱湯がかけられるという事件が起こる。
美しかった顔は変わり果てたものに。
それでも春琴を一途に慕う佐助のとった行動とは…。

chihalix

この小説は明らかに悲劇である(ラストでは異常な幸福感が描かれるが)。
なおかつ、「純愛」と「SM」がない混ぜとなった妖しい恋愛を描いている。
とは言え、恋愛と言っていいのかも微妙であり、男女のラブストーリーに必須の“甘さ”が全く感じられない(小説中、ほんの2〜3行、甘さを感じる瞬間がある)。

類型におちいることなく、谷崎は男女の新しい寄り添い方を小説という手法で見事に提示してみせた、と言えるのではないでしょうか。いやそれにしても、この世界観、エグいな。

さて、前説はここまで。
お待たせしました、いよいよ劇団ドガドガプラス『This is…春琴SHOW!!』(これが正式タイトル)の幕開けです。



盲人がナイフを投げちゃダメ!!

この芝居は二幕で構成されています。

てっきり春琴を主人公にして物語が進むのかと思ってました。ところが、春琴、冒頭と最初の方のシーンに出てきた後、もう登場しないのです。次に出てくるのは二幕めの冒頭。そんなのって、アリ?!(アリなんです!!)

しかも、春琴はサーカス団に所属するナイフ投げ芸人でもあるという。そしてそのサーカス団の団長が、なんと谷崎潤一郎!!

小説「春琴抄」の世界観、それはピンと張り詰めた三味線の弦のように繊細なものですが、それが痛快にブッ壊されてる。あたかも、三味線にピックアップを搭載し、マーシャルのアンプを繋いで激しくコードをかき鳴らすが如く。


This is SHOW!!

物語は重層的に進行します。

春琴と佐助の関係、谷崎と妻の関係、軍服の女と腹話術士の関係、その裏で動き始める戦前の昭和史…、etc.
一応、芝居の中心にいるのは谷崎団長なのですが、主人公は固定されておらず、シーンによって目まぐるしく入れ替わります。

そこに容赦なく放り込まれる引用。「ヤッターマン」のドロンボー一味、「チャーリーズ・エンジェル」、谷崎の小説「痴人の愛」、CCレモンのCMソング…。

え? わけわからん? 「春琴抄」と全く違うって? 
そうです、だから『春琴SHOW』なのです。


コラージュを止めるな!!

映画でいうと、さまざまなカットが編集で挿入されてくるみたいな。

文芸浪漫悲劇としての1本の映画フィルムがあったと仮定しましょう。まず、そのほとんどを切り捨てます(おいおい)。
残ったフィルムに、ラブストーリー、小喜劇、歴史劇、腹話術、裸芸、カーニバル劇、ギター弾き語り演奏、ミュージカルなどを切り貼りします。
それを映写機にかけるとこの芝居が暗闇の中に浮かび上がってくるという…。

と、ここまで書いて気がついた。作・演出の望月六郎は映画監督なのですね。
その望月が現実世界に出現させた非現実。舞台上でライブ進行する幻の映画。喜劇でもなく悲劇でもなく、“モチヅ喜劇”であり“モチヅ悲劇”。

カメラは止めても、演技とコラージュは止めるな、の2時間40分。


ダンサー≠踊り子!!

最後に、役者の皆さんの素晴らしさについて触れたいと思います。

前回の『金色夜叉・改』に出演していた方が、全く違うキャラクターで登場されていたりして、その振り幅・表現力に感心させられました。

「歌って踊れる浅草の劇団」
これが劇団ドガドガプラスのキャッチフレーズです。
それにしても、女性ダンサー陣の醸し出す雰囲気ときたら、もう。ダンサーではなく、つい「踊り子さん」と呼びたくなるような…。このニュアンス、観ればわかります。

『春琴SHOW』は今年の1月、初日を終えたところで全公演が中止となってしまった演目です(これは確実に悲劇!!)。原因はもちろんコロナ。今回も前半の日程が中止となり、後半もどうなるかわかりませんでした。そんな不安定な状況の中、上演を信じて稽古を続けてこられた役者の皆さんに敬意を表したいと思います。

グランドフィナーレ。この瞬間を迎えるために、
一人一人、乗り越えてきたものがあるはず…(泣)


さて、この『春琴SHOW』も残すところ本日8/25(木)の上演のみとなってしまいました。奇跡の舞台を目撃できる最後のチャンスを、どうぞお見逃しなく。
劇団の公式HPを貼っておきます。ご参考までに。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(追記)2022.8.26
最終日の公演も無事終了した模様。この夏、劇団「ドガドガプラス」の復活は、それ自体がドラマチックな作品だった。



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