見出し画像

#3 生きる力を引き出すデザインを考えよう -外来化学療法室 ワークショップ編-

 第3回チア!ゼミのテーマは、「生きる力を引き出すデザインを考えよう」 。本レポートでは、ワークショップ編でフィールドワークを行った筑波メディカルセンター病院の軸屋智昭病院長、外来化学療法室を担当する看護師さんによる、がん医療の大きな動向や外来化学療法の環境を理解するためのお話をお届けします。

チア!ゼミとは?
 チア!ゼミは、医療福祉従事者、クリエーター、地域の人々、患者さんやその家族、学生など様々な背景を持つ人たちが集まり、参加者同士の対話によって、医療や福祉におけるアート・デザインの考えを深めるプラットフォームです。実践者や当事者の方に話題提供していただいた後、参加者同士で対話しながら、異なる視点や考えを共有します。多職種の方が集まって話し合うことで生まれた発想や新しい視点を、参加者のみなさんがそれぞれのフィールドに持ち帰ることで、医療や福祉環境を変えていく社会的なアクションへ繋がることを期待しています。

化学療法ってなんだろう?

軸屋 智昭/筑波メディカルセンター病院 病院長、チア・アート理事

画像1

外来化学療法の需要が高い理由
 日本人は、とっても長生きです。女性の平均寿命は87歳で、男性でも81歳です※1。世界で最も長寿な国だと言われていますね。長生きになると、がんという病気が非常にポピュラーになります。生涯でがんに罹患する確率は、男性は65%、女性は50%。平均すると2人に1人は一生のうち必ずがんになるんですね※2。これまでは、日本人の3人に1人はがんで亡くなるといわれていたんですが、2018年のデータでは、生涯でがんで死亡する確率は、男性は24%(4人に1人)、女性は15%(7人に1人)と下がっています※2。今は、心疾患、肺炎、老衰の死亡率も上がってきているんですね※3。

 がん治療の主体は、三大治療法の手術治療、放射線治療、化学療法なんです。一番古いのは手術治療、その次が放射線治療。それにちょっと遅れて、化学療法という薬物(抗がん剤)による治療が現れてきました。化学療法は、めざましく進化していて、2000年に入るとがんだけを狙い撃ちできる薬が使われるようになりました。手術治療も放射線治療も部分だけを治療していく「局所療法」なんですが、化学療法は「全身療法」と言われていて、点滴で投与することが多いです。再発の予防や病巣が複数な場合、また全身への浸潤の可能性がある場合に行われます。局所療法をやっても、その前後で全身療法は必ず加わります。なので、化学療法は、メインの治療法だと思っていただければいいと思います。そして、日本の平均的な入院の日数(一般病床)は、2000年に30.4日だったのが※4、2017年には16.5日となっています※5。入院治療が減り、外来での治療に移行しているんです。 

画像5

医療の進歩に対して不足する「環境」の考え方
 当院が茨城県地域がんセンターに指定されたのは、1999年です。そして、2003年にがん診療連携拠点病院の指定を受けています。がん診療連携拠点病院というのは、全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるように、国が指定した病院です。2019年7月現在で、都道府県がん診療連携拠点病院が51施設、地域がん診療連携拠点病院が325施設、全国にあります。筑波メディカルセンター病院は、この325施設の仲間の1つだと思ってください。手術治療、放射線治療、化学療法の3つが365日いつでも適用できるというのが、拠点病院の要件になっているんですね。

 抗がん剤の発達とともに外来化学療法の需要が大きくはなってきているんですけれども、医療の進歩に対して、患者さんの環境を考える手立てが非常に不足しています。当院の外来化学療法室は、2008年の外来棟新設の時に作られたのですが、新しい考え方の場所なので、最初は設計者も医療者も必要なことが分からなかったんですね。そこで、主に透析室を参考にしたんです。しかし、透析の患者さんとは異なり、抗がん剤の治療を受けられる患者さんたちは、点滴を受けるので、トイレに行きたくなるんです。すぐそばにトイレがなきゃいけないのに、そんなことも我々は分かりませんでした。患者さんが不快を感じないで過ごせる環境というのは、非常に大事ですし、考えていく余地があるのだろうと思ってます。

※1 厚生労働省「平成29年簡易生命表の概況」
※2 国立がんセンターがん情報サービス「最新がん統計 」
※3 厚生労働省「平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
※4 厚生労働省「平成12年(2000)医療施設(動態)調査・病院報告の概況」
※5 厚生労働省「平成29年(2017)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」

外来化学療法室ってどんなとこ?

内藤 孝子、茂垣 裕美子、常田 美紀、小泉知子/外来化学療法室 看護師

画像2

先の見えない不安に寄り添う
 抗がん剤治療は、根治を目的として手術前や手術後に行うときは、治療回数や期間が限られていることが殆どです。しかし、根治が望めない場合、患者さんは病気の進行や治療に対して先の見えない不安を抱きながら、何年にもわたり治療を続けていくことになります。そのため、患者さんや家族の方と信頼関係を築けるような関わりが大切になるのです。

 当院の外来化学療法室の病床数は、20床です。治療時間は、30分から6時間と治療内容により様々です。治療中に食事を摂られる方もいますが、共用スペースのため、においの少ない食べ物を持参していただくようにご案内しています。点滴中は、基本的に治療室内で過ごしていただきます。テレビはありませんが、本やDVDプレーヤーを持参することもできます。ご家族の方に付き添っていただくことも可能です。私たちの方でも、リラックスできるように、CDプレーヤーでオルゴール曲などの優しい音楽を流しています。治療室内のトイレは、男女兼用で1カ所のため、混雑時は待合室のトイレに案内することもあるんです。

 抗がん剤は発がん性や催奇形性の可能性があるため、私たち医療者は、暴露対策として、ガウン・マスク・ゴーグル・手袋を装着しています。

画像3

私たちが大切していること
 患者さんが安心して治療を継続していくために私たちが大切にしていることをお話しします。

 1つ目は、確実に投与することです。抗がん剤投与の順序・時間などは、治療効果や副作用の程度などに影響を及ぼすため、投与開始から終了まで、複数回、確認します。

 2つ目は、安全に投与することです。抗がん剤の治療を繰り返すことで血管がもろくなり、薬剤が血管外に漏れやすい状態になります。抗がん剤による血管への負担を軽減するため、保温庫で温めたホットパックで点滴開始前から腕を温めたり、副作用である爪障害の予防のために冷凍庫のコールドパックを使用します。患者さんにも、何かおかしいなと感じたらすぐに看護師に伝えていただくように伝えています。

 3つ目は、安心して治療を継続してもらうことです。抗がん剤の投与で副作用やアレルギーが起こることがあるため、吐き気止めやステロイド剤などを適切に使用し、症状を予防しています。患者さんは、自宅で過ごす時間が長いので、自宅で副作用が出たときに対処するお薬を確認したり、対処の方法について患者さんやご家族にお伝えしています。がん治療は長期間となることが多く、患者さんや家族が不安を抱え込まないように、一人ひとりの声を大切にして、常に寄り添い、心の支えになれるように心がけています。

画像5

プライバシーの確保と安全な治療の両立
 部屋のなかは、カーテンで仕切られたスペースとそうでないスペースがあります。プライバシーにできるだけ配慮したいと考えていますが、安全面から看護師の動きや患者さんの体調の変化を素早く把握することも必要になります。また、外来待合室に直結したドアの開閉により治療室内が見えてしまうことも課題なのです。

 私たちは、安全で質の高い医療や看護を保障しながら、「治療は大変だけど、ここに来るとほっとする」と患者さんに言ってもられるような治療環境を考えていきたいと思っています。

——————
第3回チア!ゼミ「生きる力を引き出すデザインを考えよう」ワークショップ編
日程:2020年2月16日(日)14:00-16:30
場所:筑波メディカルセンター病院 http://www.tmch.or.jp/hosp/
主催:特定非営利活動法人チア・アート https://www.cheerart.jp/
共催:筑波メディカルセンター病院、筑波大学芸術系
助成:いばらき未来基金第3回テーマ助成「アドボカシー助成」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?