田舎者映画「ニュー・シネマ・パラダイス」と幸せ論

ポッドキャスト『TORCH TIMES』で、『ニュー・シネマ・パラダイス』の話を少ーし出来たので、詳しく書きたいと思います。

言わずと知れた名作ですが、僕が大好きなポイントのひとつが、ラストで流される大量のキスシーンのフィルム。大人になった主人公サルヴァトーレは、どうやら人の愛し方が判らない様子が冒頭でちょっとだけ描かれます。トトことサルヴァトーレにとって、映画こそが世界や人生を教えてくれるものだった。しかし教会によって人と人が愛し合うシーンはカットされていた。アルフレードが残し、繋ぎ止めてくれていたフィルムによって、かつて学び損ねていた「愛」にようやく辿り着く...というお話だな〜、いいなあ〜〜と思ってたんですけど、色々ネットで探しても「そういう映画です」って書いてるのが無いので、完全に僕の勝手な思い込みかもしれません。でもでも、フィクションってのは思い込んで楽しむものだとも思うので、お許しください。
人が、娯楽から考え、学びとることの可能性とか重要さを語っている作品なんじゃないかなと、僕は思ったのでした。


そして、ふたつめの大好きポイント。それは、“田舎者映画”だったことです。ただ、この話をするには、同監督のもうひとつの傑作『海の上のピアニスト』の話題も必要になります。

『ニュー・シネマ・パラダイス』は、主人公が“外の世界へ旅立つ”お話。青年のサルヴァトーレに、親友であり師匠であり、父親のような存在であった映写技師のアルフレードは、彼の可能性を閉ざさせまいと「二度と村には帰ってくるな」と、追い出すように旅立たせます。

しかし、『海の上のピアニスト』は真逆で、主人公の1900が“外の世界へ旅立たない”お話。ここが対になっていると僕は思うのです。
1900は大西洋を航行する豪華客船内で拾われ、船内で働く人々に育てられ、ピアノに出会い、やがて船内の箱付きバンドのピアニストになります。彼は葛藤しつつも、最後まで一歩たりとも陸地に降りることはなく、トランペッターのマックスからの誘いも受け入れられず、老朽化した船と共に人生を閉じます。超絶的な天才ピアニストの1900は、世間から見れば勿体ない生き方を選んだようにも思える。だけど、彼の気持ちを聞き取ったマックス、そして、全てのストーリーを追った観客にとってどう感じられただろうか...と考えるのが味わい深い作品だったと思います。
順番としては、先にこの『海の上〜』を鑑賞したので、初めは気が付かなかったのですが、その後、『ニュー〜』を観たことで、「そうか、この客船は、“田舎”の隠喩なんだ!」と思いました。これも正しいかは調べて無いからわかりませんよ。でも、監督のジュゼッペ・トルナトーレさんはシチリアの島が出身ということなので、『ニュー〜』が自叙伝的に、『海の上〜』は寓話的に田舎を描いたのではないだろうか?という気がしてならないのです。ふたつの作品はやはり対なのだろうと僕は思います。


僕は現在、山梨在住ですが、岩手県の住田町というとても小さな町で育ち、東京へ出てきた人間です。当時、僕が求めていたのは“自由”かと思っていました。でも、この数年、やっと言葉になったのですが、そうじゃなくて、“選択肢”が欲しくて田舎を出たんだなあと、気持ちを振り返っています。

子どもの頃、何かと「選べない!」と感じさせられることが多かった。やってみたいスポーツがあってもその部活が無い。マンガに出てくるみたいな文化部が無い。逆に人手が必要な行事は強制参加。欲しいなと思った物が買えるお店が無い。中学生にもなると、ますます感じる情報、職業、人間関係などなど、都会との全面的な選択肢の落差。いつもつきまとうのは“仕方が無い”という言葉。自分の中に芽生えた望みや興味の先がパタパタと閉じられていくような感覚がありました。シャマラン映画『ヴィレッジ』みたいに、そんな世界を全く知らずにいられたらならよいのかもしれないけど、知ってしまうとツライ。テレビの向こうの、同世代にとっての当たり前が手に入らない。直に触れられない。
そんなわけで、親にワガママを聞いてもらう形で高校進学のタイミングで地元を飛び出し、なんやかんや今に至ります。

サルヴァトーレは都会へと飛び出し、田舎町の小さな映画館の上映技師ではなく世界的な映画監督になりました。
1900は素晴らしい才能を持ちながらも、途方もない自由ではなく、自分のコントロール出来る“88鍵の人生”を歩むことを選びます。
それぞれの道に優劣なんて無くて、どちらも、選択肢があり、自分で選んだことがすごく大事だと思います。
『幸せ』とは『自分で選べること』かもしれない、と僕は思いました。

自分は、サルヴァトーレみたいな大成功を出来たらよかったけれど、そうもいかず。そして、いざ膨大な選択肢を前にしてみたらたじろぐ感覚は、我ながら情けないけど、「あー、1900の不安を追体験したような気持ちだ」と思うようなこともありました。でも、自分で選ぶことが出来るって、やっぱり大事なのだと思う。腑に落ち度が違う。
腑に落ちてくたばりたいね。そして、ウチの子たちにも出来るだけ選択肢を渡せる人生にしたいもんだな、と、よく考えています。




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