貴き想い、ひとつへ――『4x3』
(……行ける、間に合う)
5月8日、私は定時で仕事を上がり、新幹線に乗り、四谷へ向かった
令和6年5月8日〜19日、三栄町LIVEにて上演された、劇団おらんだ主催『4x3』
出演者の今野美彩貴さんとは、昨年5月『誤解のBar』で出会ってちょうど1年になる
今年1月の『誤解のBar〈2階目〉』を経て、私の「1番」となった美彩貴さん
私が美彩貴さんに惹かれるのは、魂が込められたお芝居に初見から引き込まれたことに加え、「私はただ、好きになれた人に感謝の気持ちを持ち続けていたいだけだ」にも残した通り、優しい心遣いや人間性の両面においてである
4月の『将棋無双・第30番〜神局のヴァンパイア〜』では観劇記録と合わせ、私の想いを素直に綴った
美彩貴さんから受けた恩に対して、自分は美彩貴さんに何を返すことができるかということは常々考えている
そんな想いから、「できることはやる、自分自身も後悔しないために」と、『誤解のBar〈2階目〉』『将棋無双・第30番~神局のヴァンパイア~』に続いて3回目の平日初日当日観劇を実行したのだった
そして迎えた『4x3』開演
美彩貴さんのお芝居にいつも通りのパワーを感じ、心躍る感覚になれたのは確かだった
場所が三栄町LIVEだからというのもあって、常連の美彩貴さんが音響・照明のオペレーションを使いこなす演出と台詞も私には嬉しかったものだ
ただ、ドラゴンボールやガンダムネタに失笑が漏れつつも、一方で全体として大きな疑問がずっと頭の中を泳ぎ続けていた
(何を見せつけられているのだろうか……)
"イマーシブ"(没入感)を標榜したこれまで観たことがないタイプの演目、しかしストーリーが見えてこない、理解が追いつかない、……
すっきりしない後味に、もどかしさを感じてしまったのだった
それが複数回観劇するうちに、感想は変わってきた
初回では分からなかったが、12日の2回目の観劇、また配信での復習を経て、美彩貴さんを軸に考えてみた
出演者の中で、いかにもステージ上の「役」に入り込んでいる人は、美彩貴さんしか見当たらない
それは衣装から読み取れた
冒頭から華やかな赤いドレスに身を包み、開演時間ギリギリに到着する(という設定の)飯沼さん、(巻き添えに)真田さんに謝罪を要求する美彩貴さん
以前、私は『誤解のBar〈2階目〉』の感想で、美彩貴さんが演じた"冬川あかね"と、堂本光一の『Endless SHOCK』における"コウイチ"を重ねて見ていた
"Show must go on."(何があってもショーは続けなければならない)という狂気にも似たコウイチの気迫を、冬川あかねにも感じていたのだ
しかし、この読みは浅かったようだ
今になって考えてみると、冬川あかねには、今野美彩貴という役者の魂そのものが投影されていたのだということに気がついたのだ
挿入歌であったマリーメトロノームの楽曲『君とiDOL STORY』の詩にある「1番になりたい」も、美彩貴さん自身の想いであったように
今回『4x3』では特に役名もないため、(実際に口が悪いかは分からないが)台詞に込められた真意は美彩貴さん自身のものであることが如実に感じられたと言っていい
舞台を照らすサスペンションライトは、役者にとって目標となる重要な光だという
この光を浴びるために、舞台に際して一切の妥協を許さず、またネタの一つと思われる大和田土下座も恥じることなく演じきる彼女は、役者としての揺るぎない矜持と誇りを持っている
このことは18日、3回目の観劇を経て確信を得られた
同じく強い役者魂を持っている人だと私が思っている、『将棋無双・第30番〜神局のヴァンパイア〜』で共演した真田林佳さんも、美彩貴さんを高く評価していることを知り、心から嬉しかったし、信じてよかったと思っている
さて、(何を見せつけられているのだろう)というもどかしさの最たる理由は、ストーリーが読めないせいだ
ストーリーが読めなければ、メッセージも読み取ることができない
そこで、先程美彩貴さんについて述べた中で触れた衣装について、今度は全体を見てみる
他の出演者の服装は、私服、スーツ、スタッフTシャツ、野球のユニフォーム、白衣、シスターと統一感はまるでない
この、「統一感がない」ことこそがキーであると私は感じた
また当初、酒井さんや牧野さん、道下さん(B)はスタッフ、梅﨑さん、赤屋さん(A)とましろさんは客として会場にいる
さらに、梅﨑さんが「客の気持ちを知ろう」と発し、出演者がステージ上に横一列に並んで座り静寂に包まれるシーンがある
これらの演出が、役者とスタッフ、客の境界を曖昧にする
私は最近、観劇に関して思うことを述べた記事を立てた
3月に観劇したある舞台で、ある役者と面会時に話していた内容であり共感していただけたのだが、その中には役者と客それぞれへの批判も含んでいる
追記しておくと、役者の中には「理由は何でもいいから来て」というポリシーのない人物、「来てくれたら頑張ります」という順序が間違っている人物、客を金づるとしか思っていないような人物が、いないとは言えないだろうということ
そして客の中にも、最前列で居眠りなど何を目的に来ているのか分からないような人物の他、スマートフォンやスマートウオッチを光らせる、帽子を脱がないなど最低限のマナーも持たない人物(最近の話で、スマートウオッチは『第30番』初日、帽子は『第30番』配信回に遭遇したばかり)がいるということ
(繰り返しになるが、私はそうはなりたくないし、そういう連中とは関わりたくもない)
役者は舞台を成功させるため、全力を尽くす
出演者が揃わなければ、探しにも出る
守谷さんを迎えに、酒井さん(B:道下さん)と美彩貴さんが会場外へ出ていく
"Show must go on."について、美彩貴さん自身の信条であろうということを先に述べたが、解釈は異なっている
『Endless SHOCK』のコウイチのような「周囲を顧みず闇雲に突っ走る」というものではなく、「全員の力をひとつにするために待つ」ものだと感じられた
現実の世界において、流行り病によってエンターテインメントが大打撃を受けた数年前、主催や出演者側は文字通り必死の思いで存続の可能性を模索していたであろうことを思い出す
『Endless SHOCK』も、"コウイチ"ではない堂本光一その人は、決して闇雲に突っ走ることはなく、流行り病以前にもトラブルによる公演中止を経験しては、対策を打ち再び幕を開けてきた
ましろさんがステージを乗っ取りに来るシーンは、過去にエンターテインメントが直面した危機を象徴していたのかもしれない
しかし、美彩貴さんがオペレーションを使いこなせることで、ステージは乗っ取りを回避する
スタッフも裏方ながら必須の存在であるし、いざというときには補完できる体制を整えているということでもある
そして梅﨑さんの台詞にあるように、観る側の立場も理解できていなければ良い作品はできないし、そして観る側自身も、演者が作り出す世界と想いに身体と心を預け、共に生きる姿勢で臨む必要があると私は思っている
私たちも流行り病の時期には間違いなく演者の想いに応え、支えようとしてきたはずだ
『4x3』のストーリーは、役者、スタッフ、客それぞれの立場にある者たちが「想いをひとつに、舞台に臨む姿を描いたドキュメンタリー」だと私は捉えたのだ
するとこの『4x3』は、実は開演前の"イマーシブ"の説明の時点で既にメッセージを発していたことにも気づく
「舞台は、そこにいる人々がひとつにならなければ完成しない」
境界が曖昧に"なる"のではなく、あえて"する"ことで会場の一体感、"イマーシブ"を演出している、というのが私の『4x3』の解釈だ
最後、守谷さんが到着したところで『4x3』の先にある、"本当の始まり"が訪れるが、ましろさんの言葉で現実の『4x3』の出演者、スタッフ、私たちが"すれ違う"ところで、ストーリーは終わってしまう
この先にどんな物語が想定されていたのか、気になるところではある
すんなりと理解できないもどかしさはあったが、何とか自分なりの解釈を持つことができた今、これほど役者の想いを体感できた舞台も今までなかったと思うし、前向きな気持ちになれた
そして何より、美彩貴さんの想いを改めて感じ取ることができた、貴重な時間となったことが嬉しかった
美彩貴さんへ
出会って1年、いつもお芝居にパワーをもらい、素敵な物語に感動し、全て大切な思い出になっています
これからもいろいろな景色を一緒に見て、一緒に生きていきましょう
2年目も、よろしくね
大好きだよ!
ありがとう!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?