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【選挙ウォッチャー】 沖縄県知事選2022・分析レポート。

 8月25日告示、9月11日投票で、沖縄県知事選が行われました。
 立候補したのは、故・翁長雄志さんの後継者として「オール沖縄」の支援を受けて4年前に当選した現職の玉城デニーさんと、その戦いに惜しくも敗れた自民・公明推薦の前宜野湾市長の佐喜眞淳さん、中国のカジノ業者からお金をもらい、ズブズブの関係だったことから維新を除名されるすることになったことがある下地幹郎さんの3人です。
 選挙が始まる前は、新型コロナウィルス対策がうまくいっていなかったことに加え、直近の名護市長選、南城市長選、石垣市長選、沖縄市長選などで自民・公明推薦の候補がことごとく勝利。「オール沖縄」の弱体化が指摘され、今度という今度は玉城デニーさんの再選は厳しいのではないかと見られていました。
 ところが、いざ選挙が始まると玉城デニーさんが先行が伝えられ、逆転には至りませんでした。どうしてこんなことになったのか。このレポートでは詳しく解説してまいります。

玉城 デニー 62 現 立憲・共産・社民・れいわ・社大推薦
佐喜眞 淳  58 新 自民・公明推薦
下地 幹郎  61 新 無所属

 これまで「辺野古基地の建設」は、自民党の悲願でした。
 そのため、4年前の沖縄県知事選では、菅義偉さんや小泉進次郎さんが応援に駆け付け、選挙を盛り上げました。一方、全国の平和を愛する人たちも全国からやってきてボランティアに加わり、玉城デニーさんを応援していました。
 ところが、今年の沖縄県知事選は、かなり様子が違いました。
 7月の参院選で安倍晋三が凶弾に倒れて以来、「自民党と統一教会との蜜月」が連日取り上げられ、人気のある自民党議員が沖縄に入らず、いつになく自民党の元気はありませんでした。
 そういう観点で言えば、今年の沖縄県知事選は「自民党にどれだけ逆風が吹いているのか」を見るのにはピッタリで、選挙の動きや票を分析すると面白い景色が見えてきます。


■ 下地幹郎候補の主張

 下地幹郎さんは、中国のカジノ運営企業「500ドットコム」との関係が疑われた際に維新を除名され、しばらく無所属として活動。昨年の参院選で沖縄1区で立候補しましたが、あえなく落選。今年の参院選には立候補することなく、あえて沖縄県知事選に立候補してきたわけですが、ポスターを見れば一目瞭然、めちゃくちゃパチキレています。
 オレンジのスーツ、オレンジのネクタイという禁断の「音喜多カラー」で登場したミキオパイセンは、何を血迷ったのか、オレンジ色のバラの花束を持っていました。結婚式のアルバムを見せられている気分ですが、1ミリも笑わずにガチでやっているのですから、こっちが震えます。
 キャッチフレーズは、「全てを賭けて、すべてを変える」。だからでしょうか。中途半端な金正恩大将様のようなカリアゲをかまし、デキる男っぽくイメージチェンジをしていたのですが、変えたことで悪くなっています。これを俗に「改悪」と言います。

ミキオパイセンの選挙カーが、からあげを売っているキッチンカーに見える

 しかも、このポスターのイメージのまま、「透明のマジックミラー号」と呼ばれている選挙カーに、自分の顔とオレンジ色のバラの花束を載せたところ、ミキオパイセンの雰囲気も相まって、「からあげ」に見える始末。机に肘をついて、こめかみのあたりを触りながら、こっちを見ているミキオパイセンの写真が今にも「あの頃は24時間、からあげのことしか考えていませんでしたね」と喋りそうで、これぞまさに「ミキオ・カラアゲ・イノベーション」です。

宜野湾市の我如古交差点で街頭演説をする下地幹郎さん

 下地幹郎さんは、かなりダイナミックな政策を語ることで、少しでも票を獲得しようとしていました。具体的には、最大の争点である「辺野古基地の建設」をめぐっては、「馬毛島に持っていく」という仰天プランを発表。賛成でも反対でもない「第3の道」を提案することで、膠着状態が続く辺野古基地問題に打開策を持っているとアピールしていました。
 これを下地幹郎さんは「下地プラン」と呼ばれていると説明していましたが、実際には、2009年に沖縄の基地を「最低でも県外」に持って行こうとしていた鳩山由紀夫首相らが、候補地の一つとして検討したことがあります。ただ、どうしてプランとして採用されなかったのかと言うと、当時、アメリカ様から提示されていた条件は「物資や兵員を空輸する滑走路とヘリポート、地上部隊、訓練施設の機能が近接していなければ基地機能を満たさない」だったので、実現性は極めて低いとみられていました。さらに、地元住民からの反対も根強く、西之表市の市長が正式に反対を表明し、この案は立ち消えになったと記録されています。

「教育費無償化」や「学校での朝食の提供」を公約として掲げる下地幹郎さん

 ミキオパイセンが、ほとんど「デマ」だと言っていいような、馬毛島に持って行くプランをぶち上げるのには、理由があります。実は、沖縄県民の皆さんには、「普天間基地の返還・移設が話題に出るようになって20年以上も経つのに、ちっとも動かない」という徒労感があります。偶然乗った沖縄のタクシーの運転手さんが「沖縄には民主主義がない」と嘆くように、沖縄県民がどれだけ拒否しても、国が一方的に基地を作ろうとしてくる。一部の情弱は「それなら『下地プラン』がいいのではないか」と思ってしまうのです。
 もう一つ、ミキオパイセンは「教育費の無償化」「幼稚園や小学校などで朝食を提供する」というプランを発表しています。「おにぎりやパンを置いておいて、子どもたちが自由に食べられるようになる。面白いでしょ、沖縄はこれから面白くなっていくんですねぇ!」と言っていました。自分で考えた妄想を前提として「沖縄はこれから面白い」と大絶賛してしまうミキオパイセン。それは長澤まさみちゃんとの新婚生活を前提として、「僕の人生は、これからどんどん面白い時代に突入するんですねぇ!」と言ってしまうようなものです。なお、現実はノーマスクの参政党員から飛沫を浴びる時代に突入しております。

参政党カラーの下地幹郎パイセンは、触れ合う支持者たちもまたノーマスクであった

 今回、ミキオパイセンは「奇策」を見せています。
 この選挙期間中にわざわざ大阪に行って、大阪の街頭で沖縄県知事選のアピールをしたのです。似たようなことをNHK党の尊師・立花孝志がやっていますが、どうやら立花孝志よりは理由がしっかりしていて、大阪の沖縄県人会に向けたパフォーマンスだったようです。
 ただ、結果として、こうしたパフォーマンスは不発に終わり、300万円の供託金が没収されてしまいました。第3の選択肢として、もっと受け皿になるのではないかと思いましたが、思ったほど伸びず。やはり中国の企業とズブズブだったことは、ネトウヨ票を離してしまったかもしれません。
 基本的には自民党に投票したいけど、あまりにもピリッとしないので第3の勢力に入れたいという人たちをどれだけ取り込めるかが下地幹郎パイセンの勝負なのに、「中国が攻めてくる!」と本気で考えているネトウヨが中国企業とズブズブだったことに反応し、「やっぱり下地幹郎ではダメだ」と考えてしまったのではないかと思います。
 ゆえに、産経新聞などは「佐喜真淳さんの票を削った」という見立てを紹介していましたが、実際には玉城デニーさんの方を若干削っている可能性すらあるのではないかと思っています。


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