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猟師の肉は腐らない

趣味がクライミングだし、登山も大好きな私。山が好きな関係で、完全にタイトルに惹かれて選んだ。またぎの話かなー?と思って手に取ったけど、猟師の、山で住む人達の生活の知恵を詰め込んだ一冊だった。

読んで思ったのは、猟師の肉は腐らないというより、猟師は肉を腐らせないである。頂いた命を粗末にせず、加工して工夫を凝らす事で余すところ無く肉を消費するからである。

読むうちに主人公と共に山を冒険し、色んな知識を得ることができる。現代人が忘れていた昔の知恵を改めて気付かせ、人間が自然と共存し、命をいただきながら生きることの原点を思い出させてくれる一冊なのだ。


小泉武夫さんの「猟師の肉は腐らない」は、利便性と安全性が追求された結果、より効率的で簡単に食べる事に重きが置かれる現代に、植物や動物の恵みに感謝しながら自然の摂理に従って生きることの素晴らしさを教えてくれる。


この物語は農学者の主人公が、八溝山地の山奥に住み猟師として生きる友人の「義っしゃん」を訪ね、そこで数日間を過ごす物語だ。義っしゃんの自然に溶け込んだ生き方を体感する中で、主人公は昔の人々の知恵や現代の人が忘れてしまっている暮らしの工夫を教わっていく。共に暮らし、狩りをし宴をし、濃厚な数日間を義っしゃんの生き方を観察し、見習い、発見、実践しながら学んでいく。そして読み手の私達もそれを疑似体験していく。

毎日繰り広げられる宴は、この本のハイライトと言えるだろう。酔っ払いのプロフェッショナル、通称「ヨップロイ」と称して毎晩豪快に呑むのである。読んでいるこっちまでお腹が空いてくるし、酔っ払いそうである。山で採れた恵の数々を肴にして楽しく呑み明かす様子は愉快である。


豪快で大らかな性格のわりに細やかな気配りのできる、さらに酒にものすごく強い正真正銘の山男、義っしゃんは生命力溢れていてカッコイイ。そして、とっても可愛いのである。人間として魅力的である。


「俺はない、この八溝の空気、山、川、谷、木、花、土、水、生き物、ぜんぶ好きなんだあ。だからよ、そいつらと毎日いられっからよ、一人で居るなんて気はまったぐしね。とでも毎日が賑やかでよ、結構忙しんだあ。」–本文より

義っしゃんの行動や言葉からは自然に生かされ、恵みを分けてもらいながら生きているという想いが溢れている。

物語の終盤になるにつれて、主人公のように義っしゃんにまた会いたくなる自分がいた。


自然のサイクルの一部となって生きる

という昔の人が当たり前にやってきた事。

それが忘れ去られてきている今の時代に是非、読んでもらいたい作品である。



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