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久しぶりにお父さんとお母さんを独占できて嬉しかった話

お父さんが車のカギを開けて、お母さんは助手席に、私は後部座席に乗る。
運転席と助手席の間に顔を出しながら、お父さんとお母さんに「最近あった楽しかったこと」を話す。
日が差してきて、お父さんは仕舞ってあったサングラスをかける。
「帰りにドラッグストア寄りたい」とお母さんが言う。
空は少し赤く染まって、明日の学校のことを思うと少し切なくなる。

久しぶりに実家に帰って、たまたまお父さん、お母さん、私の三人で出かけた。
きっかけは、私が「猫さわりたい」とつぶやいたこと。

2つ隣の市の道の駅に猫がいるらしいよ。
風強いけど行ってみようよ。

せっかくの休日なんだから、とお父さんが外出に乗り気になった。
お母さんも行くという。
試験勉強中の妹は家に残ることになった。

行くのはお父さんとお母さんと私だけ。
思えば、21年前に弟が生まれてから、この組み合わせで外出したことなかった。

どうでもいい話を楽しそうに聞いてくれる

出発するやいなや、最近どうけ?とお父さんが聞いてきた。
最近会ったいいこと、わるいことを順番に話した。

会社であった嫌なこと、

一人暮らしの憂鬱、

友達の失恋、

どんな話でも嫌な顔ひとつせず聞いてくれる。
どうでもいい会話にも返事をくれる。共感してくれる。時には私を傷つけた相手に本気で怒ってくれる。

嬉しくなってずっと話続けてしまう。

子ども扱いしてもらえるうれしさ

「ねこ、おらんでもがっかりしられんなよ」
「雨ふっとるから足元気を付けんなん」
「あっちにおるから、終わったらおいでね」

小さいときに聞いた言葉そのままだ。
子ども扱いされるのは嫌だと思っていた高校時代が嘘みたい。
誰かに無条件で慈しんでもらえるのが、こんなにもうれしいなんて。

お父さんが、せっかく来たんだからご当地コロッケ食べようと言う。
いいんじゃない、とお母さん。
そこで

「あんたも食べる?」

と聞いてくれた。

別におなかは空いてなかったけど、
聞いてくれたのが嬉しくて、
お父さんと一緒に食べたくて、
お母さんに何か買ってもらえるのが嬉しくて


「食べる…」

って、半にやけで言っちゃった。
お父さん、コロッケの衣めちゃめちゃ床に落としててかわいかったな。

欲しいお菓子を選んで、カートを押すお母さんを探した

ナビで探したウエルシアは、20数年前にできたボロボロの建物に入ってた。
入っても店内は少し暗くて、品ぞろえもそんなじゃない。

「ドラッグストアっていうのが出来たばっかりの頃みたいやね」

懐かしいわあ、とお母さん。
お父さんはおいしそうな菓子パンコーナーに消えていった。

あんた欲しいもんないん?

と聞かれて、じゃあ探してくるとお菓子の棚を探した。

欲しいものは特になかった。
けど、欲しいものない?って言われたのが嬉しくて、まだその声かけに反応したいんだよって伝えたくてお菓子の棚に来てしまった。

結局、店内で遭難していたお父さんとお酒のおつまみを買った。
今日の夜一緒に飲むお酒の話をしながら。

お母さんどこいった?
洗剤のほうで見た気がする。

二人で棚と棚の間を順番に確認して、お母さんが持つカートのかごにポイと入れた。

ほら、行くぞ と呼ばれて

お父さんとお母さんが会計している間に、自分で染めるヘアカラーの棚を見ていた。

そういえば、先月生まれて初めて髪を染めたんだった。
生まれつきの黒髪から、少し柔らかなダークブラウンに。

もともとの髪色に近いのはどれだろう、こんな色に染めることはあるのかな、
ひとつひとつ、馬のしっぽみたいに巻かれたサンプルの色や艶を見て確認していった。

「ほら、行くぞ」

と声が聞こえた。
レジを済ませたお父さんとお母さんがお店の出口で私を待っていた。
ほーい、と小さいときの口癖で返して、立ち上がってお父さんとお母さんの間に駆け込んだ。

お父さんはトランクに買い物袋をしまってから運転席に
お母さんは助手席に
私は後部座席に座った。

ほんなら帰るか、

とお父さんが言った。
ゆっくり車が動き出した。

そうそう、この感じ。
お父さんとお母さんの頭が前にあって、その間のフロントガラスに映った風景がどんどん過ぎていく感じ。

もうすぐ家についちゃう。
ちょっと苦しくなった。
もっと子供でいたかったな。もっと子供扱いされたかったな。

また妹が試験期間中に帰省してみよ。


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