哲学の考え方を観光振興に活かす その2ヘーゲルのアウフヘーベン
哲学は、そのものの魅力を発掘し観光商品にまで昇華させるに有効な考え方をいくつか生み出しています。その中でこのシリーズエッセイでは下記3つの考え方に注目しています。
1)エドモンド・フッサールの「相互主観性」
2)ヘーゲルの「止揚(アウフヘーベン)」
3)キルケゴールの「関係性」
第二回目の今回は(2)ヘーゲルの「止揚(アウフヘーベン)」をご紹介します
なお哲学そのものの解釈は、大学時代に一介の哲学徒に過ぎなかった私なりの解釈ですから、詳細を正しく知られたい方は哲学の専門家などの解釈のほうを確認することをおすすめします。
ヘーゲルの「止揚(アウフヘーベン)」
アフフヘーベン(止揚(しよう))とは、ドイツの哲学者ヘーゲルが見出した考え方です。
「矛盾した2つのものを、一層高い視点から見て、それらの矛盾をなくし解決策を見出すこと」を言います。
ドイツ語で表記するとAufhebenとなりますが、この単語の中の前半分のAufは、「上」「上の方」または、「上のほうへ」を意味しています。
「heben」は「挙げる」「上げる」「持ち上げる」「高める」の意味です。
この2語が組み合わさったAufheben、なんとなくニュアンスがご理解いただけたかと思います。
私がこの語源をわざわざ紹介しているのも、最近勉強をはじめたドイツ語の知識を披露したいわけでなく(笑)。
後述しますが、こと「観光振興」に関して限って言えば、この「上へぐいっと持ち上げる」ニュアンスは重要な考え方と思ったからです。
アウフヘーベンは、観光振興分野にとらわれず、広くクリエイティブな仕事だったり、画期的なイノベーションによく含まれている考え方だと思います。
その課題解決の「突破力」は目を見張る威力があります。
なぜならアウフヘーベンは、2つの相反する条件(「テーゼ」と「アンチテーゼ」といいます)が矛盾しているにも関わらず、最終的にはその両方を否定することなく一挙に解決する形になるからです。さらに、もし、その2つの条件そのものが「それぞれ相方の条件に阻まれて十分にできていなかった」状態だったら、その2つの価値をそもそも再生復活させることを成功させた上で、さらに、新しい価値(「ジンテーゼ」といいます)をも生み出してしまうということになるからなのです。
以下、アウフヘーベンをわかりやすくご説明しましょう。
たとえば、サンドイッチが生まれた説など、御存じでしょうか?
イギリスの貴族サンドイッチ伯爵は賭け事が大好きでした。
そして、食事時間を割いても賭け事をしていたい。
でも、おなかがすく。
そこで「賭け事をしながら手でつまんで食べられるものはないか?」
と考えて作ったのが、サンドイッチだというのです。
わかりやすいですよね。
つまりサンドイッチ伯爵の切実な欲求である
「賭け事をずっとしていたい」と
「おなかがすいたから食事をしたい」
この2つを「一つの時間帯」に同時に可能にするために生まれたのですね。
さて、このアウフヘーベンの考え方を導入すると
観光振興でよくある「まちあるき」ツアーなどはどうなるでしょうか?
旅先ではじめてのまちを歩くのに「誰かガイドに引率してもらいいろいろ楽しいことをダイジェストで体験したい」という希望。一方それに反して、「お仕着せの説明ばかり聞かされるとうんざりする。もっと自由が欲しい」という希望。この2つは互いに矛盾している希望のようにみられます。こういう時にこそ、アウフヘーベンの出番です(笑)
この場合、できることは、そのまちあるきの最中に「自由時間」を作ることなどです。たとえば、ランチタイムだけ「自由」にする。いったん解散して、自由を満喫してもらい、その後に、再度集合するといったまちあるきのスタイルです。意外にありそうで、できていないことが多いのです。
さて、それでは次に、私が実際に経験したアウフヘーベンを活用した観光振興の事例を2つ紹介しましょう。
ひとつ目は、佐賀で、あるお店のあるメニューの売上が1.4倍になった事例
二つ目は、千葉で、ある体験型観光に「誘い力」が加わりその季節の集客の目玉になった事例です。
これら事例を通して、アウフヘーベンを活かす観光振興上で最も大切だと思っていることを2つお話しいたします。
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