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小田晃生 New Album 『いとま』全曲解説&インタビュー【vol.2】

歌モノのオリジナル・アルバムとしては、6年ぶりのリリースだった前作『ほうれんそう』から、およそ1年ちょっと。小田にしては意外なスピード感で届いた新アルバム『いとま』。
フォーキーでドメスティックな空気感と、練り込まれた言葉たちーーーこれまでの持ち味を存分に発揮しつつも、より深いところへ引きずり込まれるような凄みが漂う快作だった!
アルバムや楽曲に込めた想いと、今ミュージシャンとして感じていること、未来のことなど、じっくりと語ってもらった。

インタビュー:皆野九

←〈vol.1〉


①「そしれ」 〜ワンコードで語られる、音楽の始まりとこれから


ーーでは、アルバムの各楽曲について順番にお話しを聞いていこうと思います。1曲目は「そしれ」ですね。これ、タイトルだけだと、聴くまで何についての曲か分かりませんでした。

小田:音楽やってる人は「もしや?」と思った方がいるかもしれませんけどね。「Gメジャー」っていうギターコードとの僕の関係と、そこから音楽との関係の話しを展開してみたような歌です。

ーー万単位で弾いてるかもしれないっていうのは、比喩ではなく?

小田:はい、たぶん。まあワンストロークからでも数えてしまえばですけどね。中2でギターを始めて、最初に弾いた曲で覚えたのが「Gメジャー」でした。厳密には「Gsus4(サスフォー)」から始まるんですけど、まあ、キーがGなので、Gを基準に覚えました。

ーーその曲はなんだったんですか?

小田:Mr. Childrenの『Everything (It's you) 』っていう曲です。好きな曲でしたし、当時買ってもらった初心者用の教則本に載ってた中で、ちゃんと知ってる曲がそれだけだったので、手始めに。

ーーミスチル好きのお話しをあちこちで公言されてますね。

小田:そうですね、好きでしたけど、今はあまり聴かなくなっちゃいましたね。嫌いになったとかじゃなく、「親離れ」みたいな感じといいますか(笑)。かなり自分に染み付いちゃってたので、個を磨くために「離れねば!」と思ったとこもあります。勝手な話しですけどね。でも僕の音楽のスタートラインですし、特に中高生の頃には、精神的にすごく支えてもらった作品もありますね。モノマネとかして茶化しちゃいますけど、尊敬ありきです。

ーー今でも残る影響はあったりしますか?

小田:客観的に見るとまだあるんじゃないでしょうかね。コード進行とかね。勝手に「ミスチル先生に習った」と言ってます。あ、ちなみに、この話しを聞いてもらったあとだと、「そしれ」の「隠し要素」に気付いてもらえるかもしれませんね。

ーーお、そんなも仕掛けがあるんですか?聴き直してみます。

小田:ぜひ。あとは、僕の曲は、自分の声の音域の都合もあって、Gメジャーがキーの曲がとても多いんです。昨年から続けてるインスタライヴの練習配信やりながら、「アルバムの1曲目がみんなGばっかりなんだなあ」と気が付きました。思えば、なんとなくギターを弾き始めるとき、大抵まずはGを構えちゃうし、だからかなあ、とか、原点について考えたりしながら歌詞を書きました。

ーーじゃあ、ほんとに3~4万回とかじゃ済まない回数かもしれませんね。

小田:20年以上ギターを手にしてると思うと、そうですね。キーがGの1曲の中で、何度ストロークしたり構えたりしてるんだろうな。まあ、人生で何歩歩いたか、とか、数えても仕方ないですけど、考えてみたら途方も無いように感じる「数」の繰り返しを、人は無意識にやってるんですよね。パン屋さんが今まで作ったパンの数とか、野菜農家が梱包した野菜の数とか。

ーーですね。仕事や、その人のアイデンティティーに繋がることは、本人も気が付かない、見えない「数」の積み重ねがありますね。

小田:そういうこと考えるの、好きなんですよ。ちょっとワクワクします。

ーーそれと、もうひとつ。前作に続いて、スタジオを使わない自宅作業部屋での作品で、これが全体的な曲の内容とも相まって、家庭的で親密な空気感がパッケージされた作品だと感じました。この『そしれ』は、1曲目でいきなりその空気感をよりダイレクトに届けるような、アンビエンス感を強調した、お風呂場みたいな音から始まりますね。これはなぜだったのでしょうか?

小田:まさしくウチのお風呂場で録りました。本当は他の曲と同じく作業部屋で一度録ってたんですけど、いろいろやってるうちに、なんだかどうも「面白くないな」と思いました。たぶん、曲がすごくシンプルなのもあって、どうにか「バランスを崩したい」と思ったんだと思います。そのほうが引っかかりが残るかな、と。

ーー引っかかる感じはしますね。

小田:良くも悪くもですよね。一聴して聞きづらさで離れてしまう人もいるかもしれないけど、逆にそこに付き合ってもらえる人はもうこのアルバムという単位での作品に向き合おうとしてくれてる人かもしれないなと思ってます。なんだか「聴き流せない」感じにするにはどうしたらいいかな、ということはよく考えます。音楽には聴き流せる良さもあることは重々承知ですけど。……どうでした?(笑)。質問返しですみません。

ーーう〜んそうですね(笑)……質問と重複しちゃいますけど「なぜだろう?」って思いました。最後の8曲目「そして」と同じ音の環境に立ち戻っていくことの意味も気になりましたね。

小田:なるほど。ああ……でも、それで成功なのかもな、と今思いました。フタを開けてみれば、そこまでそのこと自体に深い意味はないんですよね。振り向かせたいだけのイタズラみたいな(笑)。 うーん……あとは、僕の趣味も入ってますね。ダーティーな音とか、しょぼい音とか、本来は好きなんです。iPhoneでアイディアのメモに録った音とか、練習のバランス取れてない音とか。で、このお風呂場での録音はiPhoneで録ってます。

ーーまんまと振り向いてしまいました(笑)。

小田:ありがとうございます(笑)。あと、今話しに出してもらったので、ついでですが、最後の「そして」は、曲じゃなく、「スピーチ」みたいなものを最後に入れようかと思ったのが、最初のアイディアでした。

ーースピーチ?

小田:いや、コメントかな?なんと言いますか、「聴いてくれてありがとね」みたいなことを短いあいさつを締めくくりにするといいなと。そのことで、「『今』を刻印しておこう!」とか、そんなアイディアでした。でもそれも、「聴き流せる良さ」と相反するような発想になっちゃうんですけどね。「アルバム」という単位で最後まで自分の音楽に付き合ってくれた人たちへの感謝と、サラッと聴いた人たちが「もう一度聴き直してみよう」と思えるような工夫になればいいなと。ここだけ聴いても意味が無い部分をつくってみようとしてました。

ーーシングルじゃなくても、例えば、プレイリストに入ってたりすると、その一曲だけしか聴いてもらえないことは多いでしょうね。

小田:そうなんです。でもそれは避けられないことなので、せめてちゃんと聴いてくれた人に、エンディング的な部分があると面白いかなと。「そこだけ聴いてみよう」っていうのが成立しないトラック、といいますか。いきなり「聴いてくれてありがとう」って言われたら「えっ?」ってなりますよね。

ーーそうですね。なりますね。「エンディングから観ちゃった!」みたいな。

小田:ですね(笑)。そうすると、どうしても心情的におかしい感じがすると思うので、「じゃあ、最初っから聴いてみるか」っていう人も現れるかな、と、あとづけのアイディアでやってみた部分です。
「そして」を同じ環境で録ったのは、最初と最後の雰囲気を揃えることで、アルバムを聴いた人が「行って帰ってきた」みたいな感じがしたらいいな、というのが狙いでした。アルバムにおでかけして、帰ってくることで、同時にアルバム全体のことを考えたり思い返せるような、そんな部分に演出したかったです。

ーーこの『いとま』というアルバムが、「どんなことを描きたい作品だったのか」を、補足してくれているような立ち位置の曲にも感じますね。

小田:そうかもしれません。で、まずはその「スピーチ案」で試しに録音してみるんですけど、どうも照れくさいし、何が正解かわからなくなりました。そこで、少し調整しようと、アルバムの歌詞を引用しながら言葉をまとめてみたりしてるうちに、「ダメだ、歌おう」となったのが最終的なバージョンです。

ーーなるほど(笑)。始めは完全に歌無しで、普通の言葉の語りかけだったんですね。だいぶ変化しましたね。

小田:ですです。結果、ちょっと謎多き曲になっちゃったかもしれないです(笑)。そんな感じで、「そしれ」と「そして」は、意図的に絡めたアイディアでしたよ、という話しです。思ったより長々と最後の曲のことになっちゃってすみません。



②「つくる」 ~ 焦りと粘り、楽しさと苦しさ、矛盾たっぷりの「創作」の歌


ーーズバリ「曲づくりについての曲」という解釈で合ってますか?

小田:そうです。曲をつくる楽しさと苦しさと、両方ですね。

ーーこのアルバム制作中で書いた歌詞ですか?

小田:アルバムにしようと決める前かもしれませんけど、たぶんそうですね。「あと一言が埋まらない!」とか、良いアイディアと思ってたものがどうもしっくりこなくて何日もそのことを考えてる間のしんどさとか、そのままの状況を歌ってみたんだと思います。でも、ずっと考えてると、最後は「これだ!」ってなる場合もあるから、それを信じて進むこと自体が、やっぱり一番エネルギー要ります。「これだ!」でき上がるとすごく嬉しいんですよ。

ーー曲調的にはシリアスで、楽しさより、苦しさの方に寄ってるようにも感じました。

小田:うーん……そうかもですね。曲ができてみて、「こんなに苦労して音楽つくってるんだぞー」みたいな受け取られ方するのは嫌だなあ、と思って、収録するかどうか迷った曲ではありました。曲をつくるのは今でも楽しいんですけど、そもそもはもっと能動的で、「トキメキ」みたいなものがあったはずなのにな、という気持ちも正直あります。

ーーその変化は、どんな理由がある気がしますか?

小田:歳も経験も重ねて、曲をつくることは、だんだんと自分に残された唯一の「武器」な気がしてきてるし、限り在るコミュニケーション手段だし、もっと家族を支えられるものにしなくちゃいけない責務だし、みたいな、当たり前ですけど、それなりの「重さ」も伴う作業になってきてるからなんだと思います。世界のスピード感も、どんどん速く感じるようになってきました。

ーー繰り返される「月火水木金土日」という歌詞に、その感じが込められてますね。

小田:込めてますね(笑)。もちろん「月火水木金土日」っていう歌詞は言葉のアヤですけど、曲づくりという「たったそれだけのこと」に、迷ったり悩んだりしてるうちに、どんどん時間が過ぎてしまっているような焦りがありますね。最近、NETFLIXで「Tick, tick... BOOM!」という映画を観たんですけど、これがもう「ザ・焦り」の映画だったんですよね。

ーーあ、観ました。アカデミー賞で話題に挙がってましたね。それで知りました。

小田:僕も一緒です(笑)。主演男優賞の候補だったかな?すごく省略して感情の話しだけすれば、ミュージカル作家の主人公が30歳手前なのに、まだ自分が何も成していないことに焦る、という映画ですけど、「つくる」を、こじつけるならこの映画だな、と思いました。40歳手前の僕としては、「え、30歳で焦るの!?」って最初思いましたけど、思い返せば自分もちょっと焦ってたし、彼と同じように今も誰かと自分を比べてしまうし、たぶん50歳でも60歳でも、焦れる気がしました。だから、ずっと気を付けてたんですけど、やっぱり自分より若い人に「いやー、キミはまだまだこれからだよ」とか、気安く言わないようにしよう、と思いました。

ーー励ましているようで、ちょっと乱暴に聞こえてしまう人も、きっといますよね。

小田:考えすぎかもしれないですけどね。たぶん自分の立場から見えるものなんてほんとに一角なのだと思うので。主人公の彼も結局、若いうちに亡くなってしまってるので、そんな運命知らなかっただろうけど、めちゃくちゃ切実な物語だなと思いました。
「つくる」については、作曲は苦しさと一緒に喜びも知ってるし、信じてるので、そんな希望もしっかり込めた曲です。折角でき上がった曲たちは、長く広く、自分が消滅してからも役立ってくれるといいな、誰かに届けばいいなと願ってます。完成半ばでボツになるものもありますからね。

ーー今回もボツはありましたか?

小田:いくつかありますよ。でも、それらも決定的にダメというより、良いところもあったはずだけど、途中で自分の心の体力が持たなくなっちゃった感じでしたね。他にも、何年も前の書きかけてた曲の一部とか、中途半端な状態で1度だけライヴでやったままの曲のことを、フッと思い出してしまうときがあります。未練があるんでしょうね。

ーーボツにした曲達と、もう一度向き合えるときもありますか?

小田:それは十二分にありえます。数年寝かせてたアイディアが、ほんの少しの工夫でひっくり返ることはよくあるので。だから、ノートや、テキストファイルやら、色んなところに捨てられない「つくりかけ」が散らばってます。



③「灰色」 ~曖昧で奇妙で「豊か」な世界観


ーーヘンテコな曲ですね(笑)。

小田:僕もそう思います(笑)。

ーーでも、聴けば聴くほど、なんだかハマるというか、色んな味のする不思議な曲調だなと。もしかしたら一番お気に入りかもしれません。

小田:ありがとうございます。「つくる」と正反対で、意外とスルッとできた曲でした。「日本語の曖昧な表現の言葉が面白いな、いっちょ集めてみるか」がスタートです。

ーーあ、それが何回か登場する不思議なコーラスですよね。あれは、なんて言ってるんですか?

小田:「たぶん きっと おそらく そうかもしれない もしかすると らしい のだそうだ」ですね。あ、そうか。今回、音源の配信登録のときに歌詞表示に制約があって、なんか煩わしすぎたので、やめちゃったんですけど。一応、note記事に歌詞テキストは載せていて、このコーラス部分も載っています。

ーーなるほど。ちなみに、歌詞表示の制約を気にされたとのことでしたけど、歌詞を書く時に、見た目のこだわりってありますか?

小田:ありますあります。

ーー具体的にはどんな部分に気を使いますか?

小田:例えば、一連なりの文章があったとき、歌での言葉の切れ目より、言葉としての切れ目を優先してスペースを空けるとか。すみません、「この曲のココ!」とか、お伝えできたらいいんですけど。

ーーでも、なんとなく分かる気がしました。要するに、「文章としての意味」の方を優先するということですかね。

小田:なるべくですけど、気が付けばそうしてます。あとは、行間をどこで空けるかとか、漢字使うかどうか、とか。一応、意図的にコントロールしてます。日本語は漢字、ひらがな、カタカナで伝わり方が変わるから面白いですよね。僕はあまり使わないけどアルファベットもありますし。曲のタイトル決めるときもその部分は考えるのが楽しいです。

ーー味わいが全く変わりますよね。その点で言うと『発明』(2008年)の頃より、ひらがなの曲タイトルが増えた印象があります。それはどう決めてるんでしょう?

小田:言われてみれば確かにそうですね。自分の中のこだわりはありますけど、絶対的な決まりにはしてないので、最後はその時々の感覚ですね。「曲のテーマとの相性」とか、「座りの良さ」みたいなものはある気がします。歌詞の場合も、一曲の中では表記がバラつかないようにしますけど、感覚的にやってるみたいなので、昔の曲で「なんでこうしたんだっけ?」って思う箇所がけっこうあります。あ、擬音をカタカナにするかどうか、とかもありますね。

ーー徐々にその感覚自体が変わっていくこともあるでしょうからね。

小田:そうなのかもしれません。絶対じゃないけど、文字の扱いを自己分析すると、漢字はその言葉の「意味」を濃くダイレクトに伝えたいとき用、ひらがなは「音感」を伝えたいとき用なのかなと。ひらがなの面白さは、意味を少しぼやかして、広げてくれるところだと思うので、あまり固定的なイメージにしたくないときに使っているかもしれないです。あとは、漢字は「重さ」があるから、その曲や内容との相性はどうか。「夜道」とか「発明」は、ドーンって漢字の雰囲気が良くて、「たそがれ」とかは敢えて、漢字じゃないな、と思いました。
……ああ、「灰色」は、あまり迷わず漢字にしちゃいましたけど、ひらがな表記も面白かったかもしれないです。他のミュージシャンの話しも聞いてみたい話題だなあ。

ーー「灰色」は、曲としてもすんなり出来たんですね。入り組んだ感じもするので、意外です。

小田:シュールめな曲なので、感情に流されないぶん、自由につくれた感じかもしれないですね。ストライクゾーンが広い、何しても楽しい曲というか。

ーー色んな楽器の音が細かく入ってきますよね。最後のギターが全力でヨゴシにかかってきたのにもビックリしました。

小田:あの部分を録音してるときに、なぜか弾いてない1弦がビョンッって切れました(笑)。なんかおかしな力が入ってたんだと思います。交換が面倒でそのまま録りましたけど。

ーーさっきの「たぶん きっと」のコーラスパートは小田さんご自身の声を加工したものですか?

小田:そうです。最初はそのまま自分の声だったんですけど、「なんか違う」と思って、オクターブを上げるエフェクトや、カセットテープっぽい音になるシミュレーターで、ちょっとユラユラさせました。フォーク・クルセダーズ「帰って来たヨッパライ」みたいなイメージです。

ーーこの歌詞の主人公は誰かを想定しているんでしょうか?

小田:うーん、誰でも無いつもりでしたけど、僕も優柔不断なところがあったり、途中経過のものに心惹かれたりすることがあるので、やっぱり自分の投影ではあるのかなと。

ーーそうなると、最後の「ここぞ という時が来る」という歌詞が、この曲に少しピリリとしたものを残しますね。「しっかりしろよ」みたいな(笑)。

小田:そうですね(笑)。しなくちゃですね。たぶん、僕にとって曖昧でいられる状態ってどこか「幸せ」なんだと思うんです。選択肢があること、ゆとりを持ててること、というか。あと、物語で言うと「オープンエンド」的な。それだけじゃ生きていけないのは分かってるんですけど、「曖昧」=「単にだらしないことである」と決めつけないほうが面白いんじゃないかと思ったりしますね。それと、どうしたって、大きな外的要因で、急に選択肢や自由が壊れてしまうこともあるんだよなあ、と思わされることがあります。そういう「ここぞ」も、ある気がします。

ーーそれは、このコロナ禍や、戦争の現状を思うと痛感させられる感じがあります。

小田:その感じは、僕もありました。そもそもは言葉遊びでスタートしてる曲なので、ダイレクトに戦争や災害を描いたりはしてませんけど、曲ができてから、「曖昧って『豊か』だな」って思いました。どっちつかずでいられることとか、理解しないでも楽しめるとか、意見が違うことを許容するって、なんとなくそれこそ「豊か」な気がします。あ、でも繰り返しになりますけど、「それだけじゃダメ」って、思ってはいますからね(笑)。やるべきときにやれる人ではありたいです。



④「名無し」 〜「脈絡」から切り離された、心動かされる何か


ーータイトルが謎めいてますね。なんとなく怖い歌なのかと思いました。

小田:え!(笑)。あー、でもちょっと妖怪っぽいですか?

ーーいや、なんでしょう、勝手なイメージですけど、「無し」って付く言葉、怖い感じがしちゃうんです。すみません、個人的な話しです。

小田:「首無し騎士」とか、そんなイメージですかね。でも、タイトルにパンチはある気がしてたので、嬉しい反応ですね。

ーー聴いてみたら、穏やかで、だけどエモーショナルな美しい曲でした。全然怖くなかったです(笑)。

小田:ありがとうございます(笑)。「名無しの権兵衛」の「名無し」ですね。歌詞にあるような、夜間工事の様子とか、背伸びしたときに聞こえてる身体の内側の音とか、そういう名前が無さそうな現象に湧き上がった感情や引っかかりを、僕はミュージシャンなので「歌にしてやろう」と思ってメモしたりするんですけど、のちのち、そのメモを読んでも、何をどう感じたのか、どうも思い出せなくなっちゃうことがよーくあって。そういうものって儚いな、もったいないな、っていう歌です。

ーー背伸びのときの音って、「ゴォー」みたいな、うっすら聞こえる音ですよね。

小田:なんか聞こえますよね!あれが昔から気になってるんです。どんな現象なのか調べれば一発で分かるんでしょうけど、知らないほうが面白いタイプのやつかなと。あとこの曲については、映画の「アメリカン・ビューティー」に出てくる「風に舞うビニール袋のシーン」っていうのがヒントになってまして。結構前の映画なんですけど知ってます……?

ーーあー、ハンディカメラで撮った映像を見るシーンですよね。ぼんやりと覚えています。

小田:そうですそうです!あれが、すごく「名無し的だなあ」と思うんです。すごく好きな映画のひとつです。この曲をつくりながら思い出してたのが、あの「風に舞うビニール袋」でした。

ーーなるほど、曲聴いてから映画観てみると、味わいが変わりそうですね。

小田:試してみてもらえると嬉しいです。逆にもう映画観た人も、重ねて曲聴いてみてもらいたいですね。

ーー「名無し的なるもの」は、説明するとしたら一体何だと思いますか?

小田:なんだろうなあ、と思いながら曲にしましたけど、たぶん、「脈絡が要らないもの」なのかなと。「楽しい」とか「悲しい」とか、そういう心が動くことって、そこに至るまでの「ストーリー」とか「脈絡」があって生まれる気持ちなのかなと思うんですけど、そういうものから切り離されて、ポーンとそこに在るだけのものに、「あっ……」ってなる瞬間と言いますか(笑)。うーん……言葉にすると「美しい」とか「面白い」とか、そういうことなんでしょうけど、絵画とか美術品を楽しむ感じなんでしょうかね。僕があまりそういう嗜みが無いから想像ですけど。僕の中にも、普段の生活の中できっとそういう感覚になるときがあるのかなと。

ーーなるほど。音楽鑑賞にも置き換えも出来そうですね。「ストーリー」で楽しむか、「名無し」的に楽しむか。

小田:100%じゃないけど、どっちかとなると、基本的に僕は「ストーリー」を愛するタイプではありますね。音楽も、映画も。

ーーさっきの「Tick, tick... BOOM!」もですけど、映画と結びついてる曲は多いのですか?

小田:全部ではないですけど、つくりながら思い浮かべてる映画とかドラマがあることは、結構ありますね。映画そのものを曲にしようとは思わないですけど、発想の起点になってたり、つくりながらぼんやり重なりを感じたり。でも映画だけじゃなく、マンガとかの場合もあります。昔からフィクションにたくさん心動かしてもらってきてるので、自分の大事な要素なんだと思います。

ーー『ほうれんそう』のパンフレットでもそんなコーナーがありましたね。

小田:はい、「こじつけひもづけ × 楽曲解説」という名前で、映画と合わせて自分の曲を解説をして、結構楽しかったですね。でもタイトル通り「こじつけ」なので、ちょっと無理矢理に絡めたところもありますけど。

ーーここからも、もし思い付いてるものがあれば、どんどん「こじつけ作品」のお話しもぜひ(笑)。

小田:はい、あんまり長かったらカットしてください(笑)。


→続き〈vol.3〉
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小田晃生「いとま」
2022/04/14
TORCH-007

《収録曲》
1. そしれ
2. つくる
3. 灰色
4. 名無し
5. しゃっくり!
6. 魔法使い
7. 本になる人
8. そしれ

カバーアートデザイン:木下ようすけ
歌詞英訳協力:Fumiko

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