鱗
たたんたたん、たたんたたん、と
窓枠を指のはらで優しくたたく音が
規則を外れてやがて消える
対向列車の通過を待つあいだ
黄色く濁った菜の花が泡立ちながら殖えて
土手から頭の中まで覆いつくす
かつて恋人にしたかった人の
首すじをつつむ想像上の鱗を
くちびるでいちまいいちまいはがす
時折、喉の奥で声がくるしく詰まるのは
うっかり身体の中に溜めてきた水に
自らおぼれているからだと思いつく
モーターの低いうなりが耳の底に忍びこむ
無言から無音へと変わる境目には
やはり二度とたどりつけなかった
(2017年4月)
現代詩手帖2017年6月号 岸田将幸選・選外佳作
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