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記事一覧

140(40)

近くに2号店がオープンするというので、開店日に行ってみた。帰り際、初めて店長と言葉を交わす。こっちの方が近いですか。一緒ぐらいっすね。本店と2号店を底辺にして正三角形を描いた頂点くらいの位置っすね。会話不成立。絶妙に引きつった表情で僕を送り出す店長。泣き叫びながら自転車で帰る僕。

140(39)

「製麵機故障の為、お休みします」お店の真ん前まで来てツイートを知った。今月最大級に絶望した。それでも今日はお店が開かない。裏口の傍に公園を見つけ、うなだれてベンチに座る。すると裏口から豚骨スープの香りが漂ってきた。麺を湯切りする音も聞こえる。今日食えんじゃね?裏口を開け以下自粛。

140(38)

開店と同時に入る。フードコートに座席だけ確保する。メガネケースとチェリオの烏龍茶が目印だ。同じフロアのスーパーで安い惣菜を買う。スマホを眺めながらうつらうつらしたら今度はパンを買い足す。正午を過ぎる頃に忽然と姿を消して、あくる日の開店時間にまた現れる。それが彼のルーティンだった。

140(37)

別に後ろめたい買い物なんてしたことがないし、胸を張って支払うだけ。しかし恥ずかしい買い物をしてきたことはある種のトラウマで、型番違いのACアダプターを毎週のように買い直す様はもはやコレクターと言う他ない。中2理科物理をサボったツケがここに来て大爆発。物流センター方面へ向け土下寝。

140(36)

弟の家に待望のウォシュレットが導入された。ドアを開け閉めしただけで人の気配を感知し、自動で便座の開け閉めまでやってくれるって代物だ。早速使ってみる。便座の下には暖房機能まで付いていて、雪の多い冬場でも安心、などと感心していると便座が閉まり始めた。これがかの有名な座敷わらしである。

140(35)

いろはすオレンジとハイライトメンソールをレジに置き、財布から580円を差し出すと、店員さんが「1080円です」と言い始めた。そんなはずはない、もう一度勘定してくれと頼むと、店員さんはたいそう不満そうな顔をしながらもう一度レジ打ちをやり直す。詫びもせず「580円です」とだけ言った。

140(34)

テナントの安定しない建物がある。元々は某有名アパレルが入っていたがあえなく潰れ、代わりに大型リサイクルショップがオープンしたがこれも2年もたず、そこからますます迷走していくのだが、次に入ったのがまさかの豚骨ラーメン屋で最速消滅、カラオケ付娯楽施設、唐揚げ屋、質屋を経て現在はジム。

140(33)

店員さん。ちょっと店員さんってば。なんで来てくれないんですか。今、目合ったでしょう。探してる服があるんやけど。確かに彼はその日、全身ユニクロでまとめていた。半袖のインナーに、青のブロードシャツ、黒のスウェットパンツに、スタンスミスリーコン。どうみても店員だが、彼はただの客だった。

140(32)

全部あれにすればいいのに。自動販売機のコイン投入口に、受け皿付いててめちゃくちゃ安心するやつ。全部あれにすればいいのに。松屋のプレミアム牛めしにだけ付いてくる、めちゃくちゃ美味い七味。全部あれにすればいいのに。3本買ったら1本無料って聞いたから3本買ったのに全然値引きしないバカ。

140(31)

鏡に映った自分を眺めてみる。まだ見ぬ音楽との出会いに感動し脇目も振らずにShazamをかざす様は、盗聴器発見器で盗聴器を探している人そのままだった。冷静な自分を見失って初めて気付く、新たな潜在能力。いっそ探偵を目指してみるか。しかしよくもまあこんな絶妙な場所に姿鏡を置いたものだ。