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あれれ?もうやってるじゃん!?《熟成庫の湿度調整》

■妄想ウイスキー『湿度調整 原酒』

前回に引き続き、私が「こんなウイスキーがあったら面白いのになぁ」と思っていたら、『もうすでにやっとるやないかい!』というお話の第2弾です。

こちら以前に、2話に渡ってご紹介した内容です。

ハンパじゃないエンジェルズ・シェア 桜尾蒸留所《戸河内貯蔵庫》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

妄想ウイスキー《熟成庫の湿度管理》と、日本のウイスキー貯蔵の多様性|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

ざっと要約するとこんな内容です。

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・桜尾蒸溜所の戸河内貯蔵庫は、山の中のトンネルに中にあって、超・多湿な環境。

・そこではエンジェルズ・シェア(天使の分け前=ウイスキー原酒の熟成中に蒸発して減ってしまう目減り分)が、0%となる!

・そんな環境は聞いたことがなく、妄想を掻き立てられる。

・バーボンなどでは、熟成庫内の温度調整をすることがあるが、理論上は湿度調整も可能ではないか?

・湿度調整で「加湿する水」にこだわることで、熟成させる原酒に「味わい」の変化をもたらすことが可能ではないだろうか?

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と思ったら、もう湿度調整をやっている人がいました。

ウイスキーの愛好家は多い国ですが、ウイスキーの生産国としては新興国。

フィンランドのクラフト蒸溜所です!


■キュロ蒸留所は「ライウイスキー」

フィンランド産ライ麦にこだわった革新的なライウイスキーで、世界のウイスキー愛好家から注目を集めるキュロ蒸留所。

ウイスキーガロアVol.42 FEBRUARY 2024 P72
発行:ウイスキー文化研究所

ライウイスキーとは、大麦麦芽ではなく、ライ麦麦芽を原料につかってつくるウイスキーです!

キュロでは、モルトウイスキーでなく、フィンランド産のライ麦をつかってライウイスキー生産をしているそうです。

それはフィンランドでは、ライ麦をライブレッドやライボリッジにして食べるので、いわば『主食』のようなもの。
「地元のライ麦からウイスキーをつくりたかった」というシンプルな理由です。

日本でお米から「ライスウイスキーをつくってみる」的な感じですね。


■ライウイスキーの本場は?

ちなみにライウイスキーの本場は、アメリカです。

もともとアメリカでは、スコットランドやアイルランドからの移民が、アメリカの東海岸に移住し、そこの環境に適していたライ麦から、ウイスキーづくりがはじまったと言われています。

その後、アメリカでウイスキーが課税されるようになると、政府の課税から逃れるために、東海岸から西部へ、アパラチア山脈を越えて、ヴァージニア州やケンタッキー州へ移住して、ウイスキーをつくり続けます。

なんか、スコットランドで「ウイスキーに課税されるようになったから、ハイランドの山奥に逃げ込んで、ウイスキーを密造した」という話と、同じパターンですね!

で、その逃げ込んだ先のケンタッキー州ではライ麦より、トウモロコシの方が環境に適した穀物だった。

そのため、トウモロコシを主原料にウイスキーをつくるようになって「バーボン・ウイスキー」が誕生したというのが通説です。

ただ現在、アメリカでは温故知新で『ライウイスキー』がブームとなっています。


■キュロ蒸留所のライウイスキーは特別仕様!

通常、ライウイスキーをつくる場合、「ライ麦100%」でウイスキーをつくることはありません。

糖化材の役割として、大麦を少量加える(10~20%程度)のが一般的です。

それも、モルトウイスキーやビールでつかうデンプンが多い「二条大麦」でなく、麦茶で有名な「六条大麦」を使います。

デンプンが多いと、得られる糖分が多くなり、最終的にできるアルコールの量が増えます。
だから、モルトウイスキーやビールでは、二条大麦をつかうことがほとんどなのです。

一方で糖化材の役割として麦芽を使う場合は、「糖化酵素力の強さ」がポイントです。

六条大麦は二条大麦よりも「糖化酵素力」が強いので、『糖化材』の役割として麦芽をつかう場合は「六条大麦」を使います。

六条大麦 vs 二条大麦|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

しかし、キュロ蒸溜所は全然違います。
二条大麦も、六条大麦も使いません。

『ライ麦100%』なのだそうです!!


■ライ麦100%ウイスキー

ライ麦100%のウイスキーは前例がありません。
そのため約2年をかけて様々なウイスキーの製法を学び、1つ1つ問題をクリアしていったそうです。

例えば、ライ麦100%だとマッシュ(ライ麦を砕いてお湯と混ぜたもの=言わばライ麦のおかゆ=ウイスキー生産の初期段階)の液体の粘度が高すぎて、普通にはマッシュが移動しないそうです。

そのため、特別なポンプを導入してそのマッシュを吸引して移動させているとのこと。

とにかく、アメリカの一般的なライウイスキーの生産とは全く異なるそうです。

なんか、そこまで主食であるライ麦にこだわっちゃうのは、ライウイスキーへの熱量がハンパないですね!


■そして本題

このチャレンジ精神旺盛なキュロ蒸溜所ですが、こんな記述を見つけました。

現在は5つの貯蔵庫で少しずつ湿度を変えて熟成を行っています。冬場と夏場で差がありますが、貯蔵庫の温度は5℃から20℃程度、湿度は60~80%で調整しています。年間のエンジェルズシェアは2.5から3%ほどになります。

ウイスキーガロアVol.42 FEBRUARY 2024 P73
発行:ウイスキー文化研究所

サクッと書いてありますが、熟成庫の「湿度調整」は、今までウイスキーを勉強してきた中で、私は初めて目にした情報です!


■イノベーションは常識を疑うことから!

日本では、その土地の『気候風土』を木樽熟成によって原酒に宿らせるために、貯蔵庫の「気温」「湿度」を調整することは、まずありません。

ジャパニーズウイスキーは、日本の四季が育むお酒。|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

でも、ライ麦100%のウイスキーをつくっちゃうくらい型破りなキュロ蒸溜所では、サクっと「気温」「湿度」の調整をしています。

「気温」「湿度」を調整した環境で熟成される原酒が、将来的にどのように評価されるのかはわかりません。

ただ、ウイスキー業界の常識に問わられずに、果敢に「チャレンジする」のは素晴らしいと思います!

見習いたい姿勢ですね!!

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