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大学生自転車日本一周旅四十七日目:甲府駅から前橋県庁へ

本編

 元々この日は埼玉県の秩父市を抜けて群馬県前橋市に行きたいと思っていた。だが、神戸にいた日にその道をたまたま調べていると、そこは自動車専用道であることが判明。さらに、その周りにも自転車で通れそうな道を見つけることが出来なかったために秩父を通過することは断念。秩父を通れば甲府市から前橋市まで比較的直線的に進めたのに。

 なので、少し遠回りにはなってしまうが、一旦甲府市から東京都の八王子市まで東に移動した後北上して前橋市を目指すルートに変更した。そのルートではどうやら笹子トンネルを通るらしい。地図で見た感じ結構長い。だが、トンネルが長いということは、その分の登りを回避できるということ。じゃあ笹子トンネルまで行けば残りは基本的には下りか、と楽観的に考えて出発した。

 甲府市街を抜けて笹子トンネルへと進む。山が近づいてくるとそれまで市街地だった光景が変わっていき、畑が広がり始めた。ぶどうを始めとするフルーツもここらへんで育てているようだ。標高自体も甲府市内と比べて50mほどは少なくとも高いように感じる。

 遂に笹子トンネルに続く道が始まっていった。トンネルとは言え、ある程度登ることは覚悟していた。だが、甲府市自体250mほどの高さにあるし、それからさらにここまで登ってきているから、100mも登らないだろうと思っていた。しかし、始まった登り坂は一向に終わらない。トンネルも見えそうで全く見えてこない。苦しい時間は、永遠とも思えてしまう。一瞬立ち止まって押しはしたものの、ほとんどは自力で漕ぎ切って、トンネルの手前にある道の駅甲斐大和でトイレ休憩を取ることにした。ゆっくりするついでに標高を調べてみると約600mと書いてある。どうやらスタートから合計で350mぐらいも登ったらしい。やっぱり永遠とも思えた登りは嘘じゃなかった。こんなにも登るなんて。不意打ちがやっぱり一番身体に効く。

 笹子トンネルは片側規制とアナウンスされていたので身構えていたが、実際には規制なんて行われていなかった。精神的なプレッシャーから免れる喜び。ただ、この長いトンネルで規制が無いとなると、いつ後ろから大型車がやってくるか見当がつかないという面もある。この規制なしは結局ラッキーなのかアンラッキーなのかよく分からない。トンネルまでは最初は緩やかに登っていたものの、あとはずっと平坦で、とても漕ぎやすかった。大型車の割合は高かったけれど、幸運なことに交通量自体がそこまで多くは無かったから、思った以上に安全な道のりだった。

 トンネルが終わると下りが始まり、大月市へと流れていく。大月市はこんな山と山の間にあるのに人は多い。どうやら大学もあるらしい。関東とのつなぎの位置にあるからなんだろう。そもそも山梨自体江戸時代につなぎという意味で重要視されていたみたいだし。

 大月市で昼休憩を取ったら、次は上野原市を越えて神奈川県を目指す。ここら辺は山道ではないものの急に登らされたりと大変だった。神奈川県との県境を越えると(確か通った道に県境の標識は無く、気付かぬうちに越えていた)ついに1か月半ぶりの関東地方。最後にいたのは栃木の日。あれからずいぶん長い時間が経ってしまった。

 神奈川県から東京都に入るには高尾山のそばの大垂水峠を越える必要がある。大月市での昼休憩依頼まともに休んでいなかったので、その峠道が始まってしまう前に一旦コンビニで休憩でも挟もう、と考えていた。飲み物もそろそろ買い足しておきたい量にまで減っていた。しかし、何の前触れもなく、いたって自然にその峠道は始まっていた。

 ただの上り坂かと思って漕いでいたら、次第に周りから家やお店が消えていき、最終的にはグネグネした峠道が残されていただけになった。この旅最後の峠だったから、いくらしんどくても登り切ると心に決めていた。だからこそ登り始めるまでの準備は万端にしておきたかった。しかし、それも叶わない以上、現状のベストを尽くすしかないと必死に踏ん張った。途中で片側規制に出くわしたが、運悪くちょうど出発するところ。片側通行は休憩のタイミングだったのにそれもなくなった。というわけで、全く逃げも隠れもできなくなった。限りある力を振り絞る。そして、片側規制を通過してからそう遠くない頃、無事に山頂までたどり着くことが出来た。記念に写真も撮っておいた。

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 高さだけ見たらこれまでよりも楽に思える。しかも、実際は登り始めの標高も100m以上あったはずなので数字以上に楽に思える。だが、実際は十分これまでの山や峠と比べてもきつく、今回の旅で完全に登り切ることが出来た峠の中では最も高かったと思うし、最後の峠を攻略できたという点でいい終わり方が出来たように思う。感謝、大垂水峠やその他越えてきた山・峠。また一つ成長できたように思います。

 登った後は下り。高尾山の登山客を横目に一人颯爽と下っていった。もう山登りはないのだと思うと、静かな喜びが沸き上がってくる。そして、神奈川県ではとることのできなかったコンビニ休憩へ。自分へのご褒美がてら、期間限定のレッドブルを買って飲んでみた。翼が生えたって自転車で移動しなきゃいけないけど。ちなみに、この時やっとレッドブル童貞を卒業した。次はモンスター童貞を卒業しようかな。

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 この後は八王子へと抜けていく。平地が始まって道が広くなった。八王子駅の手前で左折し次は埼玉県の熊谷市へ。途中で聞いたこともないような東京の市を通過していった。23区以外一部を除いて影が薄いのよ。横田基地の横を通ったときはちょうど飛行機が飛び立つところだったみたいで、ちらほらそれを見物している人もいた。

 そういえば、八王子でネットカフェにでも入って夜を明かそう案も実は前日まではあって、それが第一候補だったけど、それだとさらに二日間フィニッシュまでかかりそうだったから、この日の朝に前橋までは行くことに決めていた。だが、前橋に着くのは夜中。そこからホテルはちょっと気が引ける。かと言って野宿はもうしたくない。

 そうだ、寝なければいいんだ!これまでは、次の日もさらにその先も漕ぎ続けなければいけなかったから必ず睡眠はとっていたけど、明日ですべてが終わるのならば寝なくたって構わないわけだ。最後の最後にその選択肢が頭の中に残っているというのが恐ろしいと自分でも思う。だけど、次の日に終わるにはそれが良い。夜中も動き続けるから、夜飯をがっつり食べるのではなく、おなかがすいたらコンビニで少し買って休憩がてらつまんでいくことにした。

 熊谷に着くころには夜になっていた。熊谷からは国道17号線を走って群馬県に突入した後、右折して群馬県庁方面へ。右折するまでが長く、どんどん夜は更け始めていたけど、時間に追われることのない解放感を抱いてマイペースに進んでいった。

 しかし、手持ちの強いライトは充電が長くは持たない。群馬県庁まで持ってくれればという期待はあったが、それも虚しく前橋駅に到着前に切れてしまった。急いでモバイルバッテリーで充電。もう一つの以前一度切れた、福島市の自転車屋で買った電池式の弱いライトを代わりに点ける。強いライトはどうやら4時間ほど持つみたい。それを踏まえて上手くライトを使っていかなければ。

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 県庁まで行って写真を取ったら(県庁めっちゃ高層ビルだった)その先の公園でお着換えをした。体は洗えないからギャツビーでふきふき。野宿できそうな場所ではあったけど、今日は寝ない。準備を整えてさいたま市へ行こう。ただし、もう22時を回っていたし、自転車を押して歩けばライトを付けなくていいことに気が付き、想定外に登りまくったせいで疲れもたまっていたのでゆっくりと歩いていくことにした。

 まだ日付けは変わっていないが、キリが良いのでこの日はここまでにする。

ルート

 甲府市からは国道20号線を通って八王子市へ行った後、国道16号線、国道407号線で熊谷市へ。熊谷氏からは国道17号線を北上し、高崎市で県道13号線に乗り前橋市へ。

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