見出し画像

#3 生きる力を引き出すデザインを考えよう -レクチャー編- ゲスト:中島 ナオさん

 第3回チア!ゼミのテーマは、「生きる力を引き出すデザインを考えよう」。ご自身の経験を通して、がんをデザインする活動をされている中島ナオさんを招いたレクチャー編、外来化学療法室を考えるワークショップ編を行いました。本レポートは、中島ナオさんのお話を編集してお届けします。

チア!ゼミとは?
 チア!ゼミは、医療福祉従事者、クリエーター、地域の人々、患者さんやその家族、学生など様々な背景を持つ人たちが集まり、参加者同士の対話によって、医療や福祉におけるアート・デザインの考えを深めるプラットフォームです。実践者や当事者の方に話題提供していただいた後、参加者同士で対話しながら、異なる視点や考えを共有します。多職種の方が集まって話し合うことで生まれた発想や新しい視点を、参加者のみなさんがそれぞれのフィールドに持ち帰ることで、医療や福祉環境を変えていく社会的なアクションへ繋がることを期待しています。

「がんをデザインする

中島ナオ/ナオカケル株式会社 代表、NPO法人delete C代表理事

画像1

今の自分を好きでいるために
 私は31歳でがんという病気を患いました。34歳の時に、病気が進行してステージ4という病状になりましたが、その後『N HEAD WEAR』というブランドを立ち上げ、35歳でナオカケル株式会社を設立しました。現在は通院での治療と並行しながら『deleteC』など、いくつかのプロジェクトを行っています。私がやってきたことは、今の自分を好きでいるためにできることを考えて、行動に移すことです。年を重ねて生きているとさまざまな変化が訪れると思います。自分ではどうにもできないこともたくさんあります。私は、そうじゃなかった頃の自分を考えながら生活するよりも、今の自分をスタートに置いて考え、少しでも心地よくいられるためにはどうしたらいいのかを考えてきました。

治療による脱毛をきっかけに生まれたデザイン
 ステージ3のがんが見つかり、抗がん剤による治療が始まりました。当時は「半年間の治療が終わったら、抜けた髪はまた生えてくるよ。」という主治医の説明のもと、ウィッグなどのアイテムを使いながら生活していました。けれども、がんが転移しステージ4になってからは、期限が決まった治療ではなくなりました。脱毛した状況がいつまで続くのかが分からず、もう一生髪の毛がない生活になるかもしれなかったのです。私にとっては大きな問題でした。しかし今の自分を前提にさまざまな問いを立て続けたところ、全く違うファッションアイテムができるのではないかと考えました。それが『N HEAD WEAR』が生まれるきっかけです。

 まず、コンセプトとして自分の中に強くあったのが、「髪の毛があってもなくても楽しめる」ということでした。自分の大切な物やお気に入りの物が、髪の有無で使えなくなってしまうというのは、病状や治療とはまた別に、私にとってはつらく感じられました。だからこそ、自分の変化に寄り添い、楽しみ続けられるアイテムを作りたいという思いがありました。

画像4

目指すのは眼鏡のようなアイテム
 このアイテムを身に付け始めてから、当初大問題であった脱毛が、さほどストレスではなくなりました。今では「髪の毛より自由かも」と思えるぐらいになりました。価値観や見せ方を変えてくれるデザインの力というのを、自分の経験を通して実感しています。

 構想の段階で掲げた目標でもあるのですが、目指すのは眼鏡のようなアイテムです。眼鏡はもともと視力を補う必要のある人が身に付けるアイテムでした。でも今では、ファッションアイテムとして目が悪くない人も身に付けたり、サングラスなどさまざまな種類がありますよね。眼鏡を身に付けている人が特別目立つとか、変に映るとか、視力が落ちていることに対してネガティブな印象というもないと思うんです。なので『N HEAD WEAR』が眼鏡のようなアイテムになれた時には、頭髪に対する悩みであったり、失ったものの認識自体も変えていくことができるのではないかと考えています。

 私はこのようなデザインを「QOLデザイン」と呼んでいます。衣食住の全てを対象として、心身ができるだけ心地よくいられるものであったり、その時どきの楽しみ方ができたり、変化がある時にこそ寄り添ってくれる存在となれるようなアイテムを今後も作っていきたいと考えています。

画像3

“未来”へ向けて、がんの治療研究を応援するdeleteC
 がんを患ってから生活を続ける中で、どうしても「がんを治せる病気にしたい」という思いが自分の中に強くありました。そして、日本には目立つような形で、がんの治療研究を応援するような動きが無いということに気が付きました。だからこそ、その動きを作っていきたいと思ったんです。『deleteC』では、誰もが参加できて、みんなでがんの治療研究を応援していける仕組み作りを進めています。『deleteC』のCというのは、Cancerの頭文字です。Cを消すという表現に、がんを治せる病気にしていこうという思いを込めています。例えば、『deleteC』に協賛している商品を買うと、売り上げの一部ががんの治療研究の寄付に充てられる仕組みです。

 がんは生涯でいうと2人に1人はなると言われています。そう考えた時、私は、がんに関する登場人物が少ないと感じたんです。例えば医療に関わる企業であったり、製薬会社であったり生命保険会社であったり、がんに近い企業はすでに関わっています。ですが、それ以外の企業や団体はまだまだ関わることができていません。がんは、実はみんなにとって身近な病気です。それに関わる登場人物はもっと多くてもいいし、たくさんの人が関わるようになれば、がんの治療研究を応援する大きな動きが生まれるのではないかという考えから、このような活動を進めています。

画像4

「がんをデザインする」
 がんという病気を患う中で、どのように生活や仕事をしていけるかなど、いかに社会との接点を持つことができるかが大きな悩みでした。けれども、自分ができることを1つ1つかたちにし、振り返ってみると、もう叶わないと思っていたようなことが叶っていたり、これだけたくさんの方と出会えたり。“奇跡”という言葉は、なかなか使う機会がなく、使うのにも勇気がいる言葉だと思うんですけど、この数年で使えるような機会が増えてきたと感じています。そういう言葉を使いたくなるくらいに、想像もしていなかった景色を見ることのできる毎日を過ごしています。

 『deleteC』の活動を進める中で、行動指針としてメンバーのみんなと大切にしていることのひとつに「あかるく、かるく、やわらかく」というものがあります。がんだけでなく、大きな問題や課題ってどうしても暗く、重く、固くなってしまいがちです。だからこそ、「くらいものはあかるく、おもいものをかるく、かたいものをやわらかく」を大切に取り組み、発信し、みんなで関わりながら進めていきたいと思っています。がんを患ってから、はじめはどこを取っても大丈夫と言えないような状態でした。そこから少しでも大丈夫と言える未来をたぐり寄せていきたいという思いで、生活面でも治療面でも自分のできることを進めてきました。今後も、がんが治せる病気になる日まで「がんをデザインする」ことを続けていきたいです。

——————
中島ナオ
ナオカケル株式会社 代表、NPO法人delete C代表理事。デザイナー(QOLデザイン、デザイン教育)。2014年 がんを発症。自らの体験経験を通して「がんをデザインする」ことに取り組む。髪があってもなくても楽しめるファッション&ケアアイテム N HEAD WEAR、伝統にアイデアを加えた漆の器 hitowanのほか、2020年7月には新発想のリラックスウェア「Canae」を発表。(クラウドファンディングを実施中)
WEBサイト:https://naonakajima.com
Instagram:@naojima

——————
第3回チア!ゼミ「生きる力を引き出すデザインを考えよう」レクチャー編
日程:2020年2月9日(日)14:00-16:00
場所:筑波大学東京キャンパス
主催:特定非営利活動法人チア・アート https://www.cheerart.jp/
共催:筑波大学芸術系
助成:いばらき未来基金第3回テーマ助成「アドボカシー助成」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?