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【広告展覧会・10の視点】 第十章 思索、施策、試作。

「ウチのターゲットは60代」と平気で言う人がいる。違う。戦略的に望んでそうなっているわけではなく、そうなってしまっているだけだ。とか、いろんなことを日々、思索する。そうすると固定概念から解き放たれた施策が浮かんでくる。この施策をちょっと形にしてみようか、と思ったり…。最終章でご紹介するのは、ふとした思いつきから生まれた試作集。ロックバンドでいうデモテープみたいなもんです。実際の仕事ではないから自由で荒削り。なのに、なんとなく可能性を感じる。メジャーデビューを目指して路上ライブする若者の自作曲、への憧れ。



全てがネット上の仮想空間で完結する現代、屋外広告が見直されてきているように思う。街で遭遇したリアルな広告体験は、体験者を介して、さらにネット上へと拡散される。もはや屋外、ネット、マス媒体といった境界線はあまり意味をなさないのかもしれない。
これは真夏の渋谷や表参道を想定した「リアル水槽広告」である。“みずみずしい、うるおい”が特徴のこの化粧水の世界観を、全身で感じてもらうための仕掛け。夏季限定の待ち合わせ場所として、上方にミストシャワーを設置したり、隠れスピーカーから水しぶきの音が聞こえたりすると良し。コンセプトは「都会のオアシス」。この前でサンプル配布ができればさらに良し。

コピーを変えた別バージョン

ノドが渇いていれば、肌も渇いている。

NO WATER, NO BEAUTY.



女性用、男性用、さらにはそれ以外のかた用(もしくは無性別用)の商品選択肢を用意することも、これからの企業にとっては必要ではないか。そんな問題意識から生まれた試作である。
ジェンダーに関してはさまざまな考え方があるので、企業は炎上を恐れて手を出しづらい傾向にある。2018年時点での表現ではあるが、本当に適切かどうか今も悩んでいる。あまり深刻なトーンにもしたくなかったし…。
どうしても表明したかったのは、「企業としてこの問題から逃げない」という姿勢。「この化粧水の売上の一部は、LGBTQの人権啓蒙団体に寄付されます。」という注釈もつけた。

先日、こんなツイートを見つけた。うれしかった。



2017年に作った、トンボ鉛筆の新聞1ページ全面広告(上記の黒枠部分)。何も書かれていない署名欄の上に、鉛筆が一本。右下に小さくコピー。

大統領令の署名には使えない。一本、芯が通っている。

超高級なサインペン(おそらく)を使って、その大統領がサラサラと署名するだけで、多くの人の運命が変わってしまうのだろう。そんな時代を予見した広告となってしまった。
鉛筆には人を不幸にしないイメージがある。ずっと握っていると、ほんのり温かみを帯びてくる。子供たちがそれを使って文字や計算を覚え、学生は初恋の相手をデッサンし、建築家は快適な家や都市を設計する。そしてデビッド・ボウイは、ややかすれた筆致でノートに「HEROS」の歌詞を書いた。そんな素敵な道具だ。一本の鉛筆から、数々の幸せが生まれてきた。これからもそうであってほしい。



2019年、化粧品会社AVONは「FMG&MISSION」に社名変更した。その告知を兼ねた企業広告である。
日本AVONは1968年創業なので、「FMG&MISSION」のロゴ下にsince 1968と記し、馴染みのない会社名ではあっても伝統と実績があることをアピールした。引き継ぐべきAVONのDNAを3つに集約(愛・社会活動・ボーダレス)。それぞれの広告に次のようなキャッチフレーズをつけた。

私たちは動物実験を決して行なわない。
誰かを犠牲にして手にする美しさは、本当の美しさではないと思うから。

90年代なかば、すでに「乳がん啓蒙運動」に着手。
日本で賛同してくれる企業は、当時、まだほとんどなかった。

国も、宗教も、人種も、性別も関係ない。
美しくなりたいあなたを、私たちは全力で応援する。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。(番外編に続く)


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