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2021 映画鑑賞この一年

※2021年12月31日にCherlieInTheFogで公開した記事(元リンク)を転載したものです。


 2021年は映画鑑賞が新たな趣味となり、邦画を中心に映画館に通うことが増えました。そこで、新企画「映画鑑賞この一年」をお送りします。ことし見た映画の中から印象的な5作をご紹介します。

『佐々木、イン、マイマイン』

 それまでは年に数本程度だった映画鑑賞が趣味になるきっかけを作ってくれた作品です。役者の夢も彼女との同棲生活もうまくいかない26歳の悠二(藤原季節)が、高校時代の親友・佐々木(細川岳)との思い出を回顧しながら、主体性を回復していく物語です。

 男子高校生の友情は、仲の良さ自体がいくら絶対的であろうと他者同士の関係である以上微妙な緊張感をはらむものです。それは憧れ、プライド、同情、さまざまな感情が入り混じった緊張感ですが、ここを丁寧に描いたことによって、ホモソーシャル的な論理と一線を画して友情の素晴らしさを見せることに成功しています。

 脚本がよく練られており、悠二が取り組む(チャンドラーではなく)テネシー・ウィリアムズの戯曲『ロング・グッドバイ』のセリフが、悠二と佐々木の関係性とオーバーラップしていく構成がとても秀逸です。

 また、同棲相手ユキ(萩原みのり)とのシーンも見応え十分。序盤、夜明けのアパートのシーンは、終わりが見えているカップルの、もはや関係継続のため選択肢がない絶望的な手詰まり感がとてもリアルで、ここで心をつかまれる人も多いと思います。そして終盤の別れのシーンは、理想的で美しいものでした。

 主体性を持って自分の人生に最善を尽くすことの尊さや、その苦しく険しい道を支えてくれる過去の友情や思い出のありがたさを切々と訴える人生讃歌が本作ではないかと思います。

『花束みたいな恋をした』

 サブカルワナビーの大学生2人が偶然の出会いを経て交際、同棲し、別れるまでの4年間を描いた物語。非常に感情移入しながら見ました。学生・フリーターの間は「サブカルが好き」というより「サブカル好きな自分が好き」が前面に出ている痛々しさ程度のものだったのが、それぞれが社会人になるにつれて、ジェンダーによるキャリアモデルの違いが現実の生活に影響をもたらしていく残酷さの描写へと移り変わっています。

 本作の中で、2人はなぜ他でもないそれが好きなのかの理由が明らかにされません。なぜその作品を好きなのか、相手のどこが好きなのかが実は説得的でなく、「好き」への切実さが見えてきません。それにしてはよくもそんなに色々手を付けているなあというくらい、舞台となる2015年から2019年のサブカルキーワードがふんだんに登場していて、だから余計にすべてが「入れ替え可能」な感じがしてきます。そしてその「入れ替え可能」が現実であることを突きつけられるシーンが、ファミレスで別れ話をする2人の前に現れる、交際寸前の若きカップルなのでした。

 正直、本作を見るととことん落ち込みます。それだけに、2人が例えば浮気とか暴力のような「加害」と「被害」という構図による別れではなく、あくまで共同責任を持つ2人がきっちり話し合い合意した上で別れていくという過程を経たことに感動を禁じえません。

 なお、こうした、若きカップルの挫折を描いた物語としては他にも『猿楽町で会いましょう』『恋の病~潔癖なふたりのビフォーアフター~』も推したい作品です。

 『猿楽町』は男女が付き合うにあたり逃れがたい「加害」と「被害」の構図を描きつつ構図自体が撹乱されるシビアな鑑賞体験をもたらす映画です。『恋の病』は極度の潔癖症という共通性を持つ2人の恋愛を描くという点で、『花束』のサブカル偏愛という共通性と相似形を持ちますが、『恋の病』はもしその共通性が突然失われたら2人はどうなるのかという問いをテーマとしています。

『ひらいて』

 主人公の女子高校生・愛(山田杏奈)がクラスメイトのたとえ(作間龍斗)に恋をするも、そのクラスメイトにはすでに秘密の恋人・美雪(芋生悠)がおり、プラトニックでありながら付け入るすきのない絆で結ばれた2人の関係を前に、愛は美雪に近づいていく、という筋のお話。

 独占欲が満たされないことで暴走していく愛の行動。そうした愛を容赦なく否定していくたとえ。すべてを受け止めることができてしまう美雪。3人全員がどこかおかしくて不器用でありながら、紆余曲折を経て互いに無二の関係を取り結んでいくという、とても不思議なストーリーです。

 しかしこういう不可解、謎は青春につきものです。その不可解な青春が、3人それぞれにとってちゃんと意義のあるものへと昇華されていくのがとても感動的です。

 また、主演の山田杏奈の力量に圧倒されます。『彼女が好きなものは』にも出演していますが、この演技も素晴らしかったです。

『街の上で』

 下北沢の古着屋の店員、荒川青(若葉竜也)が彼女から身も蓋もない振られ方をして以降、青のモラトリアムな生活を描く今泉力哉監督の集大成的作品。登場人物全員がだらしなくて、でも愛らしいという、魅力的なシーンが盛りだくさんの映画です。

 青と城定イハ(中田青渚)の長尺の会話と、終盤の「全員集合」シーンが見たくて何度も映画館に足を運びました。

『ドライブ・マイ・カー』

 圧倒されました。3時間が全く長く感じませんでした。

 とにかく言葉が多い映画で、いわゆる「自然な会話」ではないのに、説得力を持ち、感情に染み入ってくるのがすごく不思議です。

 ただ、家福(西島秀俊)による「正しく傷つくべきだったのにそうしなかったので妻を失った」という総括には納得できていません。おそらく家福は正しく傷ついたところで妻を失ったのではないかと思います。死ではない形で2人は一旦は別れる運命にあったのではないかと思えるのです。深い愛情で2人が結ばれていることと、そんな2人が別れることが矛盾しないという残酷な現実を、ただ現実としてありのままに受け止めることこそが、「正しく傷つく」ということなのではないのか。みさき(三浦透子)の問いかけはそういうことだったのではないかと思います。

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