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『PEACEis___』あなたにとって平和とは何ですか?

身近な人間関係は世界の縮図。
その一番小さな規模の人間関係を大切にし、相手を思いやり良いものにしようとみんなが心がけたなら、世界は平和になる

私はずっとそう思っていた。

自分でも一生懸命実践しようとしていたし、過去にブログやSNSなどでもテーマにあげて熱弁をふるった記憶がある。

だからだと思う。

イベント会場で、壁にかけてあったひとつのパネルのメッセージを読んで、不覚にもウルっときてしまったのは。

その日私は、かねてから交流させていただいている現代印象派画家KOHさんの招きで、彼がこれから立ち上げるビッグプロジェクトのお披露目トークイベントに足を運んだ。

会場はKOHさんのInstagramで以前〈居心地のよいお気に入りの場所〉と書いてあったので興味があり、一度行ってみたいと思っていた場所だった。

麹町の「PEACEisGallery
フォトグラファー青木弘さんとアーティストのこうづなかばさんが活動拠点としているギャラリースペースで、中央アフリカ共和国での取材をきっかけにつながった縁により、アートをベースにした様々な支援のかたちを模索するプロジェクトに取り組んでいる。

ギャラリーには2人の作品がメッセージアートとして常設されていて、その中のひとつが、私が食い入るように読んだそのパネルだった。

それは作品ではなく写真集のあとがきを抜粋した文章だったのだけれど、それをきっかけに、私はこのギャラリーの中に広がる中央アフリカ共和国へと引き込まれていった。

私はその日、いわゆる「戦場カメラマン」に初めて会った。
戦場カメラマンといえば、まだ記憶に遠くないジャーナリストの後藤健二さんの事件で知ったくらいで、私の人脈にはこれまで縁のない遠い存在だった。

たまたまその時代を生きたことで後世に反戦を語り継ぐお年寄りとはきっとわけが違う。
平和な日本から遠く離れた死と隣り合わせの紛争地帯にわざわざ身を置き、何かを世界に伝えようとしているのだから。

強固な熱意と同時に、人間の生死を間近にしてきたことで独特のシリアスな雰囲気をまとっているような、そんなイメージを漠然と持っていたのかもしれない。

会場に入って目の前に現れたアテンドの青年、気さくに案内してくれているそのお兄さんがフォトグラファーの青木さん本人だとわかり、少し意外に思った。

ぱぁっとした快活な明るさには、シリアスな影は見えず、私の勝手な先入観は一瞬で根底から覆された。


イベントが始まるまでの間、会場内の展示を見て回った。

正直なところ、これまで写真展に足を運んだ経験は少なく、写真のことはよくわからない。
でもなにかしらの機会でアフリカや中東などの紛争地域で暮らす人たちの写真を目にしたことはある。

もちろんそれぞれに胸を打つものがあったけれども、やはりそれはどこかの遠い存在でしかなかった。

でも、ぐっと惹きつけられたあのパネルを見た後ということもあり、いちアーティストの体(てい)を成しつつある今の私は、これまでとは少し違う視点で写真を見ることができたようだ。

青木さんの写真には、真実をありのままに伝えながら、ひとつのアート作品としての独特の佇まいを感じて、不思議な興味が湧いた。

そう、ものすごくありのままなのだ。

なぜそう感じたのかは後になってわかった。


私は中央アフリカ共和国という国については、その存在も知らなかった。

wikipediaによると、1960年フランスから独立以来クーデターが多発しており政情は常に不安定、その影響から経済は低迷し続け、治安の悪化も深刻な「失敗国家」のひとつに数えられている。

2013年にはイスラム教系とキリスト教系の武装組織の対立が激化、首都バンギでは数百人規模の死者を出し、治安維持のためにフランスとアフリカ連合による派遣軍の軍事介入を受けた。

レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ブラッド・ダイヤモンド」の舞台となったシエラレオネと同じように、一般市民を巻き込む苛烈な争い、少年兵の存在、そしてダイヤモンドをめぐる利権争いなどの問題がこの中央アフリカにも存在し、今も情勢は安定したとは言えないという。


同じ国の国民同士が憎しみあい殺しあう。

かつての日本がそうであったように、それは今も世界のどこかで起きている。

その日帰ってから青木さんのブログを見つけたので読んでみた。

中央アフリカ共和国だけではなく、過去アフリカの様々な国を訪れた取材旅のレポが綴られていた。

取材レポを読んでいてまず驚いたのは、その旅の始まり方だ。

フリーのフォトジャーナリストの彼は、目的の国を決めたら頼る人のあてもなく渡航、現地に着いてから案内役を探すというのだ。

そして、どの旅もその案内役の人物がまさに旅のキーを握り、案内役を通じた<縁>によってその国の様々な立場の人達と出会いながら、戦いの最前線を目指して旅をしていく。

そして青木さんは中央アフリカ共和国の旅の縁のはてに、キリスト教系勢力「アンチバラカ」の英雄 リチャードと<友達>になった。


つい一括りに「アフリカ」としてしまいがちだが、取材レポを読んでいるとそれぞれの国に独自の国民性があることなどにもあらためて気づかされた。

青木さんの写真に、ありのままのリアルさを感じたのはなぜなのか?

ブログで現地の人との交流の様子が綴られているのを読んでなんとなくわかった気がした。

青木さんの写真には、その場にとって異物の「カメラマン」という存在が一方的にその場に踏み込んで撮ったドキュメント写真という印象が感じられない。

それは、いい写真を撮ることを目論んで生活に溶け込もうとしたわけでもなく、ごく自然と人と人とが縁で繋がり親しくなっていく過程で生まれた写真だったりするからかもしれない。

装われたナチュラルとは違う、ウソも加飾もなくありのままのリアル<純粋さ>をまとった青木さんの写真は、センセーショナルな写真以上にその国の今を生きる人達を知れた気がしたし、素直に興味が湧いた。

そこに赴いた事のない私たちは、内戦中の国と聞けば、嫌でも悲惨な戦場と傷ついた人達を思い浮かべてしまう。

そして「悲しみ」「悲惨さ」という方向からしか物事を見ることができなくなり、その国で撮られた写真にも、どこか「悲劇」を期待してしまうところがあるようにも思う。

けれど、家族が殺されたり、今も貧困に苦しんでいたりしていたとしても、決して彼らが皆、ずっと悲嘆に暮れているわけではなく、それぞれの人が日々のささやかな出来事に喜びを感じたり、楽しんだり笑ったりもしながら、私たちと同じ今を生きているのだ。

そんなすべてを含んだそれぞれの日常が映し出されていた。

もしかすると、私にはわからない何か写真家としてのこだわりやテクニックなどが駆使されているのかもしれず、それが写真の世界での評価や自分自身への評価になっているのかもしれなくて、そうだとすると失礼なことかもしれないのだけれども、これらはあくまで私の感想文だと思って読んでもらいたい。


写真とはある瞬間を切り取ったもので、必ずその瞬間を作ったものがその外側にある。

周りに広がる景色、その瞬間の前後の時間。

映し出されていないところには何が広がっているのか?

見た人がそこに想いを馳せ、想像することによってこそ写真はその意味を成すのではないだろうか?

青木さんの写真にはカメラマンの色が見え隠れする「これぞ我が写真!」というような個性の演出は感じられなかった。

でも、鈍感な私にまで響くような、フォトジャーナリズムとしての役割を果たす写真。

それが彼の圧倒的な個性となってひとりでに表現され、会場の中でアートとしての美しさを放っていたように感じた。


イベントが終わり、青木さんと話す機会があった。

青木さんのメッセージのパネルに心を打たれた事を伝え、「思いやり」について少し語り合った。


こうした写真を撮っているけれど、それはこんなに大変でかわいそうな人達がいて、食べられないで飢えている人もいるんだから残さず食べなくちゃダメだとか、そういうことを伝えてお説教じみたことがしたいわけじゃない。

平和を築いていくためには<想像力>がとても大切なことだと思う。

それはアフリカの人達に向けるものでもいいし、
身の回りの身近な人に対して向けるものでもいい。

今どんな事を考えている?
なにを必要としてる?
と、想像してみることがとても大事なことだと思う。

もちろんどんなに巡らせた想いであっても、決して他人と100%理解し合えることはない。

けれど、分かり合おうとすることを決してやめてはならない。

世界中のひとりひとりが、そうして思いやりを持って身近な人と接することをすれば、きっとこの世から争いはなくなって平和になると思う。

この数ヶ月に渡る絶望の中で、これまであれほどはっきりと息づいていた「思いやり」の意味を私は見失いかけていた。

けれど、この日こうして語り合った言葉のひとつひとつが、胸の奥で小さくなってしまっていたものに染み込んでいった。


私の知らない国で、経験した事もない戦争の中に身を置き、何かを伝えようと写真を撮り続ける「戦場カメラマン」は、遠い存在ではなかった。

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ギャラリーにはアーティストのこうづなかばさんが手がけるジュエリーブランド「GRAVITY」の作品も展示されていて、真っ黒な小さな石ころにしか見えないダイヤモンドの原石が使われたジュエリーを見ることもできる。

こうづさんは以前、2015年にシリアで命を落としたジャーナリストの後藤健二さんと共に、ジャーナリズムをアート化するというプロジェクトを手がけていた。

その後、縁あって新しいパートナーとなった青木さんとは、アフリカに不幸の連鎖を生んできたダイヤモンドを、彼らを豊かにするためのダイヤモンドに変えていくというビジョンを共有している。

この映像では、2人の壮大なプロジェクトについて語られているので是非見て欲しい。

動画の中でこうづさんが、後藤さんから説得された<縁>の話をしている。

私はこれまで「支援するならまずは自国へ」と考えていたこともあって、熱心に海外への継続的な支援を考えたことはなく、災害支援のクリック寄付をしたことくらいしかなかった。

けれど、青木さんとこうづさんは、リチャードをはじめとする「友達」を支援しているのだ。
中央アフリカ共和国はとても遠い国だけれど、友達を助けたいという思いに国籍や距離は関係ない。

そして、後藤さんがこうづさんに話した「縁」でいうのであれば、私は2人と知り合ったことで、中央アフリカのリチャードとは知人の友達という距離感にまで近づいてしまったことになる・・・


「Peace is___ 」

私にとって平和とはなんだろう?

あれからずっと考えていた。
これを書いていて、やっとぴったりな言葉が見つかった。

ありきたりかもしれないけれど、

「Peace is 思いやり」

遠いと思ってたものが、本当は近くにあると気づくことで辿り着いた答えだ。

これを読んだあなたにも、一度ホームページを見てほしい。

 http://peaceis.space/

そして、願わくばギャラリーにも足を運んでみることをオススメする。
ギャラリーは常時解放ではなく事前に来場予約をするスタイルで、私が参加したようなゲストを招いてのトークイベントなども随時開催されている。


自分を包む360度〈中央アフリカ共和国〉の中で、あなたは何を想像するだろうか?


「Peace is___ 」


あなたにとって、平和とはなんですか?


追記

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青木弘写真集
「樹平線」絶賛発売中!

「アフリカを愛しアフリカに愛された男」
戦場フォトグラファー青木弘の見た
中央アフリカ共和国の現実と未来の平和。

ドキュメントフォトを縦軸に現地の子ども達が描いた絵や美しい日常風景を横軸に編んだ革新的なアートブック。

https://peaceis.official.ec/items/26298293




ありがとうございます 嬉しいでーす ╰(*´︶`*)╯♡