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3歳語辞典

4歳になった息子へ

おめでとう。お風呂あがりに見たきみの背中はこんなにも小さいのになんだかとても頼もしくて涙があふれてしまったよ。なんだろう。この感情は。よくわからないけれど、どんどん大きくなっていく3歳のきみがよく使っていた不思議な言葉たちをここにまとめておく。いつか忘れてしまわないように。2歳のときよりも話せる言葉が大爆発して思ったよりも時間がかかってしまったけれど。許してほしい。

父より

01. 「鼻をほじってたらすごい大きな鼻くそが出てきたの」
まず、きみがはじめて完璧な文法で言ってのけた長文がこれだ。

02. 「うんちかな うんちかな うんちかな」
そして、きみがはじめて詠みあげた俳句がこれだ。

03. 「負けることができた」
いきなり下品な話ばかりですまない。まあ、そんなきみはママに似て生粋の負けず嫌いで。父との勝負に負けると信じられないほど激しく悔しがった。しまいには「負けることができた」と力強く言ってのけた。なんて前向きな言葉なのだろう。そう感銘を受けて圧倒されてしまった。きみの勝ちだ。

04. 「もう年少さんだもん」
どうしても負けたくないきみはじゃんけんのときも「パパはチョキ」と指定してきた。言われたとおりに父がチョキを出すと、きみは堂々とグーを突きだす。「強いね」と褒めると、きみはドヤ顔で「もう年少さんだもん」と先輩風を吹かせてきた。父もはやく年少さんになれますように。

05. 「あかちゃん泣いちゃってんじゃん」
そんな強い年少さんのきみも予防接種はさすがに怖かった。それでもこぼれ落ちそうになる涙をかろうじてこらえながら注射を終えて出てくると、となりで泣いている2歳のおともだちを見て、得意げな表情で父にそっと耳打ちした。「あかちゃん泣いちゃってんじゃん」。1歳上から目線。

06. 「ギリギリセーブ」
そんなおにいさんのきみもまだうんちは漏らした。ある夜もきみは不意に顔を真っ赤にしてきばりだした。父が「うんち漏らしちゃった?」と聞くと、きみは首を力強く横に振りながら「ギリギリセーブ」と答えた。ブとはいったい。うん。ちょっと漏れてた。

07. 「ちんちんすっきり」
きみはギリギリ漏らさずにおしっこできたときは「ちんちんすっきり」と嬉しそうに笑うようになった。そのせいで「また変な言葉を教えたでしょ」と父がきみのママに怒られることになった。冤罪。

08. 「サメ」
どうしてもサザエさんのメンバーになりたいきみは「どんな海の生き物の名前にするの?」と父に聞かれると迷うことなく答えた。「サメ」。逃げてカツオ。

09. 「ピヨピヨピヨピヨ!」
きみは父を敵に見立てて何度も本気で倒そうとしてきた。父が「ゆるさんぞお」と応戦すると、きみはそれを上回るすさまじい形相で「ピヨピヨピヨピヨ!」と叫びながら立ち向かってきた。なぜヒヨコ。かわいい。やられた。

10. 「どう!」
きみは「ごはんの味どう?」と聞かれるたびに「どう!」といきおいよく答えた。それが最上級の肯定だと思っているらしかった。あまりに愛おしくて父も母もなおすことができなかった。それどころか「どう?」とことあるごとに聞いてしまった。きみの「どう!」を聞きたくて。ある日も「パパのことはどう?」とためしに聞いてみた。すると、きみは「どうくない!」と即答した。最上級の否定をありがとう。

11. 「なんかやつれちゃった」
きみは父に「だっこして」と素直に言わなくなった。そのかわりに間接的な表現で疲れたことを伝えてだっこをねだるようになった。たとえば「なんかやつれちゃった」といったように。それはちょっと疲れすぎである。

ほかにも「調子まるいの」と調子の悪さをまあるく訴えたり、「足が止まっちゃうみたい」と自分ではなく足のせいにしたり、階段の上で「もう落ちちゃうよ」と脅して父にだっこを求めた。それが余計にグッときて、一段ずつ噛みしめるように腕のなかのきみと階段をおりた。

父といっしょに寝たいときもきみは仕事部屋のドアを問答無用で開けると、寝室に置かれている父のコップを指さして「お水、ちゃんと飲みにきて!」とよくわからない理由で厳しく怒った。一晩ずつ噛みしめるように腕のなかのきみと眠りについた。

12. 「きょうもとってもたのしかった」
そんなきみを寝かしつけているとき。父がついつい「毎日なかなかうまくいかないな」と独り言のように弱音を吐いてしまったことがある。すると、きみも腕のなかで独り言のようにそっとつぶやいた。「きょうもとってもたのしかった」。そして「おやすみ」と目を閉じてプッとおならをした。そんな悩みなんて屁みたいなものだとでもいうように。おかげさまでなんだかすごくスッキリしてしまった。

13. 「パパお風呂焼けたよ」
いつも二人で入るお風呂がわくと、きみはこう言って父に教えてくれた。無事に生きて帰れますように。

14. 「ベーコン」
父が「きょうはなんの香りのバブにする?」と聞くと、きみは「うーん」としばらく悩んだ末に「ベーコン」と答えた。どうしてもなにかを焼きたいらしい。

15. 「パパはおなかにおっぱいついてる」
いざ脱衣所にて二人で服を脱ぐと、父の胸におっぱいがないことを心配したきみは「でもパパはおなかにおっぱいついてる」となぐさめてくれた。

16. 「むらさきになっちゃう」
あいにくベーコンの香りはなかったので柑橘系のバブを湯船に投入して浸かっていると、きみがハッと下を見た。「おしっこしちゃった?」と父が聞くと、きみは恥ずかしそうに答える。「うん。おふろ、むらさきになっちゃう」。なに食べた。

17. 「すっぱいミルク」
お風呂上がりに父が晩酌をしていると、きみはなぜか「すっぱいミルクどうぞ」とビールを持ってきてくれた。正露丸もください。

18. 「レモンがくっさいなあ!」
晩酌する父のとなりでジュースを手にしたきみは「さっそくのんでみましょう」と人生初の食リポをはじめた。ひとくち口に含むと、なんともおいしそうな表情でコメントする。「ああ、レモンがくっさいなあ!」。とりあえず、くさいはやめておこうか。しかも、それ桃ジュースな。

19. 「目ぱれちゃった」
きみは今年もいくつか新しい病気をしてまた強くなった。たとえば、結膜炎。きみは「目ぱれちゃった」とつぶやきながら部屋を薄暗くすると、右手にハンディ扇風機、左手にはディズニーランドで買ったぐるぐる光るライトを持ち、意を決したようにスイッチを押して天に掲げた。「いたいのいたいのとんでけ」と祈るかのように。サイケデリックすぎる光景にウイルスたちも逃げるように飛んでいってくれた。

20. 「こらこら」「ころころ」
きみは「ほらほら」のことを「こらこら」と言った。「こらこら、見てちょーらい(見てちょーだい)」とまるで怒っているかのように。そして「そろそろ」のことは「ころころ」と言った。「ころころあそぼ」とまるで転がっているかのように。だから寝る時間が迫るときみは父にこう告げるのだ。「こらこらころころ8時だよ」。

21. 「じゃんけんぽん!」
かくれんぼとじゃんけんをおなじ時期に覚えたきみは、かくれんぼをして隠れているときに「もういいかい?」と父が呼びかけると「じゃんけんぽん!」と元気よく飛びだしてきてしまった。見いつけた。

22. 「ワン、チュー、シュリー、ゴー!」
電車で遊ぶきみのアナウンスもすこし変わっていた。「それでは発車します」のあとに「ワン、チュー、シュリー、ゴー!」で出発するのだ。そんな電車なら通勤するのも悪くないかもしれない。

23. 「ワン」
犬のぬいぐるみと満面の笑顔で遊びつづけるきみに「そんなにワンチャンが好きなの?」と聞くと、力強いうなずきとともに「ワン」と答えがかえってきた。好きどころじゃなかった。

24. 「歯がぶかぶかですね」
寝るまえに聴診器のおもちゃをつけたきみが「おくちをあけてください」と言うので口をひらいてみたら「ああ、歯がぶかぶかですね。注射を飲んでください」との診断が下された。「大丈夫なのでしょうか」とたずねると「もうなおりました。歯も4本ありますし。おやすみなさい」と名医は告げる。おやすみなさい。

25. 「おにだずー!」
ガチャガチャの空カプセルを頭に二つのせたきみが「おにだずー!」と独特な表現でまんまるのツノを向けて襲いかかってきた。父は思わず両手を広げて待ちかまえる。どうぞ好きなだけお刺しなさい。

26. 「ちばうよ」
残念ながらきみには今年もパパイヤ期があった。そんなときに父が「このおもちゃはパパに買ってもらったんじゃなかったっけ?」とためしにからかうと、きみは「ちばうよ(ちがうよ)」と怒りながら「自分が」買ってもらったのだと言いはった。論破。

27. 「ちゃんと気をつけないと」
散らかしたままのおもちゃのネジを踏んで悶絶する父が「ちゃんと片づけないと」ときみに言うよりもはやく「ちゃんと気をつけないと」ときみが怒った。またも論破。

28. 「ちちゆび」
ある日、そんなパパイヤ期のきみに自らの小指のことを「○○ゆび」と父の名前で呼んでいるという都合の悪い事実が判明してしまった。「いつもそばにいるから安心してね」と父が微笑むと、きみは決まりが悪そうにその小指で鼻をほじりはじめた。やめて。

29. 「にくにっく」
あたたかい季節になるときみはピクニックにどハマりした。そのわりにはまだ「ピクニック」とは言えなくて、週末になると決まって「にくにっくしよう」と父と母を外へ誘った。肉肉しい春をありがとう。

30. 「お茶?」
はじめての尿検査に挑んだきみは、おしっこをカップで受けとめたママへ不思議そうに「これ、お茶?」と聞いた。どちらかというと元・お茶。

31. 「生まれたねぇ」
きみは街で赤ちゃんを見かけると「生まれたねぇ」と感慨深そうに見つめるようになった。そのたびに父も「そうだねぇ。生まれたねぇ」と感慨深そうにきみを見つめた。

32. 「すきくない」
きみはまだ「きらい」とは言えなくて「すきくない」と言った。「パパきらい」とダイレクトに言われてしまう日はいつやってくるのだろう。

33. 「ぱい」
きみの時間の単位は「ぱい」だった。たとえば「20分」のことを「20ぱい」と言った。きみの時空はおっぱいでできている。

34. 「クマ!」
ある夜、きみが「クマ!」と叫んだ。とっさに振りむくとそこには小さなクモが。心臓が止まるかと思った。

35. 「くっぷりしちゃった」
きみは「びっくりしちゃった」を「くっぷりしちゃった」と言った。それはそれはくっぷりとした顔で。

36. 「われすてた」「おたませしました」「くつる」
きみは「わすれてた」を「われすてた」と言った。あるいは「おまたせしました」は「おたませしました」と言った。ちなみに「つくる」のことは「くつる」と言った。「パパ、いっしょにブロックくつろう」といったように。我が家はナゾの業界用語で満ちている。

37. 「はなほろう」
顎に手を当てて「なるほど」と考える父の癖を見たきみは「はなほろう」と顎に手を当てて物事を考えるようになった。すごいアイデア出そう。

38. 「こんにちは」
きみは絵を描くのが好きで、自分で画用紙に新しい絵を描くたびに「こんにちは」と照れながら挨拶していた。尊すぎた。

39. 「ロケット」
きみは自分のスボンのポケットを「ロケット」と呼んだ。「ロケットにおかしいれよ」といったように。きみの可能性は宇宙レベル。

40. 「ぱこよか」「ハスベッピー」
きみは「タピオカ」のことを「ぱこよか」と呼んだ。いつか「ぱこよか」ブームが到来しますように。ちなみに「スパゲッティ」のことは「ハスベッピー」と呼んだ。いつかメニューに書かれていたら絶対に注文しようと思う。

41. 「からだダンダラダンダン」
きみは踊ることが大好きで『おどるポンポコリン』を「おどるのポコリン」と歌いながらよく踊っていた。ちなみに『からだダンダンダン』は「からだダンダラダンダン」と踊っていた。冴えわたる独特なアレンジ。

42. 「あしたこんど」
ママのおしりばかり触るきみに「パパのおしりも触っていいよ」と伝えると、きみは「あしたこんどね」とやんわり断った。ママのほっぺばかりにキスするきみに「パパのほっぺもチューしていいよ」と伝えると、きみは「あしたこんどね」とやんわり断った。社交辞令の習得。

43. 「ママ、へ!」
そんなママばかりが大好きなきみもたまに「ママ、へ!」と怒ったりもした。どうやら「ママ、へん!」の意味らしい。「へん」と言いきる勇気はまだないようだった。

44. 「へびのへ」
きみのはじめてのモノマネも「へ」だった。父がゴリラのマネをすると、きみも負けじと胸のまえで両手の人差し指をつなげて「へびのへ」と得意げに言った。優勝。

45. 「なにその皮」
きみはパックしているママに「なにその皮」と聞いた。おかげさまで父もパック中のきみのママが生春巻きに見えるようになってしまった。

46. 「包丁タワー」
きみは東京タワーを街で見かけると「包丁タワー」と嬉しそうに叫んだ。おかげさまで父も天高く伸びるタワーが巨大な包丁に見えるようになってしまった。物騒な。

47. 「お金庫さん」
きみは新居に引っこしてくると、ご近所さんのことを「お金庫さん」と呼んだ。おかげさまで父もご近所さんが金庫に見えるようになってしまった。なんて物騒なことはないので安心してほしい。

48. 「ごんどりん」
我が家は秋になると「ごんどりん」をよく拾いにいった。きみは「ごんどりんあったよ」ととても嬉しそうに駆けよってくるのだ。「どんぐり」を手にして。

49. 「黒といっしょになりたい」
きみは服装にもこだわりはじめた。ある大雨の日、どうしても黒の靴を履きたいきみは長靴をなんとか履かせようとする父と母に「黒といっしょになりたい」と添いとげる覚悟を力強く告げた。はじめてのかけおち。

50. 「黄色になる」
ある朝、きみは不意に窓の向こうを見ながら「黄色になる」と静かにつぶやいた。遠き未来を見据えるように。どうか世界一の黄色になれますように。

51. 「のみのもの」
きみは「のみもの」のことを「のみのもの」と言った。その響きが父はとても好きだった。なんだろう。この平安時代の趣は。

52. 「おてつだいしたの」
きみは料理をつくる父のとなりに立ち、iPadでYouTubeをよく見ていた。そして、あとで「おてつだいしたの」と得意げにママに言うのだ。隠し味をどうもありがとう。

53. 「てつだってくだしゃーい」
リビングから「てつだってくだしゃーい」となにやらきみの声が聞こえた。急いで駆けつけると、中腰で立つきみのズボンはうんちまみれになっていた。その姿があまりにも愛らしくて思わず後ろから抱きしめそうになってしまった。危なかった。

54. 「押忍なの〜!」
きみに「押忍! 押忍!」と空手の正拳突きを教えると「押忍なの〜! 押忍なの〜!」と拳を力強く前へ出しはじめた。金メダル。

55. 「だの」
きみはふだんの語尾も独特で一時期は「だの」だった。「そうなの」を「そうだの」というように。父と母はこの「息子弁」が大好きだった。

56. 「とと思って」
ちなみに「と思って」のことは「とと思って」と言った。「牛乳飲もうとと思って」といったように。いつかこの訛りも消えてしまうのだろうか。

57. 「あるかない?」
きみは「あるかな?」のことを「あるかない?」とも言った。とくにサイゼリヤでまちがいさがしなんかをするときは「あるかない?」のオンパレードで「こことここもおなじだね」とちがうところではなくおなじところをひたすら探しつづけた。終わりが見えなかった。

58. 「ガソリン切れちゃった」「しんこー!」
きみはノドが渇くと「ガソリン切れちゃった」と水分を補給した。そして、いざ満タンになるとまた「しんこー!」と全速力で走りだすのだ。どこかへ車でお出かけするときに「しゅっぱーつ!」という父と母の呼びかけに「しんこー!」と答えていたせいで「しんこー!」だけがきみの出発の合図になっていた。

59. 「来週したの」
きみは「先週」のことを「来週」だと思っていた。いつも「来週、幼稚園で○○したの」と報告してくれるのだ。まるで未来を予言するかのように。

60. 「しなちゃ」
きみは「しなきゃ」ではなく「しなちゃ」とだれかを注意した。「パパ、ティッシュ、ちゃんとゴミ箱に捨てなちゃ」といったように。もしかしたら、きみの「しなちゃ」が聞きたくて、わざとティッシュを置いたままにしてしまったこともあったりするかもしれない。100回くらい。

61. 「うんち」
これはあたりまえのことなのかもしれないけれど。おむつが外れたきみはうんちをする寸前に「うんち」と必死の形相で知らせてくれるようになった。こんなにかわいい「うんち」がこの世にあるなんて知らなかった。

ちなみに下痢のときは「ヤバいうんち」とバリエーションをつけて知らせてくれた。不敵な笑みを浮かべながら。それはそれは本当にヤバいやつだった。もう手がつけられないほどに。

62. 「うんちくん」
うんちといえばおともだちと遊んだ翌朝に「きょうもうんちくんとまた遊びたい」ときみはひたすら泣きつづけた。「じゅんきくん」だよ。

63. 「俺様」
ある日、一人称が突然「俺様」になった。忍びよる「ばいきんまん」の影。

64. 「L」
ひらがなを覚えはじめたきみに「これは『し』だよ」と教えると「L」とネイティブすぎる発音で返ってきた。Why ?

65. 「じゃーん!」
きみはほじった鼻くそを「じゃーん!」と見せてくるようになった。サプライズ。

66. 「しっぱーい!」
きみは「しっぱーい!」と叫んでは大笑いする行為にハマっていた。その姿があまりにポジティブで、ついつい父と母も笑ってしまった。なんだか失敗するのも悪くないような気になれた。

67. 「でもいいや」
そんなポジティブなきみの口癖は「でもいいや」だった。おもらしでベッドをおしっこまみれにしたときも「でもいいや」ときみは笑った。ぜんぜんよくはないのだけれど、それがなぜかどうも心地よくて。いつしか父の口癖にもなってしまった。

68. 「くっかぶっくっくっかぶっ」
きみは今年も不思議なオリジナルソングをつくった。「くっかぶっくっくっかぶっ」とボサノバ調のリズムで歌うのだ。いつかきみの弾き語りでまた聴かせてほしい。秋の夜にでも。二人でお酒を飲みながら。

69. 「ちんちょーしないように」
発表会の前日。きみは観客に見立てたおもちゃをたくさん並べ、その前でダンスの最終チェックをはじめた。「なにしてるの?」とたずねると「ちんちょーしないように練習してるの」とそれはそれは緊張した面持ちで答えた。その姿があまりにもまっすぐで父は不覚にも泣いてしまった。まだ本番前だというのに。

70. 「パパのでんち」
なんだか妙にきみがやさしいので「どうかしたの?」とたずねると「きょうはパパのでんちがはいってるの」ときみは秘密を教えてくれた。「なにその電池」と笑う父に照れながら抱きつくきみ。100万本ください。

71. 「あかちゃんになってあいにいこう」
感染拡大の影響で赤ちゃんのころにしか会ったことがないおじいちゃんとの写真を見ていたきみが「あかちゃんになってあいにいこう」としみじみ言った。そうだね。おにいさんになって会いに行こう。いつかまた。絶対に。

72. 「イヤンイヤン」
イヤイヤ期をとっくに終えたはずのきみが「イヤンイヤン」となんでも嫌がるようになった。まさかのイヤンイヤン期の到来である。

73. 「いよいよみてみよっか」
そんなイヤンイヤン期に突入したきみもスーパーへ行くときはノリノリだった。入り口で「きょうはおもちゃじゃなくていろいろみてみようね」と伝えると、きみは「そうだね、いよいよみてみよっか」と目をギラつかせて一目散に駆けだした。おもちゃコーナーへ。

74. 「右ほうほうです」
車で交差点に差しかかると、きみは「次の信号を右ほうほうです」とナビするようになった。左方向のときも。

75. 「見て! はしご!」
きみはドライブ中に「はしご」を見つけるたびに「見て! はしご!」と知らせてくれるようにもなった。まるで一大事かのように。おかげさまで街のはしごにはすこし詳しくなれた気がする。

76. 「バーガー」
きみはおばあちゃんのことを「ばあば」と呼ぶようになった。でも、実はよくよく聞いてみるとそれは「バーガー」なのだった。ばあばはまったく気づいていないけれど。

77. 「ぜんぶちんちん」
到来したちんちんブームを極めしきみは最終的に「ぜんぶちんちん」と叫ぶようになった。悟りの境地。

78. 「もう4歳」
もうすぐ4歳なきみは「もう4歳」とサバを読むようになった。堂々と胸を張って。3歳まで無料のディズニーランドのチケット売り場でも。

79. 「あ、幼稚園だ」
きみはテレビに東京大学の写真が映るたびに「あ、幼稚園だ」となぜかつぶやいた。3歳の東大生、あらわる。

80. 「たね」
そんな高い偏差値を誇るはずのきみは大好物の手羽先の「ほね」を「たね」と呼んだ。食べおえたら土にまけばまた生えてくるかのように。いつかそんな新技術を開発してほしい。

81. 「○おやじ」
きみは「○○味」のことを「○○おやじ」と言った。「いちごおやじ」に「オレンジおやじ」に「メロンおやじ」。おかげさまで味のあるおやじたちが次々に登場してくれて飽きなかった。とくに「チョコミントおやじ」にはいつか一度でいいから実際に会ってみたいと思っている。

82. 「買う?
はじめて新幹線に乗るとき、きみは「のぞみ」を指さして「買う?」と父に聞いた。その器はなかった。

83. 「とってもすてき」
ある日、きみが「とってもすてき」と言った。そんな素敵な言葉をどこで覚えたの。そう父が聞くと、きみは当然のように「ここ」と自分のおしりを指さした。とってもすてき。

84. 「いいこかんがえた」
きみはなにかひらめくと「いいことかんがえた」ではなく「いいこかんがえた」と言った。これからもずっといいこでいてくれますように。

85. 「ここにいるよ!」
きみはときどき嬉しそうに「ここにいるよ!」と父や母に存在をアピールしてきた。うん。そこにいてね。これからもずっと。

86. 「もう転んでるから」
父が仕事に追われていると、きみはよく「もう転んでるから」と独特な表現で床をころころ転がりながらすねてきた。だから父もいっしょに転がることにした。もう締め切りなんてどうでもよくなってしまって。ごめんなさい。

87. 「てんとんしよう」
たぶん3歳のきみにいちばんよく言われた言葉のひとつだと思う。きみは寝るまえに布団をかぶってテントごっこするのが大好きで、いつも「てんとんしよう」と誘った。そのたびに父は両足で布団を中から持ちあげ、テントを支える柱になるのだ。きみが「おしまい」と言うまで腹筋をプルプルと震わせながら。いいテントになれるようにもっと身体を鍛えようと思う。

88. 「いいよ」
これはもうきっと自分にしかわからないこと。父は毎朝コーヒーを飲むまえに「コーヒー飲んでいい?」ときみへ必ず聞いた。きみはいつも「いいよ」となんとなく答えてくれて、父は「やったー」となにげなくかえすのだ。このどうでもいいやりとりがたまらなく好きだった。なぜなのかはよくわからないけれど。きっとこれからも毎朝きみに聞いてしまうと思う。「いちいちうるさいな。勝手にしろよ」と言われてしまう日まで。言われてしまったとしても。

89. 「おとうさん」
ある夜、きみは不意に「おとうさん」と呼んだ。まさかの早すぎる展開に父は言葉を失ってしまった。おとうさん、もうすこしだけ、パパでいさせて。

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