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竹内洋『教養主義の没落』など3点―読書録2015年1月

※2015年1月31日にCharlieInTheFogで公開した記事「読書録 2015年1月」(元リンク)を転載したものです。


受験で忙しいながらも,センター試験終わってから本をまとめて読みました。というわけで,今月読んだ本は3冊です。


竹内洋『教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化』


これ,2003年の本だったんですね。近年,話題によく上がるなあとは思っていたのですが,10年を超えるベストセラーってのは名著の証ということでしょうか。

とにかくこの本は内容が濃いです。昨今の内容の薄い新書の濫発を思うと,こういう本を廉価で買えることこそに新書の醍醐味があるんだよなあと改めて思います。中公新書は最近もずっと読み応えのある本を出し続けてくれていて有り難い限りです。

やはり興味深いのは,日本の教養主義(進歩主義)は都会人によるものではなく地方出身者のほうがより多く支えていたという話。旧制高校文化の「奥の院」たる文学部は,経済学部など他学部よりも地方出身者のほうが多いというデータが出てきます。そして,それは農民・武士の刻苦勉励文化の表れで,町人文化を引き継ぐ都会人とは対照的ではないか――。日本の教養主義が70年安保闘争の終焉がトドメとなって没落していった背景には,都市と農村の格差が縮まっていったことで,農村出身者の上昇志向の目標としての都市の存在感が相対的に低くなっていくということがあるのではないかという論考は興味深かったです。

あと,本筋からは離れるが,途中,文藝春秋に掲載された知的階層別趣味嗜好の一覧図があって,スポーツの欄では上級層からゴルフ,スキー・登山,野球見物,競艇と書いてあります。そこでピンと来たのは,石川達三の小説『青春の蹉跌』で秀才の主人公がガールフレンドと一緒に行くところがスキー場であることと,高村薫の小説『マークスの山』で学閥コミュニティの舞台が登山サークルだったこと。これらの小説で登場するスポーツがスキーと登山ってテキトーに設定しているわけじゃなくてちゃんと意味があったんですね。勉強になりました。

垂水雄二『科学はなぜ誤解されるのか: わかりにくさの理由を探る』

優性の法則を習った時に「優性の遺伝子だから優秀というわけではないので注意」というのをいやというほど叩き込まれた記憶があるんですが,述語としてある言葉を用いていても,一般読者はその語がもつ様々な意味合いを含めて理解してしまうことがあり,そこから誤解が生まれるというのはなるほど興味深いと思いました。

後半は進化論と『利己的な遺伝子』に対する誤解を解きほぐしていますが,ちょっとだるかったかな。

室井昌也『交通情報の女たち』

ラジオで交通情報を伝える女性キャスターたちへのインタビュー録。僕は放送マニアとしてもうちょっと放送の舞台裏みたいな話を読みたかったんですが,キャスターの素顔に焦点を当てた本だったようでそこは残念。でも,TBSラジオフリークとしては,阿南さんと白井さんの率直な思いが読めてよかったです。

あと,首都圏だけではなく他の地域のキャスターも取り上げていたのはよかったです。ただ,編集や構成は拙い本なのでそこはちょっとイライラします。


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