見出し画像

小田晃生 New Album 『いとま』全曲解説&インタビュー【vol.1】

歌モノのオリジナル・アルバムとしては、6年ぶりのリリースだった前作『ほうれんそう』から、およそ1年ちょっと。小田にしては意外なスピード感で届いた新アルバム『いとま』。
フォーキーでドメスティックな空気感と、練り込まれた言葉たちーーーこれまでの持ち味を存分に発揮しつつも、より深いところへ引きずり込まれるような凄みが漂う快作だった!
アルバムや楽曲に込めた想いと、今ミュージシャンとして感じていること、未来のことなど、じっくりと語ってもらった。

インタビュー:皆野九


歌になった「エッセイ」?  〜アルバム制作のきっかけと「素直さ」の発見


――ニューアルバム『いとま』のリリースおめでとうございます。2007年の1stアルバム『まるかいてちょん』(リンク先は2018年のリテイク版)からも今年で15周年ということで、記念盤ですね。

小田:ありがとうございます。ほんとは昨年がソロ活動開始から15周年だったんですけど、コロナ禍で何も計画立てらんないなあと思っている間に時が過ぎちゃいました。せっかくだからアニバーサリーにしたかった気持ちはあったんですけど。

――身動きが取りづらい状況が続いてしまってますからね。

小田:自分ひとりならまだしも、バンドやスタッフ、人を絡める企画は考えるのが難しかったです。お客さんが集まってくれるかも不安でしたし。僕はただでさえ人集めるの苦手なので。

――でもそんな中だからこそ、『ほうれんそう』(2020年)からあまり間を空けずに、自分ひとりでできるアルバム制作に入ったわけですね?

小田:そうですね、それもあります。でも、「アルバムに着手しよう」とは考えてませんでした。この1年くらいで、「ためらわずにどんどん曲出しておいたほうがいい!」と思うようになってきました。

――リリースにためらいを感じてしまっていのは、どうしてだったのでしょうか?

小田:始めてしまうと、やっぱりたいへんだからですかね。「今回は勢いでパパッとやっちゃおう!」とか思って始めてみても、結局いっぱいやり直すし、判断に迷うし、どうしても想定以上の手間をかけちゃう。しんどいのを知ってる山にもう一度登るみたいな気持ちです。

――なるほど。でも心境に変化があったんですね。

小田:曲をつくり始めてみたら楽しくなってきましたし、『ほうれんそう』をなんとか広めようともがいて、うまくいかなくて凹んでモヤモヤしているよりは、「前に進んでる」って感覚がありました。こっちのほうが健全だなと。結局、やっちゃえば心身が動き出すんでしょうね。

――それじゃあ「ためらい」については、払拭された感じですか?

小田:いやあ、これは繰り返すんだと思います(笑) でも徐々に自分をわかってきたような気がしますね。僕は「やらない理由」を簡単に見つけちゃうので、その心の中の言い訳を強制的に外すことも大事なんだなと思います。今回そのきっかけになったのは曲づくりに向かったことでしたけど、さらにそのきっかけになったのは、ライターの宮崎智之くんと「エッセイとは何か」みたいな話しをしたことでした。

――宮崎さんは、『ほうれんそう』の別冊パンフレットで対談されてた方ですね。

小田:宮崎くんのエッセイ(幻冬舎『平熱のまま、この世界に熱狂したい 「弱さ」を受け入れる日常革命』) と、僕のアルバムのリリースタイミングの合致と、内容にもシンクロする部分があったことで、僕からお願いして対談記事にさせてもらいました。宮崎くん自身はそもそもエッセイストではなくて、エッセイにどういう姿勢で臨んだのか、という話題から「小田くんもエッセイ書いてみたら、向いてそうだね」と言ってもらって、「お、そんじゃ書いてみるか」って(笑)。

――はじめはエッセイとして、文章を書いてみたんですか?

小田:そのつもりで、noteで少し書いてみたりはしましたけど、難しかったですね。ほとんどは書きかけで非公開です。アップしてみたものも、ちゃんと書けてるのか、伝わる文章になってるのか、いまいち実感が沸かず。文章書けるってうらやましい技術だし、楽しさもあったんですけど、ひとつ書くのにけっこう時間もかかるし、お金になるわけでもないし、今はちょっとこれに向かい過ぎちゃいけないな、と。でも宮崎くんが「エッセイは素直に書くことが大事」って言ってたのがずっと心に残ってて、この感じで歌詞だったら書けるかもしれないな……と思い、これまでにメモしてたものとか今の気持ちを「素直に書く」ということを意識して書き進めてみました。

――今までは素直じゃなかった感じですか?

小田:今までは「無意識」だったんですよね。でも考えてみると、そもそもの自分の創作も実は近いことをしてた曲もあったなとも思いました。振り返ってみて、素直さが出せてるものもあれば、なんか背伸びしちゃったな、カッコつけちゃったな、と反省するものもあって、いろいろ気付かされるキーワードでした。今回はそういった点を「意識的に書いてみた」というところが、これまでとのいちばんの違いですね。

――意識的にしたことで、何か楽曲としての変化を感じたことはありますか?

小田:歌詞の書き始めはこれまでとあまり変わらないんですけど、その言葉をあまり整えすぎないで、曲のほうで受け止めてもらっちゃおう、みたいなチャレンジがところどころでできた気がしてます。これまでの基本は、ズラッと言葉を書いてみて、曲になってきたときにリズムや音数に合うように削り落としたり言い換えたりしながら、歌詞らしく整えていくのが僕なりの方法だったんですけど、この何年かはもうちょっと歌詞で「無茶振りする」といいますか、「歌詞らしさ」の範囲も広げて、自由な言い回しとか文字数をメロディに無理にねじ込んじゃうようなアイディアに興味があります。自分の中での「ありなし」の判断をユルくする、というか。

――とくに、「この曲!」という具体例はありますか?

小田:そうですね、今言ったような部分で言うと、「魔法使い」「本になる人」は、だいぶ曲側に受け止めてもらってます。

――なるほど。その2曲は歌詞でありながら、文章っぽさがしっかり残っていて、かつ、ラップ的な部分もありますね。

小田:僕としては、「ここラップだぞい!」というより、早くもっと自分になじませて「歌い方」のひとつにしていきたいな、と思ってます。曲の「ほうれんそう」でも、世間的にはいわゆるラップな部分をつくってみて、聴いてもらうのにちょっと勇気が要りましたけど、この「歌い方」を持ってると、いろいろと描けるものやつくれるものが変わってくる、と思うので、引き続き試していきたいです。


ただの「ひま」とは違う、自分で掴む「今」 〜タイトル『いとま』の着想と込めた想い


――ちょっと話が飛ぶようですが、アルバムタイトルの『いとま』というキーワードは、どう導き出されたんでしょうか?

小田:始めは「エッセイ」にしようとしてたんですけどね。「僕なりのエッセイを出しました」ということで。でも、なんかちょっと照れるタイトルだなと思い、次に思い付いたのが「いま」でした。
2021年につく作った曲ばかりで、僕にとってはこんなに凝縮された期間でつくった曲ばかりなのは珍しかったので、「このタイミングをまとめたものだよ」っていう意味で。だけどこれは、自分にはちょっとクサイ感じもするなーと思ったのと、検索してみるとほかのアーティストで「いま」というタイトルで出ている作品がけっこうあったんですよね。

――わりと使われそうなタイトルではありますよね。

小田:実はアルバムタイトルだけはなぜか一番乗りがしたい欲があるんですよね。これまでも、アルバムのタイトルにはされてなさそうなワードを選んできました。

――考えてみると、確かにそうですね! 『発明』(2008年)とか。

小田:そうなんです(笑) だから何かもっとおもしろい案を、と思ってたときに「いとま」という言葉に辿り着きました。

――ああ、でも「い」と「ま」でできてますね。

小田:そうそう! そこにも少し引っ掛けて、かつ「ひま」を言い換えた言葉であることはかなり気に入りました。僕が今アルバムつくれるのは、「ひま」だからなんだよな、と。コロナ渦で予定も計画も崩れ去って、ポカーンとできてしまった時間に、どう立ち向かうかみんな戸惑った2年間があって、その「ひま」を自分のものにすれば「いとま」な感じがする、と思いました。
「ひま」と「いとま」って、漢字にすれば一緒なんですけど、ちょっと受ける印象違いません? 「ひま」は望まなくてもなっちゃうもので、「いとま」は自分からつくるものって感じがします。

――「おいとまさせていただきます」とか、そういう使い方ですものね。

小田:離縁とか辞職とか、ちょっとネガティブっぽい言葉かもしれませんけど、要は何かを自分の意思で断ち切る言葉でもあるんですね。たくましい言葉だなと思い気に入ったのと、Spotifyで検索してみたら、誰もまだ使ってなさそうだったんです(笑)。

――お、一番乗り(笑)

小田:はい(笑)。ということで「これだ!」となったのでした。「己の『ひま』を『いとま』に変えるのだ」みたいなキャッチコピーも考えてましたけど、そんな力強い感じは合わなくて、結局使いませんでしたけどね。でも、込めた想いはそういうことです。

――曲に関してはこのあとも個別にたっぷり聞いていきたいんですが、ラストの曲「そして」の中では、「いまのうちに いとまのうちに」と歌われてるように時間に対する「焦り」や、「悲壮感」のようなものまで漂っているように感じました。これはどんなメッセージが込められているのでしょうか?

小田:時間への焦りは、まさしく込めた部分です。「つくる」にも、「灰色」にも、「魔法使い」や「本になる人」にも、僕がうっすらと時間に対して感じてる危機感は込めました。それはコロナ禍というのもありますけど、もっとシンプルに身近なところで、人の命とか健康の儚さを感じる機会がいろいろあったりもしまして。
実際、自分自身の身体にも、今までなかったような小さなトラブル起きてますし、自分が今やってることが、当たり前に明日もできると思ってちゃいけないな、と。だから「悲壮」というよりは、「必死さを伝えたいな」と思っていて、ちょっとシリアスなメッセージ性はあるかもしれないですね。

――だから『いとま』は、デビュー作『まるかいてちょん』のようなシンプルで親密な空気感の作品でありながら、どこか今の時代を反映したシリアスな空気をまとったもの作品に感じるのかもしれないですね。でもやっぱり、「しゃっくり!」のような曲もある(笑)。

小田:はい、「しゃっくり!」はだいぶはみ出し感はあったから収録するか迷いましたね。ただ『チグハグソングス』(2014年)のときにもやりたかったことですけど、自分の中身って一色で染められてなくて、グチャグチャでデタラメだなって思うので、アルバムという単位で聴いてもらうとき、まとまりのある人物像になっちゃうと「なんか嘘っぽい」って感じがしちゃうんです。ライヴでもそうですね。
だから、これはこれで僕のバランスなんだと思います。「優しそう」とか「頑固」とか、僕は言われがちですけど、怒りっぽいときもあるし、人の意見が欲しいときもある。それと、僕だけの話しじゃなくて「そんなに人間ってわかりやすいかな?」って思うんです。

――そう伺うと、作品全体で何かひとつ外側にテーマを描こうとしてる、というよりは、「小田晃生」という人物像そのものを描こうとしてる感じはしますね。

小田:今回の『いとま』は、そこがいちばんじゃないですけど、やっぱりそれは切り離せない感じはあります。まあ、この「自分!自分!」みたいな余裕の無さは、早く克服したい気持ちもありますが(笑)。

――それは創作の本来の姿とも言える気がするので、むしろ持ち味かとは思いますけどね。それを克服した先にどんな曲ができていくのかは、楽しみにしてます。

小田:ありがとうございます。ネクストレベル、目指します。


→続き〈vol.2〉
スキ&フォロー、シェアなど、是非よろしくおねがいします


小田晃生「いとま」
2022/04/14
TORCH-007

《収録曲》
1. そしれ
2. つくる
3. 灰色
4. 名無し
5. しゃっくり!
6. 魔法使い
7. 本になる人
8. そして

カバーアートデザイン:木下ようすけ
歌詞英訳協力:Fumiko

▼ サブスク各種で配信中
Apple Music / Spotify / Deezer / 楽天 MUSIC / YouTube Music /
OTORAKU / dヒッツ /うたパス / Amazon Music Unlimited /
TOWER RECORDS MUSIC ...他


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?