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28.(組織の話)企業が家族心理学、家族療法を学ぶ重要性①

はじめに

今日これから書くことは賛否両論あるだろうと思います。
全ての企業に当てはめるのは乱暴ですし、企業が担うかどうかも議論の余地ありです。それでも家族心理学、家族療法を学ぶことで今までとは違うマネジメントができるのではないか?と思うことがあり、提案してみたいと思います。

前提として。
なぜ私が家族心理学、家族療法を語るのか?と言いますと、私が学んでおり、かつ協会にも所属しているブリーフセラピーは、元々は家族療法のコミュニケーション学派です。ブリーフセラピーは家族という言葉の枠組みを超えて活動していますが、その理論には家族療法が背景として存在しているのです。そのことから私もブリーフセラピーを学ぶ過程の中で家族療法についても学んできました。
家族心理学は、家族療法を学ぶ過程で当然、家族ということに焦点を当てますから学んできた、ということと、スクールカウンセラーとして勤務するようになったことによって、生徒の問題解決のために、より家族療法、家族心理学を学び、使っていく必要があったのです。

さて、上記が私が家族療法、家族心理学を学んできた過程です。
ではなぜ、企業がこの二つを学ぶ必要があるのかを書いてみたいと思います。

女性活躍推進を企業の中の働き方だけで考える難しさ

私は企業向けに研修講師として活動しているのですが、ここ数年コーチングなどのビジネススキル研修よりも女性活躍推進、両立支援制度の立ち上げ支援、働き方改革の依頼を受けることが増えてきました。
その中で上記テーマにおける管理職向けの研修に登壇することが多くなっています。また今度男性の育休に関するワークショップの依頼も頂戴し、ますますそういった支援が増えてきそうです。

その支援をする中で担当者の方や管理職の方、また対象者と話しながらつくづく思うのは、
「家族に関する知見が知られていないなぁ」ということです。
例えば女性活躍推進を本格的に推進しようとしている時に、よく設計されている打ち手は「対象女性向けの能力開発研修」だったり、「管理職が女性を育成する能力開発研修」です。
また産休、育休や、辞めた後に復活できる制度などなど。
これ自体はとても大事で必要なことですが、これで本当に女性は活躍できる状況になるのでしょうか。
女性が企業の中で活躍していく時に「結婚」「家族」「家庭」は明らかに検討要因です。結婚している場合は夫との家庭での家事割合によっては、家事を一手に担っていることもあります。子供がいる場合はよりその負担の大きさが影響します。また結婚していない場合でも家族の介護など、問題を抱えているケースもあります。

「女性管理職登用に向けた研修」で起きること

それではここで「女性管理職登用に向けた研修」を考えてみるとどうでしょうか?
様々な研修がありますので、一概に言えませんが、私がよく聞くのは、
リーダーシップや人材育成などのスキルや、管理職への意欲を高める内容が多いように思います。
しかしこれだけで良いのでしょうか?
基本的には女性社員に対して管理職になるためのモチベーションアップと能力向上を目的にしており、研修設計上は通常の作り方です。

しかしここには落とし穴があるように私は思います。

「企業の中で頑張る力」を高めることは良いことですが、家庭、家族内での負担を下げない限り、個人の限界を超えて頑張らせることにならないでしょうか、ということです。

ある企業で部下の女性を育成する立場の管理職の方と話した時に彼が言っていました。
「私の部下は子供が二人いるのですが、夫の助力を得られない状況なんですよね。この状況で仕事をもっと頑張れ、管理職になるために頑張れ、って言うのはどうなんでしょうか・・・。彼女からは『ちょっと限界を感じている』と言われていまして・・・」こう仰っていました。
私はこの管理職の方は素晴らしいと思います。
部下をちゃんとみている、話を良くしています。またきっと信頼も得ているんだと思います。だからこそ部下の女性は安心して自分の状況を打ち明け、相談もしているのです。私は彼と話をし、ただ能力開発を勧めるのではなく、一緒に相談をして進めること、また必要に応じて、挑戦をやめることも選択肢に入れつつ、進めて欲しいと伝えました。
ただ彼のように部下の女性の環境も含めて検討し、仕事でのパフォーマンスマネジメントできている方はあくまで私が研修を行ってきた私見ですが、そんなに多くないように思います。
このように考えると「家族」などの影響を無視するのは難しいように思います。

ここで勘違いして欲しくないのは、私が管理職が部下の背景を知らなければいけない、と主張したいわけではありません。
「企業で働くこと」以外の要因が大きく影響を受けている対象者に「企業で働くこと」の側面だけをみて、効果的に施策がうてるのだろうか?ということを提示したいと思っています。

この時、例えば夫婦関係のこと、家事の分担に関することなど少なくとも女性に関わる家族がどういう存在で、どのような負担を持ちやすいかなどを施策を検討する際に理解しておくと良いのではないでしょうか。

男性育休推進の場合はどうか?

ご存知の方も多いと思いますが、男性が育児休業を取りやすくなる制度を定めた育児・介護休業法の改正法が2021年6月3日、衆議院本会議で成立しました。これによって男性がより育休制度を利用しやすくなります。
取得率が上がってくるでしょう。
ここで大事なのは取得率を上げるだけではなく、「いかに良い育休を取ってもらうか?」という観点です。
男性が育休を取るときに必要な知識はなんでしょうか。

一つ紹介しておきますと「家族ライフサイクル」という理論があります。
家族ライフサイクルにはいくつかの理論がありますが、ここではマクゴールドリック(McGoldrick.Mら)が1999年に発表した「家族のライフサイクル」を紹介します。
家族のライフサイクルの変遷を分けて提示したものの一部を紹介します。

1:家からの巣立ち・新生の若い成人
2:結婚による家族のつながり/結合
3:幼い子どもがいる家族
4:青年期の子どもがいる家族
5:中年期における子どもの巣立ちとその後
6:後期中年期の家族
7:人生の終わりを迎える家族

※文献:野末武義(2013)家族ライフサイクル.In:日本家族研究・家族療法学会編:家族療法ハンドブック.金剛出版

このうち男性育休で大事な点は3段階目の「幼い子どもがいる家族」です。
これは夫婦という二人のシステムに新たなメンバーを受け入れることになります。そのために必要な課題を認識し、解決を考えていく必要があるのです。このことを認識せずにただ男性育休を推進する場合、男性側にそのような家族の課題の知識がない場合、ただ「手伝えば良いのか」「妻の負担を減らせば良いのか」という行動になりがちではないでしょうか。まあ、これだけでもとても良い行動ですので、問題がるとまでは言えませんが、例えば「子育て、経済的課題、家事における協働」について話し合い、構築し、試行錯誤を始めていく期間なんだ」という認識で取り組むのでは全く違った結果になっていくのではないでしょうか。
そしてこれは男性育休だけではなく女性の育休や産休にも同様なことが言えるのです。

いかがでしょうか。今回は女性活躍、育休のふたつをあげて特に「家族心理学」の知見の必要性について書いていきました。
私はこういった知見を企業の人事が「必要であるかも」だけでも良いので知っておいていると良いのではないかと思います。
それだけでも様々な組織施策に効果的な対策を検討できるのではないかと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございます。
この続きは次回描きたいと思います。
次回は家族療法の使い方にも触れていきます。
また次回よろしくお願いします。

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