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廣川ちあき
2018年10月5日 20:23
僕たちはまだ互いに優しくなるやりかたを知らない月曜朝8時13分発 特急京王線新宿行き 満員電車脱毛サロンのモデルが口を半開きにしてこちらを見ている誰かの舌打ちが聞こえるサラリーマンの肩越しにライブ配信アプリの画面が見える 僕らは互いの心臓のありかさえ知ろうとしないのだ夜道をこちらに向かってくる人の左胸が白く発光していたのを覚えているそれは左胸のポケットに入れたスマートフォンの画面
2017年7月29日 01:53
梅干しの種を舌の上で転がしつづけても新しい果肉は生まれてこないし、見損ねた映画のちらしを裏に表にひっくり返しても新しいすじ書きは現れてくれない。まぶしい停留所で電車がごとんと止まって、向かいの窓がぜんぶ青い空と海になる。いつもの地下鉄の駅から駅の長い時間のうちに夕暮れの空の色の移ろいを見逃していることを思い出す。開け放たれたドアからとんぼがついと入ってきて、飛んでいく軌道に水
2017年6月28日 16:49
あまりにおほきく 見ひらくからふたつのくろめがごろんと こぼれおちさうだおまへが さうして おびえてゐるのはおまへを見つめる わたしではなくとどろきちかづく ひづめの音松明の はじける音草原をこがす 煙のにほひだわたしは ほかでもおまへと目があつたやうな気がしたのだ雪もよひの 灰色の空の下おほきな教会が けぶる広場でききなれぬ あたらしいみことのりを聞かされながら着ぶ
2017年6月22日 01:04
たたんたたん、たたんたたん、と窓枠を指のはらで優しくたたく音が規則を外れてやがて消える対向列車の通過を待つあいだ黄色く濁った菜の花が泡立ちながら殖えて土手から頭の中まで覆いつくすかつて恋人にしたかった人の首すじをつつむ想像上の鱗をくちびるでいちまいいちまいはがす時折、喉の奥で声がくるしく詰まるのはうっかり身体の中に溜めてきた水に自らおぼれているからだと思いつくモーターの