見出し画像

【東京の茂み100選】2:欲望都市型ホラーの佇まい/神田児童公園(千代田区)

【シリーズ 東京の茂み100選】
都会の片隅に、人目を避けて密やかに存在する空間=“茂み”。
気心知れた仲間と語らう"茂み"、人目を忍ぶエロスの"茂み"、自分に向き合う"茂み"、身内の耳を避けるための"茂み"…。
今日もまた “茂み” を求めて、喧騒のキワを彷徨する ── 。

サラリーマン=オフィス+神田、 という説

都内屈指の猥雑界隈、JR神田駅前。
東京駅のひと駅隣にあって大手町・丸の内とは全く異なる文化圏を形成し、焼鳥・焼肉、カレー、女まで、男の欲望を一通り満足させる街である。

街を歩いていて感じるのは、この「神田」とは「社会的役割としてのサラリーマンが男だけのものだった時代の残滓」とでも言うべき空間ではないか、ということだ。
蛍光灯が整然と並ぶオフィスでの「業務上のやりとり」と、電球の下で肴を突き合う「飲みニケーション」が、その両輪で企業戦士のマッチョイズムを支えていた。そのシステムの一片が「神田」だったのだ。

猥雑界隈とはいえ、この街には、新宿・歌舞伎町の如き「抜け出せなくなりかねない」ほどの泥濘はない。神田は、ホワイトカラーの街・大手町の隣にあって、あくまで翌朝からは再び職場で業務に邁進して家庭を支える「模範的サラリーマン」の社会的役割を成立させるための場なのである。

閑静な方の「夜神田」の魅力

この駅前から、直線距離にして僅か250m、神田司町(かんだつかさまち)の『神田児童公園』が今回の "茂み" である。

多町(たちょう)大通りの先は中小事務所の雑居ビルがひしめく。大通り沿いを除けば飲食店なども激減、公園近辺はこんな感じになる。

プロント神田グランドセントラルホテル店ホッパーの『Nighthawks』のような雰囲気だ。ビジネスホテル併設としては、超気の利いたカフェと言えそうだ。男女ペアのイケナイ東京出張の際などには、就寝前の反省会にでも利用したい。

”茂み” の本義としては、煌々としているより照度抑えめの方がよい(≒ エロスがある)が、ここまで暗いと不安になるかもしれない。しかしこの公園は大丈夫だ。裏は小学校と幼稚園、隣は役所、極めつけはエントランスに交番がある(後述)という、超良好な治安の立地なのである。

公園裏に建つ「千代田区立千代田小学校・千代田幼稚園」。統廃合により1993年創立。
同 公園裏。拡幅整備等で生まれた「車歩道面が平滑」「車道がアスファルトではない」この手の道にアツいフェティシズムを抱くのは私だけではあるまい。
「あ~あ、酔っぱらっちゃったね」とか言ってる女性とフラフラしながら歩きたくなる設え。

…つまり、神田駅前でビールを飲みレモンサワーを飲みお茶ハイを飲み熱燗を飲み…と徐々に度数を上げて閉店時間を迎え「ちょっと歩こうか」となってコンビニで酒を買い「あ~あ、酔っぱらっちゃったね」などと言いながら多町通りを抜け「どこ向かってんのこれ」「いやマジで適当(笑)」「適当とか(笑)」「けどほらこのまま行っても淡路町か神保町だから」「ちょっと暗くない?この辺大丈夫?」と言われても、
「はい。裏は小学校と幼稚園、隣は役所、極めつけはエントランスに交番があるので大丈夫です。」と言えばよいのである。

公園の全容

ようやく公園の話だが、まずは園内のコンテンツを紹介しておく。
子育て世代からは「じゃぶじゃぶ池」をはじめとした「ガチ遊具」の評価が高いようだが、”茂み” を味わう我々としては「座るところが多い」「適度な距離感があり、他団体との遭遇が気にならない」点が推せる。

奥に「じゃぶじゃぶ池」、右に特徴的なドーナツ状の遊具。砂場の「砂質の良さ」にも評価が寄せられているらしい。
座るところが多くて捗るが、日中も子の親から同様に感謝されているに違いない。ブランコは乳幼児用バスケット式なので大人の利用は推奨しない。
この日も2、3組の先客が。距離があるのでプライバシーは十分。ふたりから集団までバリエーションある空間を自由度高く使える。園内禁煙。
公園周囲には壁のようにオフィスビルが。公園全体に漂う「モノカゲ感」が高い芸術点をはじき出す。

ちなみにこの”茂み”、アメニティの充実度も高い。役所や学校に隣接しているからか、立派なトイレが設けられているのも好感が持てる。

トイレ。快適な ”茂み” 環境の保全のためにも、綺麗に利用したい。

霧は香ばしい

モダンホラーの金字塔『エクソシスト』(1973)。そのイメージの引き上げに一役買っているのが、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ(Tubular Bells)』だ。

本来『スパイ大作戦』(1966)や『燃えよドラゴン』(1973)のラロ・シフリンが楽曲を担う予定だったが、シフリンのデモを聴いたウィリアム・フリードキンがスコアを破り捨てたという話があるそうだ。抑揚が強くなりすぎて、昔ながらのゴシックホラーの延長になりそうではある。
『Tubular Bells』の「ミニマルなパタン反復」は現代的だ。別にホラーを意図した曲づくりだったとは思えないが…。

『エクソシスト』(1973)ポスター。夜+街灯+霧。

なぜこんな話を引き合いに出しているかというと、この公園、夜には霧が出るからである。

園内を包み込む、夜+街頭+霧。左が例の交番。

表通りに面する焼鳥屋の排気口が公園を向いているので、夜の営業時間になるとムーディーな煙が園内を包み込むのだ…。いや霧じゃねえよ、煙じゃねえか? しかし見てほしい、この上の写真を。交番の赤色灯も相まり、明らかに「ホラーな」雰囲気が立ち込めているだろう。

「特等席」にあたる焼鳥屋のダクト直下は、下のgifのようになる。

この「特等席」、先客がおり、岩に座りサッとタバコを吸って、コーヒーを飲み干し、缶を置いて(照明の左にあるヤツ)サッと帰っていった。長居無用の席らしい。

全てが絶妙。たどり着くまでのルートを含め、「吊り橋効果」を狙って楽しく利用してほしい。

金曜夜などごった返しているので予約必須の焼鳥屋。多人数の飲み会に勝手が良さそう。
公園飲みの場合、並びの「ファミリーマート神田司町店」が便利。
エントランス周り。このパスもすげえいい感じなのだ。

【東京の茂み100選】-3- に続く(超不定期連載)


過去の連載はこちら:


この記事が参加している募集

#このデザインが好き

7,268件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?