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妻とぼくの「とつきとおか」

2021年3月16日、今日、娘が生まれた。

妻が妊娠したとわかってから、娘が生まれるまで。

これは、その一年にも満たない、「とつきとおか」のぼくたち夫婦の記録。

いつかこの子が大きくなった時、ぼくたち夫婦がどんな想いでこの「とつきとおか」を過ごしてきたのか伝えられたら。


***7/12***

妊娠したと妻から聞いたのは、ぼくの誕生日だった。

妊娠検査薬を持った妻がリビングにやってきて、嬉し驚いた表情で伝えてくれた。

26歳になった最初の日。

まさかこんなサプライズがあるなんて。これほど嬉しい誕生日プレゼントはない。なんというか喜びと、感動で、声が出なかった。

妻からは「あれ、もっと騒ぐと思ってた」と言われたけど。(自分もそんな反応をすると思っていたけれど。)

本当に嬉しい時って言葉が出ないんだ。

早速どんな名前にしようかとか、男の子かな、女の子かな、なんて話したりして。

人生で、最高の誕生日だ。

***7/20***

この日、初めての産婦人科へ。

妻は、とても心配していた。ちゃんと胎嚢確認できるかな。

ぼくも、とても不安だった。でも、大丈夫、そう言い聞かせながら病院に向かう。

自分で何もコントロールできないこと、これほど不安なことはない。ただ無事に赤ちゃんを確認できるか祈ることしかできない。

新型コロナの影響で、僕は病院の中まで入ることはできなかった。

待っている間、ぼくは近くのマクドナルドでアイスコーヒーを飲む。

マックシェイクを頼んだら、この時間はやってないんですとお姉さんに申し訳なさそうな顔をさせてしまった。

スマホでニュースやSNSを見るけれど、全然頭に入ってなんてきやしない。

もしダメだった時、一番最初に聞くのは妻じゃなくてぼくがよかった。そんなことを考えながら約30分。

LINEがなる。

妻の嬉しそうな声が聞こえる。

ああ、よかった。どうやら無事に胎嚢を確認できたみたい。

急いで病院まで迎えにいって、撮影したエコー写真を見せてもらう。

まだまだちっちゃくて、赤ちゃんらしい形もしていないけど、もうすでに可愛いなぁなんて言いながら帰路につく。

幸せやなって2人で話していたけれど、ただただ幸せな状態は長くは続かない。

***

ドラマや映画や漫画では、赤ちゃんができたらめっちゃハッピーで、数分経ったら生まれている。だから生まれてくるまでのんびり子どもを迎える準備をすればいい、なんて思っていたけれど。現実はそんな簡単に赤ちゃんは生まれてこない。妊娠がわかった日から、妻の体調がちょっとずつ悪くなっていく。

いわゆる「つわり」というものだ。

正直に言うと、ぼくは妊娠について無知だった。どれくらい待てば赤ちゃんは生まれるのか、妊婦さんが食べてはいけないものは何なのか、妊婦さんにどんな変化が生まれるのか。その時、夫はどうあるべきなのか。

ドラマとかを見て、つわりってちょっと頭痛くなったり気分悪くなったりするもんやろ、と思い込んでいた当時の自分の無知さに絶望する。妊婦さんの妊娠日記を見ていると「妊娠ライフを楽しんでいます!」というのもあるけれど、妻はどんどん食べれるものがなくなった。そして仕事も休んで1日24時間のうち23時間くらいはベッドにいる生活が始まった。

最初は焼うどんとかカレーとか、妊婦さんが食べたらいけないものに気をつけてぼくがご飯を作っていたけれど。すぐに受け付けなくなり、食べたとしてもすぐに吐いてしまう。

全部吐いちゃうからお腹は空いているのに食べれるものがない。何が食べたい?と聞いてもわからないという答えが返ってくる。

結局、うちの場合は雑誌とかを見ながらいろいろ食べれそうなものを試して、生き残ったものをストックするスタイルに落ち着いた。

サクレのレモン味、レディーボーデンのいちご味、エビピラフ、みかんの缶詰、午後の紅茶のレモンティー、マクドのポテト。

妻の命をつないでくれた食べ物たちには感謝してもしきれない。

特にエビピラフ。アイスばっかり食べるようになって、どうしたら良いのかわからない中で、エビピラフはまさに救世主だった。

フライパンで炒めるだけで、あの美味しさ。ニチレイフーズの作ってる人に感謝の手紙を送りたいくらいだ。ありがとう、ニチレイフーズのエビピラフを作ってくれた人。

***8/3***

この日は2回目の妊婦検診へ。

前回赤ちゃんの心拍がまだ確認できないと言われ、この日は心拍を確認する。

もちろん、ここで心拍が動いていなかったら赤ちゃんの成長は止まっていることになる。

無理しないように生活して、できるだけご飯も食べてできることは全部やっているつもりだ。

それでも、病院で検査するまで心拍が動いているかはわからない。

またしてもコントロールできないことへの、押し潰されそうな不安がやってくる。妻にはきっと大丈夫、って声をかけていたけれど、半分は自分に言い聞かせていた。

病院は歩いて10分弱の距離だけど、今の妻には歩いて行ける距離じゃない。

朝イチでタクシーを呼んで、この日も病院まで妻を送ってぼくはマクドナルドで待機した。やっぱりマックシェイクはやっていなくてアイスコーヒーを飲みながら、早期流産についてのネットの記事を眺めながら不安と闘っていた。


20分もしないうちにLINEがきて、どうやら無事心拍を確認できたみたい。妻の声も安堵に満ちていた。

病院まで迎えに行き、帰りのタクシーの中で小さな、小さな赤ちゃんのエコー写真を見せてもらう。

「まだ9mmだって。こっからどんどんおっきくなるんよ。」

つわりで苦しんでいる妻の、嬉しそうな顔。


***8/11***

この日は、ぼくたち夫婦にとって特別な1日。夫婦の結婚1周年記念日だ。

元々この日は結婚式をあげたIWAI OMOTESANDOでディナーを食べる予定だったけど、つわりがピークで延期させてもらうことに。妻が妊娠していること、つわりで苦しんでいることを伝えると快く調節いただき感謝しかない。

つわりのピークのこの頃は、本当に毎日死にそう死にそうと言っていた。

薬を渡すわけにはいかないし、物理的に妻のしんどさを取り除くことはできないから、ちょっとでも妻が楽になるにはどうしたらいいだろうって毎日考えていた。

甘い卵焼きを食べたいと言ったから、急いで作って、妻がおいしいと言ってくれたときはなんだか泣きそうになった。

それも、小さな3口。

本当につわりに終わりはくるのだろうか。

***8/17***

3回目の妊婦検診。

この日、妻が病院で撮ってもらった赤ちゃんの写真がちょっと人のようになっていた。ちっちゃなちっちゃな二頭身。

ずっとつわりで苦しんでいる妻のお腹で、確かに赤ちゃんは成長している。

自分の子どもが、少しずつ大きくなっていることが救いだった。

***9/2***

妊娠に関する雑誌を見ていると、妊娠初期のつわりのピークはだいたい 妊娠 8~11週頃らしい。11週の終わりになっても辛そうな妻を見て、ほんまかいなと雑誌に心の中で文句を言っていたこの日、久々に妻が甘いものを食べたいといった。ちょっとマシになってきたらしい。

これまでずっと甘いものの匂いを嗅ぐだけでも気持ち悪い、もう一生甘いものは無理と言って避けていたけど、何だったら食べれそうか聞いてローソンのロールケーキを買ってきた。

***9/13***

妻が外に出たいと言った。ちょっとしんどいけどだいぶマシだからと。

外の空気を吸うとちょっとは気分も晴れるかなと思い散歩に出る。

お腹がもっとおっきくなっても着れる服を見に行こうと、近所のユニクロに行く。歩いて5分の距離を20分くらいかけて。

ただ近所のユニクロに行くだけなのに、それだけのことがひどく嬉しかった。散歩できることがこんな幸せなんやねぇって言いながら。

***9/30***

だいぶつわりがマシになってきたようで、今日は久々に外でランチ。大戸屋のチキンを食べて栄養補給。

ランチ行けるの嬉しいなぁ。あれ美味しそうとか言いながらただメニューを決めることがとても楽しかった。

そういえば、お腹が少しずつ出てきて、この頃から妊婦さんらしい身体になってきたね。

***

振り返ると2ヶ月ほどのつわりとの壮絶な戦いの日々。最近妻に妊娠中何が一番大変だった?って聞くと、「一につわり、二につわり、三につわり」と返ってきた。

***10/17***

この日はこのとつきとおかの日々の中でも、ぼくにとって忘れられない1日だ。

そう、初めて妻のお腹を触って赤ちゃんの胎動を感じた日。

これまでコロナの影響で検診に付き添うことができなくて、エコーは見れず、まだお腹もそれほど大きくなくて寂しかったけど。ついに、ふと触った時に動いているのが手に伝わった。

なんだろうこの感動は。妻のお腹の中に、確かに赤ちゃんがいる。理屈ではわかっていたし、エコーの写真は見せてもらっていたけれど。とにかく嬉しくてはしゃいでた。

もこってするからこの子は「もこちゃん」。生まれるまでの仮の名前が決まった笑

もっといっぱい蹴ってええんやで!

***10/29***

妊娠20週の検診は胎児ドック。この検査で赤ちゃんに異常がないか見てもらう。

この日も例によってマクドナルドで待機する。きっと大丈夫と思いながらも、待ってる時は気が気じゃない。少し時間が経ってから、妻からLINEで大丈夫だったよと連絡が来た。

妊婦検診のたびにいつも不安になるけれど、今回の胎児ドックではなんとエコーの動画をDVDでもらえるらしい。これまで検診にいっても1枚の写真しかもらえなかったからめちゃくちゃ嬉しかった。

DVDを見る機械がなかったから買いに行っていざ上映。

20週にもなるとしっかり人の形になっていて、この世にこんな可愛い生き物がいるんか、、ってくらい可愛い!

妻と2人、何回も何回もこの子が元気であることを確かめるように見ていた。

***12/8***

毎回検診のたびに不安になっていたけれど、なんだかんだ大丈夫だった。でも、この日の検診終わり、妻の様子がいつもと違う。

どうしたん?なんかあったん?と聞くと、先生から「ちょっと赤ちゃんがミニマムだね」と言われたらしい。赤ちゃんは妊娠何週で平均何グラムというデータがあるのだけど、どうやらその平均より結構小さいと。

一気に、血の気が引くような、よくわからない不安が全身を覆っていくような気がした。

家に帰って、色々と胎児の体重がどれくらいだったら正常なのか、どれくらい離れていたら危ないのかとか調べまくった。

どうか、どうか大きくなってくれますようにと祈ることしかできない。とりあえず1週間後に再検診してもらうことになったので、そこまで1回の食事の量は少なくても、回数を増やしてできるだけ栄養を送ろうねと話した。

***12/14***

1週間後、すごい不安の中検診に。

どうやらこの1週間で増えて欲しい分の体重は増えているみたいで、特に問題はないみたい。赤ちゃんに何かあったらどうしよう、無事に生まれなかったらどうしようという気持ちがあった中、本当にホッとした。

お腹のもこちゃんに「マイペースに大きくなるんやで」と話しかける。

***12/22***

12/22。この日は僕たちにとって特別な日。

IWAIで結婚式をあげて一年後の今日、今度はIWAIでマタニティフォトを撮る。今しかない特別な瞬間を写真に残したくて。



***1/7***

30週の胎児ドック。

今回も20週の時と同じように動画をもらえるらしい。めっちゃ可愛いよと妻から言われ、急いで家に帰って上映する。

ワクワクしながら見ていると、前回の時より確かに大きくなっていて、顔もはっきりしている!もこもこと動いている様子がバッチリ映っていて、早く会いたい気持ちがますます強くなる。

そして何よりこのシーンには何回も笑わせてもらった。

(自分の足にびっくりしている顔。かわいい。)


***1/28***

妻のお腹がいよいよ大きくなってきて、ちょっと動くのも大変そう。恐れていた後期つわりもやってきたようだ。大きくなったお腹で胃が圧迫されるらしく、また食事が喉を通らない。幸い前の時よりも食べれるものは多くて、さらにぼくの料理の腕も上がってきたから?前ほど大変さは感じなかった。

最近はYouTubeで「新生児」と調べて、産まれたての赤ちゃんの1日を流す動画を毎日見ている。パパになったイメージトレーニングはバッチリやで。早くミルクあげたり沐浴したいなぁ。

***2/19***

いよいよ産まれるまで1ヶ月を切ってきた。

今日は妻が命名書を作ってくれた。この半年くらい、名前はどうしようかものすごくいっぱい話し合った。本屋さんで命名の本を読んだり、ベネッセの名前診断をしてみたり。その中で、2人でこの名前がいいと自信を持って言える名前を決めた。

名前は、親から送る一番最初のギフトだ。いつか言葉がわかるようになったとき、僕たちがどんな想いで君の名前をつけたのか伝えたいと思う。

***3/16***

妻は臨月になると毎日早く産みたいと言っていた。ぼくも毎日早く会いたいと言っていた。その想いとは裏腹に、もこちゃんはマイペースにお腹の中でのんびりしているみたい。

39週の検診で、予定日に合わせて入院してそのまま陣痛を待つことになった。

一昨日妻は入院し、予定日は昨日の3/15。

案の定コロナのせいで夫は妻を病院の入り口で見送ることしかできない。入り口で見送ってからは、家で仕事をしながらもずっとソワソワしていた。まだ連絡は来ないとわかっているのにLINEを開いたり、淹れたばかりのコーヒーを口に流し込んで軽い火傷をしたり。これまで検診でもらった写真を眺めて、君はどんな顔だろうかと妄想したり。

そんなふうに1人予定日を過ごしていたけれど、やっぱり君はマイペース。妻から明日になりそうと連絡をもらい、陣痛どう?ご飯美味しい?みたいなLINEをして広いベッドに眠りにつく。

そして、今日。朝の8時すぎ。

LINEの凄まじい着信音で目が覚める。寝ぼけながら電話に出ると、「生まれたよ」って。一瞬で目が覚める。急いで着替えて病院まで走り出す。花粉症を言い訳にランニングをサボっていたから1分で足がパンパンになる。マスクのせいですぐに息切れする。

病院に駆け込んでナースステーションに向かう。名前を告げると、朝会をやっていたたくさんの看護師さんからおめでとうございますって言われて嬉しくなる。ナースステーションで手の消毒をして、分娩室に入る前にも手の消毒をして。


扉を開けると、君がいた。

小さな小さな手に指を近づけると、力強く握ってくれた。

この感動は言葉にできないな。

生まれてきてくれて、ありがとう。












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